たとえば日本なら雅楽、韓国ならパンソリ、インドネシアならケチャ。”音楽” というものは、形は違えど世界中にある。そんな音楽と同じように、形は違うけれども世界中にあるもの。それは ”餃子(=皮で具を包み込んだ料理)” ではなかろうかーーそんなこじつけのもと、この企画では世界の餃子と音楽を紹介していく。今回取り上げるのは、トルコ。

北は黒海とマルマラ海、西はエーゲ海、南は地中海に面するトルコは、アジアとヨーロッパの文化が交差する地として、古代から多様な文明が栄えてきた。首都アンカラには近代的な都市機能が広がる一方、イスタンブールのモスクや宮殿、カッパドキアの岩石遺跡群など、歴史的建造物や遺跡が多く現存している。食文化もまたその多様性を物語っており、オリーブオイルを使った地中海料理、香辛料のきいた煮込み、パンやヨーグルトを使った素朴な料理など、地域によってさまざまな味が楽しまれている。

そんなトルコには、どんな餃子と音楽があるのだろうか? 駐日トルコ共和国大使館 文化広報参事官のサルトゥク・ブーラ・エキンジ(Saltuk Bugra Ekinci)さんに、お話を伺った。

サルトゥク・ブーラ・エキンジ参事官(画像提供:トルコ共和国大使館)
サルトゥク・ブーラ・エキンジ参事官(画像提供:トルコ共和国大使館)

あなたの国の餃子について、教えてください。

「マントゥ(Manti、マンティとも呼ばれる)」は “秘訣は指先の器用さにあり” と語られるほど手間のかかる料理。発祥地はトルコ中央部、アナトリア地方の都市カイセリです。

基本の生地の材料は、小麦粉1 kg、塩小さじ1(+必要なら卵1個)、そして水です。固くこね、15〜20分ねかせてから、1〜1.2 mmの厚さになるように伸ばし、1〜1.5 cmほどの正方形になるように切ります。生地はコシの強い小麦粉で作るので、極小に切っても形が崩れません。

そして具の材料は、赤身の挽肉、玉ねぎ、塩、赤唐辛子。板の上で練ってペースト状にしたら、生地にヒヨコ豆大をのせて、巾着状に閉じます。名人は「スプーンひと匙に40個」分を作れるとか。包み終わったら熱湯で茹で上げて、ニンニク入りヨーグルトとバター、トマト、唐辛子の熱々ソースをかけて、乾燥バジル、香辛料のスマック、ミントを振ります。

派生形として、オーブンで焼いてから熱湯へ入れる「テプシ・マントゥス(Tepsi mantısı)」、揚げ生地+オリーブ油ソース「ヤー・マントゥス(Yağ mantısı)」、保存用に乾燥させた「チョルム乾燥マントゥ(Çorum kuru mantısı)」など、さまざまなバリエーションがあります。

ひとつずつ、小さく作られたマントゥ(画像提供:トルコ共和国大使館)
ひとつずつ、小さく作られたマントゥ(画像提供:トルコ共和国大使館)

文化的・地域的な特徴や、餃子にまつわる物語はありますか?

トルコの東部アナトリア地方は小麦発祥の地であり、人類が初めて餃子を味わった可能性が高い場所とも言われます。南東部のギョベクリテペ周辺は、紀元前1万年頃は古代パン文化のゆりかごでした。

マントゥは中央アナトリアから全土へと広まりました。11世紀から12世紀にかけて栄えたセルジューク朝の隊商路で香辛料が加わり、13世紀にコンヤ王宮で「トゥトマチ(tutmaç)」として記録されています。オスマン宮廷では地方レシピを収集し、揚げマントゥや乾燥マントゥなど多彩な系譜が形成されました。

発祥の地・カイセリでは花嫁候補を「スプーンに乗る個数」で評価し、バジルを振らないと “素人” 扱いとなります。農村結婚式の大鍋マントゥは分かち合いと歓待の象徴です。現代ではミシュラン星付きレストランから外交レセプションまで登場し、トルコのガストロディプロマシー(食を通じた外交)を担っています。

周辺国や近い食文化を持つ他国の餃子との違いはありますか?

