リアルタイムでレコードに触れてきた世代に限らず、近年はCDやデジタル音源で音楽を聴くのが当たり前な世代にも、レコードの魅力が認識されています。
いわゆるデジタルネイティブ世代*である、20代〜30歳前後の若者たち。彼らはレコードにどのような思い出があるのでしょうか。

*日本では1990年代から2000年代に生まれた世代のこと

かくいう筆者もデジタルネイティブ世代です。音楽はCDで聴いていました。
小学校3年生の時、実家の押し入れで古くて大きな段ボール箱を見つけました。開けてみると、そこには大量のLPとEPが。
ホコリをかぶった古い箱の中から出てきたレコードたち。筆者が生まれるずっと昔からあるものが目の前にあるというのが不思議で、きらきらとした宝物の様にも思えました。
実際にレコードを目にするのは初めてでしたし、古い喫茶店や祖母の家の物置にあるイメージを持っていたので、こんなに身近にあるとも思っていませんでした。
家にあったレコード再生機器は安価なモノラルのレコードプレーヤーでした。慎重に針を落として、ぶつっと音がした後に音楽が流れ始めた時の驚きと感動は、今でも鮮明に思い出せます。

特に記憶に残っているのは、久保田早紀の「異邦人」です。一度聴いたら忘れない、中東を思わせるエキゾチックで印象的なイントロ。世界観に魅了されました。
それから昭和歌謡を中心に、レコードで様々な曲と出会っていきました。音楽に限らずファッションや物の嗜好も影響を受けて、周りの同級生と全く話が合わなくなったことも、今となっては良い思い出です。

デジタルネイティブ世代とレコードの思い出

筆者にとってレコードの思い出は、現在の自分を形作ったルーツでもあります。
では他のデジタルネイティブ世代の若者は、レコードを聴くのだろうか。聴くとしたらどのような思い出があるのか。どんな出会いをしているのか。
彼らのレコードとの思い出を探りたいと思い、レコードの思い出をデジタルネイティブ世代を対象にアンケートを取りました。
それでは、彼らのレコードにまつわる思い出を覗いていきましょう。

初めてのレコード

私のレコードの思い出は、父親との思い出です。私の父親は元からレコードを持っており、私が子どもの時からレコードをヘッドホンで聞いていました。
ある日の朝目を覚ますと、父親がいつものようにレコードを聞いていました。起きた私に気が付いた父親が、ヘッドホンを私に着けてきました。
流れてきた曲は、松任谷由実の「やさしさに包まれたなら」でした。
私はその曲を知っていたし聞いたこともありましたが、レコードの高音質で聞いたのは初めてで、その音質の良さに子どもながらに感動しました。
(りんりん/20代/女性)

特別な場所でしか聞けない高揚感

親と一緒に行ったバーにジュークボックスがありました。私はレコードすら聴いたことがなかったので、とてもワクワクしたのを覚えています。
その時はお酒を飲めなかったので、ジュースを飲みながらレコードが回る様子をずっと眺めてました。ジュークボックスがピカピカ光るのと少し古めかしい音が当時はおもしろくて、外国の曲なんて聴いたことがなかったのですが、曲が終わるたびに100円頂戴!と親にせがんだ記憶があります。
(しー/20代/女性)

音にのせて思い出を蘇らせる円盤

祖母の家に行ったとき、母親が昔に購入したレコードが大量にあった。
母は好きに聴いていいと言うが、自宅にレコードプレーヤーはなかった。
中古で買おうか考えているときに、引き出物のカタログにレコードプレーヤーがあったので、何かの縁だと思い選択。
届いたレコードプレーヤーはお世辞にも高価な品ではなかったが、立派な音を奏でてくれた。
母親の思い出話を聞きながら珈琲を飲んでいると、父親がやってきて思い出話が盛り上がっていった。
私にとっては喫茶店で聴く音と変わりなかったが、両親にとってはレコード一枚に様々な思い出が詰まっていて、それが音に乗って蘇るんだなと思った。
(珈琲を一杯/20代/男性)

父の背中を思い起こすレコード

物心ついた頃から、両親の寝室に大瀧詠一の「カナリア諸島にて」のレコードが1枚だけ壁に飾られていました。
大瀧詠一が好きな父が発売当時購入したものだと話してくれ、1度だけレコードをかけてくれました。私がまだ幼稚園生の頃です。
父は自営業で仕事が忙しく出張ばかりで、1か月に数回ほどしか顔を合わせたことがないくらいでした。
私が小学校の宿題で将来の夢について作文を書いていた時、たまたま家にいた父が「パパは将来レコードを聴きながら1日過ごせるようなおじいちゃんになりたい」と少し疲れた笑顔で言っていたのを今でも覚えています。
月日は巡って今から3年前に私が結婚して実家を出たことを機に、父は少しずつお店を畳む準備をしながら、私が使っていた部屋をオーディオルームに変え始めています。
先日実家に帰った際に入らせてもらいましたが、今まで物置に積まれていたレコードが綺麗に整頓されて棚に収まっていました。
そして壁にはあの「カナリア諸島にて」のレコードが飾られています。そのレコードをしみじみと眺めていた私に父が一言「聴いていくか」と嬉しそうにレコードを流してくれました。
二十数年ぶりに聴く温かな歌声は当時の多忙な父の背中を思い起こし、じわりと胸に込み上げてくるものがありました。私たち家族のために働いてきた父の将来の夢が、もうすぐ叶いそうです。
(あやりん/20代/女性)

父の背中を思い起こすレコード

ある日テレビから流れてきた音楽が気になって、父に尋ねたことがありました。父は嬉しそうにプレーヤーの前に私を連れて行き、一枚のレコードに針を落としました。「ブツッ」と言う音のあとに聞こえてきた、スモーク・オン・ザ・ウォーターのイントロの衝撃は今でも忘れる事ができません。この出来事が私の原体験だったと思います。この衝撃がなければ、ロックを、音楽を好きにならなかったかも知れない。小2の秋に出会った「マシン・ヘッド」が私の人生を豊かにしてくれました。曲が始まるとほぼ同時にエアギターで熱唱し始めた父にもびっくりしましたが、それも含めて大切な思い出です。
(いかめろん/30代/女性)

※筆者調べ(2022年6月現在)

レコードは世代の垣根を越える

今回ご紹介してきた、私たちデジタルネイティブ世代のレコードの思い出。
いずれもリアルタイムでレコードを聴いてきた親との思い出でもありましたね。レコードは世代の垣根を超えて思い出が共有されていくツールにもなるのです。
あなたにも、レコードの思い出はありますか。たまにはその思い出に耽りながらゆっくりレコードを聴く時間を作ってみてはいかがでしょうか。

Words: K.3U