音源記録媒体のシェアは、時代の流れと共にレコードからカセットテープを経てCDへ。さらにデジタル音源の販売やサブスクリプションサービスの普及で、音楽はより気軽に楽しめる時代となりました。
しかしSNSの影響もあり、CD以降の時代を生きてきた、いわゆるデジタルネイティブ世代*である20代〜30代前半の若者にもレコードに魅力を感じる人が増えています。
*日本では1990年代から2000年代に生まれた世代のこと

デジタルネイティブ世代とは対照的といえる、レコードが主流の時代を生きてきた世代は、レコードにどのような魅力を感じているのでしょうか。

レコード世代が語るアナログレコードの魅力

レコードプレイヤーにレコード盤を置いている様子

レコードを再生するためには、針を慎重にレコードの上に落とさなければならないですし、レコード盤自体のお手入れも必要です。ボタン一つで再生も早送りもできるCDとは違って、手間が掛かることに新鮮さを感じます。「よし音楽を聴くぞ」と意気込んで音楽を聴くこと、ぶわっとふくらみのある音に心ひかれました。

>>デジタルネイティブ世代に聞く、アナログレコードの思い出

筆者と同じく、レコード世代もレコードの手間と音に魅力を感じているのではないかと思います。ですが、人それぞれ背景が違えば、魅力の感じ方や表現にも自ずと違いが生まれます。その違いを知りたいと思い、アンケートを取ることにしました。

レコード世代には明確な線引きがありません。オリコンのLPチャートが終了したのが1989年11月27日なので、今回はその時点で少年期*以上だった方をレコード世代と定義し、アンケート対象としました。
寄せていただいた中でも、レコードの魅力と表現が特に素敵だと感じたエピソードをいくつかピックアップしてご紹介していきます。是非多くの方々に知っていただきたいです。
*少年期は5~14歳、青年期は15~24歳、壮年期は25~44歳、中年期は45~64歳、それ以上は高年期と定義(厚生労働省資料参照)

レコードとレコード針が作るファンタジーの世界

魅力はなんと言ってもターンテーブルにレコードを乗せて、レコード針が溝に入って、音がスピーカーから出てくる瞬間です。雑音のような音から、楽曲の前奏に入る時のワクワク感は、なんとも言えないものがあります。私はハードロックを擦り切れるぐらい聴いていましたが、あのレコード針とレコードが触れるだけで、凄い音源が聴けるという不思議さは、感動でしかありません。ファンタジーです。
(ヒロミ/60代/男性)

ノイズだけど、ノイズじゃない

レコード針をレコード盤の上にそっと落とす。サー……ポツ、ポツ…曲が始まる前のノイズが好きでした。ワクワクします。曲が始まると体がレコードに吸い寄せられる感じがします。音に包まれている心地よさがありました。レコードプレーヤーの前から離れることがなかったと思います。今思えば、レコードを聴いている時だけ別の次元にいたのではないかと思えるほどです。生活音にさえ溶け込む、ノイズも含めての音楽だったのではないかと思うのです。
(ひよりん/50代/女性)

レコードはエラーですらあたたかい

レコードって、音飛びなどもなんとなく人間臭い気がします。CDなどのデジタルもちゃんと再生されない時がありますが、デジタルはどうしてそうなっているかがわからないし、エラーもなんだかおもしろくない。レコードで同じ個所が繰り返されたり、いきなり先にとんだりするのが面白いというかチャーミングというか…。子どもの頃は無理やり針を押さえたり、爪でレコードの溝を引っかいたりして直そうとしました。そういったのも今となっては思い出です。
(にい/50代/女性)

日々の音の違いを楽しめる

デジタル信号を音に変換する過程ではなく、レコード盤から音が生み出されていくというシンプルな過程が魅力的です。
経年変化によって、音の感じが変わっていくのを楽しむのはもちろんですが、その日の気温や天気などのコンディションによっても音が微妙に変化しているように感じられます。毎日音楽との一期一会を楽しめるというところがとても素晴らしいと思います。
(TK/40代/男性)

針が落ちた音が最高

90年代のクラブミュージックを主に聴いていました。アナログ盤は重いし大きさもあるので持ち運びに不向きで保管するのも場所をとり、モバイル世代とは真逆の存在。音楽プレーヤーとしては、頭出しは手動、再生時間は短く、リピートはできない。針を戻したり、B面に裏返したりと、リモコンなど無いのでその場から遠く離れることはできず、不便です。しかしながら、それら全てがレコードの愛すべき魅力であり、私のこだわりです。
(マサコロック/40代/女性)

耳に心地よい

音楽の作品を初めて購入したのと音楽を本格的に楽しむようになった原点がレコードでした。
レコードをプレーヤーにセットして、針を落としてから曲が始まるまでのほんの少しじーっという小さな音が流れている時の高揚感はたまりません。
その数年後にCDの音を聴いた時、たしかにとても綺麗な音質でしたが、高音がきんきんに聞こえてきました。
レコードしかない時代には気付かなかったのですが、レコードの持つあたたかさや心地よさにその時初めて気付く事ができました。
少しの事で傷が付き雑音が入ってしまうのがレコードの取り扱いにくい点でもあるのですが、そういった雑音もまたレコードを聴いている実感が湧くので、決して短所や欠点とは思いません。
(natsu/50代/男性)

※筆者調べ(2022年6月現在)

レコードは聴くだけではなく「体験」だ

レコードを聴く男性

レコード世代の方々も筆者と同じような点に魅力を感じていましたが、その感じ方の表現が人それぞれで、読んでいてあたたかい気持ちになりました。
「よし、レコードを聴こう」
盤面に決して触れないよう気をつけながら、ジャケットからレコードを取り出す。そっとプレーヤーにのせて、慎重に針を落とす。ぶつっという音がしたあと、ふくらみがあってあたたかな音を奏でる。
手間が掛かるけれど、心地よく包んでくれるレコード。音楽を聴くという行為だけでは終わらない「体験」なのです。

Words: K.3U