一口サイズで薄皮のマントゥは、ジョージアの大きめの餃子「ヒンカリ」や、中央アジア諸国の「蒸しマントゥ」と異なります。茹でてからニンニク入りのヨーグルトにバターとトマト、唐辛子を合わせたソースをかける点で、中国の「ジャオズ」や日本の焼き餃子とも一線を画します。数百個を手で包む作業は家族総出の儀式で、忍耐・手仕事・歓待の象徴です。

都内でご紹介いただいた餃子が食べられるお店があれば教えてください。

都内にはトルコ料理レストランが複数あります。銀座にはIstanbul(イスタンブール)、新宿にはBosphorus Hasan(ボスボラスハサン)、Üsküdar(ウスキュダル)、それから西新宿にはÇankaya(チャンカヤ)があります。それから、渋谷のAnkara(アンカラ)ではハラールトルコ料理のマントゥを、阿佐ヶ谷のIzmir(イズミル)ではエーゲ風マントゥを味わうことができます。

伝統とロックが融合したトルコの音楽に注目

1960年代末から1970年代にかけてトルコで発展した音楽ジャンル、「アナトリアンロック」はトルコの伝統音楽と西洋のロックを融合させたスタイルで、民謡をベースにしたメロディ、特有のリズムや拍子が特徴だ。餃子とともに注目したい、トルコ人アーティストと楽曲をご紹介しよう。

まずは歌手であり、TVプロデューサー、司会者、コメンテーターとしての活躍も知られるトルコの国民的スター、バルシュ・マンチョ(Barış Manço)。親日家として知られる彼は1995年には日本ツアーを敢行し、それを記録したライヴ盤『Live in Japan』は彼が生涯で残した唯一のライヴ盤だ。

「Kara Sevda」は、バルシュ・マンチョの代表作のひとつ。深くて報われない愛に苦しむ心情を哀愁ある旋律と詩的な歌詞で表現した名曲として知られており、リリースから40年以上経った今も、世代を超えて多くの人々に愛されている。

続いてご紹介するのは、テュライ・ゲルマン(Tülay German)。1964年にリリースされた彼女のデビュー作に当たる「Burçak Tarlası」は、アナトリアンロックにポップの要素を取り入れて発展させた「アナトリアンポップ」の火付け役となった曲だ。サイケデリックフォークの再評価が進む昨今、テュライ・ゲルマンの楽曲はベルリンのレーベル Zehraからリイシューされるなど、世界中のリスナーに新旧をつなぐサウンドとして響き続けている。

ガイ・ス・アクヨル(Gaye Su Akyol)は、トルコの伝統的な旋律や音楽構造に、サイケデリック、サーフロック、グランジなどの要素を融合させ、優雅で独特なボーカルを重ねるスタイルでアナトリアン・ロックを現代的にアップデートしたアーティスト。その独創的なサウンドは、国境を越えて高く評価されている。

2017年には来日し、富山県南砺市福野地域で毎年夏に開催されるワールドミュージック・フェスティバル「スキヤキ・ミーツ・ザ・ワールド」、そして同フェスティバルに出演するアーティストを東京で紹介する連動企画として東京・渋谷のWWWで行われている「SUKIYAKI TOKYO」にも出演。日本のオーディエンスにも鮮烈な印象を残した。

実際に食べに行ってみた

行ってみたのはÜsküdar。JR新宿駅南口から徒歩約3分、ビルの2階のお店だ。ディナータイムの早い時間に伺ったが、席の多くは予約で埋まっているようだった。取材をしていると(おそらく)トルコ人のファミリーや日本人のサラリーマングループなど、続々とお客さんが来店してきた。

さっそくマントゥを注文。

羊と牛の合い挽き肉が、コシのある生地に包まれていた。一口サイズのワンタンほどの大きさだが、生地の厚みや食感がそれとはまた違う。味付けはトマトと唐辛子がベースで、仕上げにヨーグルトのソースとバター、ドライハーブがかけられている。まろやかな酸味とほのかな辛味、そして生地の歯ごたえがたまらない。

世界の餃子と音楽を探して、旅はまだまだ続く。次の目的地もお楽しみに。

トルコ共和国 文化観光局

HP

Üsküdar

住所:〒160-0022 東京都新宿区新宿3丁目35−1 小宮ビル 2F
OPEN:11:30〜15:00 / 17:00〜23:00(平日)
12:00〜15:00 / 17:00〜23:00(土日祝)

Photos:Soichi Ishida
Words & Edit:May Mochizuki

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