スピーカーと振動の関係とは?レコードプレーヤーの振動を防ぐためのちょっとした対策とは?レコードを再生したのにハウリングしていて素直に音を楽しめない…そんなお悩みをお持ちの方のための工夫を、オーディオライターの炭山アキラさんに解説していただきました。

「レコードは、髪の毛よりも細い音溝の振幅を、ダイヤモンドの針先で読み取っていきます。 そんな繊細な作業をやっているのに、プレーヤー全体が外部からやってきた振動で揺さぶられてしまったら、これはもう大変です。 」

スピーカーの振動を抑えるために

特に困るのは、スピーカーが起こす振動です。 レコードの溝を針が読み取って音楽信号にし、アンプでそれを増幅して、スピーカーの振動板を動かすのがレコード再生の基本ですが、スピーカーの振動が床を伝わってプレーヤーまで届き、その振動がごくわずかの時間遅れを伴って針先の振動に伝わる。 その作用が二重、三重に続いてていくとどうなるか。 スピーカーから音楽のほかに「ブー」とか「ポー」とか「キーン」という音が出始めて、それがどんどん大きくなって音楽再生どころではなくなってしまうのです。 これを「ハウリング」といいます。

ほとんどのプレーヤーには、ハウリングを抑えるための機構が備わっています。 一般的なプレーヤーには、ゴムや空気バネなどで床からの振動を切り離す「インシュレーター」タイプの脚が備わっていますし、海外製の高級プレーヤーの中には、メカニズム全体をキャビネットからスプリングで浮かせる「フローティング」タイプを採用しているものもあります。

ところで、ヘッドホンやイヤホンでレコードを楽しんでいる人は、スピーカーの振動を気にする必要はありませんよね。 そういうあなたには、レコードの再生音をもっと良くする方法があります。 イヤホンでレコードを聴いても、床の振動がプレーヤーを揺さぶるということはありませんよね。 ということはつまり、振動を遮断するタイプのインシュレーターを装備しなくても、プレーヤーは正常に動作するということです。

インシュレーターの弱点

この振動を遮断するインシュレーターというのは、プレーヤーを不要な振動から守るという大切な役割を持つ一方で弱点もあって、床の振動からプレーヤーを切り離すということは、つまり置かれているのがしっかりと安定した床であっても、そこから本体が浮いていることになります。

先に解説した通り、プレーヤーは音溝の振幅を針先が読み取って音楽信号を作るわけですから、プレーヤーがガッシリと安定していないということは、音溝を読み取ることで自らの作った振動の副作用によってプレーヤーが揺さぶられ、肝心の音楽信号を劣化させてしまうのです。

これは本当に微弱な世界の話で、音楽信号を測定しても誤差として検出されるかどうかも分からないレベルですが、不思議なことに音の劣化は耳に聴こえてしまうのです。 人間の耳ってすごいですよね。

振動を抑えるための工夫(ヘッドホンやイヤホンでレコードを楽しんでいる人の場合)

ならばどうやって音の劣化を抑えればいいのか。 気軽にできる実験としては、脚よりも背が高く、堅くて鳴きにくい素材でプレーヤー・キャビネットを支えてやるのがいいでしょう。

プレーヤーを支える素材としては、ホームセンターで売っている木製のサイコロや、陶器のぐい呑み、ガラス製のキャンドルスタンドなど、いろいろ利用できるものがあるでしょう。 また、それらの材質や形状によってもまた、レコードの音がはっきり変わりますから、いろいろ面白いですよ。

ぐい呑みを利用してプレーヤー本体を支える。 使用機種はAT-LPW50BT RW。
ぐい呑みを利用してプレーヤー本体を支える。 使用機種はAT-LPW50BT RW。
ぐい呑みを利用してプレーヤー本体を支える。 使用機種はAT-LPW50BT RW

レコードプレーヤーの脚は、ごく少数の例外を除いてネジ式になっていて、ラックが傾いていたりしても、本体を回して高さを変えることで、水平を保つことができるようになっています。 つまり、ネジを回して外すことができるのです。

もののついでといっては申し訳ありませんが、ひとつ重要なレコード再生のポイントをお話しておきましょう。 プレーヤーは、必ず水平を保って設置しなければいけません。 そうでなければ、あの繊細な針先と音溝の関係が、しっかりバランスされなくなってしまいます。 また、プラッターの軸にも長期的には悪影響を与えます。 軸受けが片減りしてしまうのですね。

それだけに、プレーヤーを設置する際には必ず水準器を用意したいところです。 ホームセンターの工具コーナーにもありますが、オーディオテクニカには「AT615a」というシンプルで見やすく場所を取らない水準器があります。 私も使っていますが、お薦めですよ。

