Always Listeningの、音や音楽からみる社会。全米でも有数の規模と影響力、人気と話題性で知られる一大音楽フェス、コーチェラが今春4月に開催された。パンデミックを経て2年ぶり。今年は宇多田ヒカルの出演もあり、演者やラインアップなどのレポートを例年以上にじゅうぶん楽しめた。さて今回Always Listeningではコーチェラを「お金の動き」から見てみようと思う。

100億円が動くといわれるコーチェラで、今年はどのようにお金は計画され、流れ、動いたのか。

砂漠地帯の“音”のオアシス、コーチェラ

正式名称は、コーチェラ・ヴァレー・ミュージック・アンド・アーツ・フェスティバル。カリフォルニア州のインディオで年1回、2週にわたって開催される音楽フェスティバルだ。広大な砂漠地帯が会場という贅沢さと、大自然の中に設置された数々のステージで世界の大物アーティストたちが連日出演することから、国内外から参戦者が集まる。またセレブリティたちも常連であることが有名で、“コーチェラ・ファッションスナップ”も毎回注目を集めるほど一大カルチャーになっているのだ。新型コロナウイルス感染症の世界的な大流行が続き、2019年以来の開催となった今年は、4月15日から17日までと、22日から24日までの二週に渡って行われ、150以上のアーティストが出演。観客は1日あたり約12万5,000人を動員した。6日間となると、合計で約75万人の計算だ。3日間パスで500ドル(約6万4,000円)前後もするチケットは、かなり前倒しで完売した。

今年のヘッドライナーを務めたアーティストは、20歳で“コーチェラ史上最年少ヘッドライナー”となったBillie Eilishや、コーチェラ・デビューを果たしたHarry Styles。そしてフェス開催の1週間ほど前に出演を辞退したKanye Westに代わり、ハウスミュージックグループのSwedish House MafiaとThe Weekndが出演。他にも、過去4回グラミー賞にノミネートされたアメリカのインディーロックミュージシャン、Phoebe Bridgersや、アメリカ人ラッパーのMegan Thee Stallion、“Z世代のアイコン”を冠するポップスターDoja Catなどがステージを飾った。

経済インパクトは、NFT、YouTubeショッピング、ストリーミングでも?

アメリカで最大かつ最も収益性の高いフェスティバルの一つであるコーチェラ。2018年以降のデータはないものの、Billboardの調べによると、2017年度の収益はおよそ1億1400万ドル(約146億円)以上だったという。

人も動けば、お金も動く。そしてお金のある所には最先端のトレンドがある。今年のコーチェラでは、お金の動きにおいて「デジタルテクノロジー」がキーワードだったといえる。

YouTubeを介した買い物体験やNFTのギフト、人気オンラインゲームとのコラボなど、お金の動きの中に、最先端テックトレンドを介したサービスやプロダクトが目立った。

たとえば「YouTubeでのライブ生配信×ショッピング」。ロサンゼルスのヒップホップ・ボーイズバンド、Brockhamptonが出演中にその様子がYouTubeで生配信され、視聴者はスマホのリンククリック、またはテレビ画面のQRコードをスキャンすることで、YouTube内に滞在したままコーチェラの公式ストアからBrockhamptonのTシャツを購入することができるという新しい体験ができた。Billie EilishやオーストラリアのDJ/プロデューサーのFlumeの限定アイテムも販売されていたようだ。自宅でフェスを視聴する人々の体験を向上させるのが目的だったという。

リアルでフェスに参戦した観客には、ホットな最先端テクノロジー「NFT(非代替性トークン)」を無料で贈呈するという新しい試みも。コーチェラは、大手グローバル仮想通貨取引所のFTXと提携し、独自のNFT「In Bloom NFT」を用意。観客はこれをアプリを通してダウンロードすると、会場の入場レーンへの優先的なアクセスや、限定グッズ、フード、ドリンク引換券などの特典がゲットできた。
また、YouTubeとのコラボレーションでは、生涯コーチェラに参加できるパス(もちろん、NFTのフォーマットで)が当たるYouTubeショートコンテストも実施するなど、会場内でのお金の動きにNFTは欠かせなかったようだ。

仮想世界での仕掛けも面白い。ゲーム開発会社のEpic Gamesとコラボしてリリースしたのは、コーチェラ参加者のファッションスタイルにインスパイアされた、ゲーム「Fortnite」で使用可能な衣装アイテム(別名スキン)やアクセサリーだ。Fortniteをプレイ中に、今年のラインナップから30名以上のアーティストの音楽を聴くことができるなど、ゲームの世界と実際のフェスの世界を行ったり来たりできた。

3万6,000パーセント増。ストリーミングへのインパクト

ストリーミングサービスでも、コーチェラの経済インパクトは大きい。Spotifyが開催初日に「コーチェラのラインナップ発表がアーティストの音楽ストリーミングにどの程度影響するか」を発表。この調査によると、今年1月のラインナップ発表以降、アーティストのストリーミング数は急増し、中には、300パーセント以上増加するアーティストさえいたという(ブラジルのシンガーソングライター、Pabllo Vittar の『Trago seu Amor de Volta (ft. Dilsinho)』は350パーセント以上、カナダのシンガーソングライター、Carly Rae Jepsonの『Drive』は300パーセントほど増加)。

ラインナップ発表後の“新しいアーティストの発見”も、ストリーミングに顕著に反映された。カリフォルニア州を拠点にするスペインのロックバンドGiselle Woo&The Night Owlsの初回再生数は、3万6,000パーセントも増えるなど、アーティストのプロモーションにも大きく貢献した様子。デジタルテクノロジーを通したお金の動きが今まで以上に活発だった今年のコーチェラだが、お金は開催前からすでに動いていたようだ。

Eyecatch Graphic: Midori Hongo
Words: Hiroko Aoyama (HEAPS)