わたしたちの世界に存在するすべての物はゆらいでいます。
一見すると、規則正しく運動しているように見える月や太陽。実は少しずつゆらぎながら、軌道運動をしています。天体ですらゆらいでいるのですから、もちろん人間と動物も例外ではありません。
ゆらぎ方には種類があり、心地よさを与えるゆらぎが存在します。
それは「1/f(エフぶんのいち)ゆらぎ」。耳にしたことがある方もいらっしゃるかと思います。
五感を通して、人間だけでなく動物にも心地よさを与える、不思議なゆらぎです。
でも、1/fゆらぎを心地よいと感じるのは何故なのでしょうか?その理由を探っていきましょう。

「ゆらぎ」とは何なのか

そもそも​​「ゆらぎ」とは、一体何なのでしょうか。
「ゆらぎ」をはっきりと定義することはできないですが、ものの予測できない空間的・時間的変化や動きと考えるのが妥当です。

ゆらぎ方を表すのは周波数で、周波数を表す記号が「f」です。
ゆらぎにはいくつかのパターンがあります。聴いてみるのがわかりやすいと思いますので、代表的なゆらぎを音でいくつか紹介していきます。
まず1つ目はホワイトノイズ。予測不可能で、完全に不規則な変動をします。

ひそかに話題!ホワイトノイズとはどんな音?

2つ目はブラウンノイズ。1/fの2乗ゆらぎともいいます。
このゆらぎはある程度予測可能で、1つ前の値としたランダムな変動をします。

そして、この2つの中間の性質を持っているのがピンクノイズ。1/fゆらぎです。ある程度の規則性がありますが、不規則性も持ち合わせており、完全に予想できません。

ピンクノイズとはどんな音?ホワイトノイズとの違いとリラックス効果

1/fゆらぎの発生原因

残念ながら、1/fゆらぎが発生するメカニズムはまだはっきり解明されていません。
ですが、自然界に数多く見られる現象であり、ものの集団の動き方の根本法則のようなものらしい、ということまではわかっています。

1/fゆらぎと生体リズムのゆらぎ

我々の体で最もリズムのはっきりしているのは心臓の拍動である。健康な人が安静にしているときの心拍は非常に規則的である。がれ理央がイタリアのピサにある伽蓋のランプが振れるのを見て、振り子の当時性(振り子の振れ幅が変わっても、周期は一定に保たれるという特質)を発見した時に、ストップウォッチの代わりに脈を用いたという話があるが、この話の真偽はともかくとして、生体の営みが水晶時計のように規則的であるはずがない。そこで心拍がどのようなゆらぎをしているかを調べるために、心拍の間隔をコンピュータに取り込んで解析をしてみた。心臓の筋肉が収縮する際にそこから電流が体の組織の中に流れ出す。
この電流が肋骨の間を通って、胸や背中の表面に数ミリボルトの電位を発生する。この電位を決められた位置で測って記録したものが心電図である。心臓には心房と心室があるが、心室筋は厚いので、心室筋から電流が流れだすときに最も大きな電位の山が心電図に現れる。この波形の部分をQRSといい、Rが大きなピークをなすので、Rから次のRまでの間隔を心拍の間隔としている。
このようにして電気的に心拍間隔を測ってみると、一拍ごとにわずかながら早くなったり遅くなったりしているのが分かる。興味があるのは、遅くなったり早くなったりするゆらぎの関係である。この研究は1980年ごろに行ったものであるが、その解析結果を見て、ショックを受けた。
何とこれが、「1 /fゆらぎ」だったのである。生体内の情報伝達は神経軸索を伝搬するパルスによるいわばパルス通信であるが、ニューロンの発射するパルス間隔も1/fゆらぎをしているし、脳波に現れるα波(約10ヘルツ)のピッチも1/fのゆらぎをしているし、その後の研究で、生体のリズムは基本的には「1/f」をしていることが分かってきた。

引用元:1/fゆらぎと快適性 (<小特集>快適性向上を求めて) /武者利光

わたしたち人間に限らず動物の生体リズムは1/fゆらぎをしています。初めてこのことが発見されたのは、人間の心拍のリズム。他にも、眼球の動き方や脳波のα波の周波数も1/fゆらぎをしています。そして1/fゆらぎは、快適性と関係があることが判明しています。
つまり、生体リズムと同じ1/fゆらぎが、五感を通して脳に感知されて生体リズムと共鳴すると、生体に心地よさや快適感を与えてくれるのです。

1/fゆらぎと音楽

鳥のさえずり

緑を感じさせる川のせせらぎ。可愛らしい小鳥のさえずり。秋の訪れを知らせる虫の羽音。
心地よくしてくれる音には、1/fゆらぎをしているものが多いです。その典型的なものが音楽です。音楽の特徴は音響振動数のゆらぎ方にあります。
そして驚くことに、ほとんどすべての音楽のゆらぎは、意図せずとも1/fゆらぎと同じになるように作られているのです。

個の音楽作品にはもちろん個性がなければならないが、個性を支えている基盤としての共通性がなければ、ある種の音響振動が「音楽」であると認知されないのであろう。その共通な性質とは何かを見るためには音響振動数変動のスペクトルを調べるとよい。この場合には音響振動の波形を調べても興味ある結果は得られない。我々は波形を聴いているのではないようである。波形を一定振幅に切っても、何の音楽であるかは十分に判定できる。音楽の特徴は音響振動数のゆらぎにあるから、これを調べればよい。
実際に演奏された音楽の音響振動には特定の振動数というものはないので、定められた時間内に音圧波形がゼロになる回数を数えて、その間の平均的な振動数と考えることにする。そのようにして音響振動数ゆらぎのスペクトルを求めると、驚いたことにほとんどすべての曲は1/fゆらぎをしていることが分かる。

引用元:1/fゆらぎと快適性 (<小特集>快適性向上を求めて) /武者利光

好みの違いはあれど、わたしたちが普段楽しんでいる音楽に共通した性質があるというのは、とても不思議なことです。
中でも理想的な1/fゆらぎをしている曲は、ベートーベンの「『運命』交響曲第五番第一楽章」や宇多田ヒカルの「Prisoner Of Love」などが挙げられます。

曲の引用:1/f ゆらぎと生物に関する数理的研究

1/fゆらぎを意識してみよう

わたしたちの日常は、音以外にも1/fゆらぎが溢れています。
ゆらゆら揺らめく炎や、扇風機の優しくリズミカルな風、街中の街路樹の配置。
意識をしていなくても目に入ったり感じたりして、なんとなく心地よいと思っていたものに共通する、1/fゆらぎという性質。
心地よいゆらぎを感じた時は「もしかしたらこれも1/fゆらぎかな?」と少し意識してみませんか。そしてゆっくりと深呼吸をすれば、より心地よい気分になれるのではないでしょうか。

Words: K.3U