プレーヤーを水平に設置するために、水準器を使用しましょう。
プレーヤーを水平に設置するために、水準器を使用しましょう。

さて、これは誰にでもお薦めすることではありませんが、ヘッドホンやイヤホンでレコードを楽しんでいる人の中で実験精神の旺盛な人は、純正装着の脚を外してそこへ堅い脚を据えてみてはいかがでしょうか。

脚として有望なものというと、先に挙げたホームセンター・グッズ類でもいいですが、市販品にもいろいろなインシュレーターがありますから、それらから選ぶのもよいでしょう。 金属、木材、ゴムなど様々な素材があって、そこでも結構大きく音が変わるのが面白いですよ。

ただし、この実験はヘッドホン/イヤホンでレコードを楽しんでいる人に限ります。 スピーカーで楽しんでいる人は、それこそ小さな音からハウリングが始まってしまう可能性が高く、決してお薦めできません。

振動を抑えるための工夫(スピーカーでレコードを楽しんでいる人の場合)

それでは、スピーカーでレコードを楽しんでいる人向けの話題へ移ります。 まず、ハウリング・マージン(ハウリングの起こりにくさ。 ハウリングが起こり始めるボリューム位置と常用音量の比較で求める)を測ってみましょう。

やり方は簡単です。 まずボリューム位置を最小にしてからプラッターを回さずに針を盤面へ落とし、徐々にボリュームを上げていきます。 ボリュームをいっぱいまで回してもハウリングが起きなければ優秀、常用音量よりボリューム位置にして90度くらいマージンが取れていれば実用範囲といっていいでしょう。

スピーカーでレコードを楽しんでいる人の中で、大した音量でもないのにハウリングが起こって悩んでいる、という人はおられないでしょうか。 それには、幾つかの可能性があります。

まず、一番簡単だけれど意外とやってしまいがちなのは、プレーヤーとスピーカーを同じ棚板へ置いていないかということです。 頑丈な分厚い板の上なら意外と大丈夫な場合もあるのですが、特にオーディオを置くように考えられていないサイドボードなどは、ギリギリの強度で作られていることがままあり、そういう棚はむしろスピーカーの振動を共鳴させて増幅し、プレーヤーへ影響を与えることが珍しくありません。

そういう場合はどうすればよいのか。 実もフタもないことを申し上げれば、スピーカーと同じ棚板からプレーヤーを救出してやることが最高の解決策ですが、他に置く場所がないという人も少なくはないことでしょう。

こうなったら、プレーヤーを付属インシュレーターよりも柔らかいもので浮かしてやらなければなりません。 市販のフローティング式オーディオボードは、プレーヤーを載せられるくらいのものを買おうとすると10万円以上かかってしまいますが、まぁそれらを導入すれば間違いはありません。

ご予算的にちょっと……、という人はオーディオ用ではないグッズから使えるものを探しましょう。 私もいろいろ実験していますが、自転車のチューブや軟式のテニスボールなどが、ハウリング・マージンを稼ぎやすいようです。

軟式テニスボールは転がらないようにストッパーを工夫しなければいけませんが、100円ショップなどで適当なものが見つかると思います。

自転車チューブはあまり部屋へ置きたくないルックスですが、これを封入できる箱を自作できる人には薦められるものです。 前述した堅い脚と同様、インシュレーターによっても音質傾向は違い、チューブは肉太で力強い音がするんですよ。 それに、空気圧によって音がずいぶん違いますから、チューニングの幅が広いグッズともいえますね。

それでもはハウリングが起きてしまうのであれば

一方、スピーカーとオーディオラックは独立しているのに、やっぱりハウリングがひどいというシステムも、少数ながら存在します。 この場合最も可能性が高いのは、オーディオラックのどこかにスピーカーが接してしまっていることです。 これなら、接触している箇所を離してやれば万事解決です。 お恥ずかしい話ですが、若い頃の私もこれをやらかしたことがあります。

スピーカーとラックが接してもいないのに、やっぱりハウリングが強いという場合は、もしあなたのプレーヤーが古いものなら、インシュレーターの劣化が強く疑われます。 プレーヤー付属のインシュレーターはゴム製が多く、歳月の経過に伴って硬化してしまったり、ひどい場合はカップ型のゴムが変形して役に立たなくなっていたりすることがあります。

そういう場合はインシュレーターの交換が必要ですが、メーカーに補修パーツが残っていない場合は、やはり市販オーディオボードやテニスボール、チューブなどで工夫する必要が出てきますね。

インシュレーターが健全で、なおハウリングが大きい場合は、稀な症例ですが、スピーカーとラックの位置関係が偶然共振を起こしやすい場所に当たっている、ということが考えられます。 ラックをほんの10cmも動かしてやると劇的に改善することがありますから、もし移動が可能なら試してみる価値はあります。

長々と書いてきましたが、それだけハウリングはレコード再生の大敵なのです。 皆さんも上手く養生して、快適なレコード・ライフを楽しんで下さいね。

Words:Akira Sumiyama