たとえば日本なら雅楽、韓国ならパンソリ、インドネシアならケチャ。”音楽” というものは、形は違えど世界中にある。そんな音楽と同じように、形は違うけれども世界中にあるもの。それは ”餃子(=皮で具を包み込んだ料理)” ではなかろうかーーそんなこじつけのもと、この企画では世界の餃子と音楽を紹介していく。
今回ご紹介するのはモンゴル。雄大な草原が広がるモンゴルは、現在も遊牧文化が根強く残り、移動式住居のゲルを拠点に家畜とともに暮らす生活が続く一方、首都ウランバートルには近代的なビル群が立ち並び、都市と伝統が共存している。食文化は自然環境と遊牧民の暮らしに密接に結びついており、肉と乳を中心としたシンプルで栄養価の高い料理が特徴的だ。
そんなモンゴルには、どんな餃子と音楽があるのだろうか? 駐日モンゴル大使館のマイツェツェグ・ツェベグドルジ(Maitsetseg Tsevegdorj)さんに、お話を伺った。

あなたの国の餃子について、教えてください。
モンゴルには豊かな餃子文化があります。餃子の種類はさまざまですが、最も一般的なのは「ボーズ(Buuz)」と呼ばれる、牛肉や羊肉、または野菜の餡を詰めた蒸し餃子です。「バンシ(Bansh)」と呼ばれる小さめの餃子もあり、これらはスープ料理に入れて食べます。
また、「バンシタイツァイ(Banshtai Tsai)」という岩塩で味付けしたヤギのミルクティーで肉餃子を煮込んだ料理は、モンゴルの無形文化遺産としてユネスコに登録されています。
餃子には牛肉または羊肉を使用し、玉ねぎ、塩、コショウで味をつけます。玉ねぎの代わりに必ずニンニクを入れる人もいて、地域によって味や作り方が異なります。
文化的・地域的な特徴や、餃子にまつわる物語はありますか?
餃子にまつわる話はたくさんありますが、特に有名なのは「モンゴル人はすべてに遅れるが、蒸し器からボーズを取り出す時間だけは決して逃さない」ということわざです。モンゴルの旧正月には、どの家庭でも餃子を食べ、各家庭で約1,000個のボーズを用意します。モンゴル人は訪れた家ごとに5〜6個のボーズを食べますが、「(たらふく食べても)次の数個を食べるスペースはいつでもある」と言われています。
周辺国や近い食文化を持つ他国の餃子との違いはありますか?
私たちは自分たちの餃子に最大限の敬意を払っており、肉はすべてオーガニックの牛肉または羊肉を使用します。餃子をジューシーに作るために、肉は包丁を使って手作業で挽きます。他国の餃子では醤油やさまざまな調味料、キャベツなどの野菜が加えられることが多いですが、モンゴルではほとんどの場合、味付けは玉ねぎと塩だけです。
都内でご紹介いただいた餃子が食べられるお店があれば教えてください。
東京の田端エリアにある「Ikh Mongol(イフ モンゴル)」というレストランで食べることができます。ここでは家庭的なスタイルのとても美味しいボーズが味わえますよ。ほかにも、東京にはいくつかモンゴル料理のお店があります。
伝統を融合させた現代のモンゴル音楽に注目
ツェベグドルジさん曰く、モンゴル人は民族音楽が大好きとのこと。餃子とともに注目したい、モンゴル人アーティストと楽曲をご紹介しよう。
まずはツェベグドルジさんおすすめのバンド、ザ・フー(The Hu)。モンゴルの伝統音楽の楽器や技術と西洋のロックを融合させた独自のスタイルで国際的な注目を集めているメタルバンドだ。2018年9月に公開されたミュージックビデオ「Yuve Yuve Yu」と「Wolf Totem」は、雄大な自然の中で馬頭琴を掻き鳴らし、ホーミーとヘッドバンギングを組み合わせたパフォーマンスで話題となり、現在YouTubeでの再生回数はそれぞれ1億回以上。「Sugaan Essena」という楽曲はアクション・アドベンチャーゲーム 『スター・ウォーズ ジェダイ:フォールン・オーダー』のために制作され、ゲーム内で主人公が初登場する場面で使用されている。
続いてご紹介するのは、エンジ(Enji)。モンゴルの伝統的な歌唱法である「オルティンドー(長唄)」とジャズを融合させた独自の音楽スタイルで、国際的な注目を集めるアーティストだ。
モンゴルの首都ウランバートルに生まれ、ゲルでの家族団欒の時間では古い民族音楽を歌って育ったという彼女。小学校の先生になるために歌を本格的に習い始めたのだが、ドイツのゲーテ・インスティトゥートによるジャズ教育のプログラムをきっかけにジャズに関心を持ち、モンゴルの伝統的民謡とジャズを融合させた独自のスタイルを確立した。
現在はドイツのミュンヘンを拠点に活動しており、2025年5月には4枚目のアルバム『Sonor』をSquama Recordingsよりリリース。ジャズのスタンダードな楽曲「Old Folks」を除き、収録曲は全てモンゴル語で歌われている。エリアス・シュテメスイーダー(Elias Stemeseder)、ロバート・ランドフェルマン(Robert Landfermann)、ジュリアン・サルトリウス(Julian Sartorius)、そしてポール・ブランドル(Paul Brandle)といった世界的に名高いアーティストらによる演奏も必聴だ。
実際に餃子を食べに行ってみた
ツェベグドルジさんおすすめのIkh Mongolは、山手線の田端駅から徒歩10分ほどの場所にある。モンゴル人のお客さんも多いようで、取材中も浴衣に身に包んだモンゴル人力士が来店していた。

「ボーズ」はシンプルな味付けの肉餡がやや厚めの皮にたっぷりと包まれており、大玉のみかんくらい大きくて食べ応えがある。蒸し立てはホコホコと湯気が上り、そのままかぶりつくと肉汁があふれてきた。

続いては、小さめの餃子である「バンシ」が入った塩味のミルクティー、「バンシタイツァイ」。ミルクティーと聞き複雑な味を想像していたが、スープはさらっとした口当たりで、味付けがシンプルなこともあってか、あっさりとした優しい味だ。そこにバンシと米が入っており、それほどクセはなく想像の何倍も食べやすかった。


世界の餃子と音楽を探して、旅はまだまだ続く。次の目的地もお楽しみに。
IKH MONGOL
住所:〒114-0012 東京都北区田端新町1-20-4
OPEN:17:00〜24:00(月曜日定休)
Photos:Soichi Ishida
Words & Edit:May Mochizuki