(※企画・取材・執筆・編集を2020年の夏に行った記事となります)

店での会話と手で触れて音楽を確かめることが醍醐味だったレコードショップは、ロックダウンの間、店を開けず、コミュニティに会えない間、どうしていたんだろう。

街が静まりかえり、みなが店を閉めていたこの時期、レコード屋たちはそれぞれ何を考え、それぞれどう“レコード屋”を続けていたのか。ニューヨークのレコード屋を訪ね、その日々とリアルを聞く(1店目はこちらから)。

3年間の会話をもとに、Instagramでレコード販売。会えない間もコミュニティとのやり取りを繋いだ Limited To One

「ニューヨークで行くべきレコード屋」系のリストには必ず載る人気店や老舗店が多く立ち並ぶのが、マンハッタンきっての文系地区イースト・ビレッジ。3年前、このレコード激戦区に仲間入りした一際小さなレコードショップが、Limited To Oneだ。

「すべてのレコード屋には、それぞれ特徴があるじゃない? たとえばソウルや70年代ミュージックが欲しいならStranded Records。新作や1ドルで買えるレコードが欲しいならAcademy Records。体をかがめて無心で掘りたいならA1 Record Shop、ってな具合に」

お香のいい匂いが漂う半地下の店内で、お気に入りの1枚にゆっくりと針を落として話すのは、店主のKristian Sorge。店とは別で、8,000枚にも及ぶ個人コレクションを持つ無類のレコード好き。そんなKristianが始めたレコード屋の特徴は、イースト・ビレッジでは珍しくパンク、エモ、ハードコア、インディーズ、DIY中心のレアなレコードも取り扱っていること。それゆえ決して安価ではないが、ティーンから年配までのパンクヘッズからジャズ愛好家まで幅広い層からの信頼を得ている。

これまでバンドやレーベルとコラボしたレコードの限定販売や物販を行ったりと、地元客はもちろん、アーティストたちとの関わりも大切にしてきたLimited To One。パンデミックの影響でお店のシャッターを一旦クローズしなければならなかった期間、Instagramでレコード販売を始めたら「投稿したレコードの80パーセントは数分以内に売れていく」と絶好調だったらしい。パンデミック中の店主の過ごし方や、インスタ・レコード販売の裏話、再開したお店についてなどを話してもらった。

Kristian Sorge
Kristian Sorge

Kristianはもともと映画業界で働いていたとのことですが、音楽のバックグラウンドはあるんでしょうか。

うん。といっても映画学校に通っていたときに、90年代のオルタナティヴ専門ラジオ局とパンクロックのレコードレーベルでインターンシップをしていたくらい。でも、昔からスポーツや車には目もくれず、ずっと音楽一筋。常にいろんなジャンルのレコードやCDが部屋に山積みだった。歌ったり演奏したりは苦手だったけど、音楽を聴く耳だけはよかったんだよね。だから僕の特技はいつも、人に良い音楽を勧めることなんだ。

その特技を活かすべく、3年前に念願のレコード屋を開店。レアなレコードを取り扱っているとのことですが、客層は?

コレクターやレコード愛好家が多いけど、ティーンのパンクヘッズもいればジャズ愛好家だっている。もちろんレコード初心者もね。

かなりバラバラで幅広いお客さんたちに愛されているんですね。そんななか、突然のパンデミックで一時閉店を余儀なくされてしまった。

クローズした当初は収入がまったくなかったから、お店の危機を感じたよ。どうにか存続させるため、初のオンライン販売に乗り切ったんだ。

棚に並ぶレコード
積まれたレコード
ジャンル別に並ぶレコード

逆にこれまでオンライン販売をしていなかったのが驚きかも。

オンライン販売を避けていたのは、「Limited To Oneに行かなきゃ買えない」という付加価値にこだわっていたから。これまでも多くのお客さんに「オンライン販売はしないの?」と聞かれていて、需要があることはわかっていたんだ。オンライン販売は、絶好調。投稿したレコードの8割は数分以内に売れる。クレイジーだよね。僕が投稿すると、フォロワーに通知がいって、みんな即座にDMしてくれる。 自粛期間中はみんな家でスマホを触っていたこともあって、購買層もこれまでより広がったよ。

インスタのレコード投稿、見てみました。レコードジャケットの写真に、アーティスト名、アルバム名、値段だけの表記、潔い。たとえば、AFI(00年代ゴシックロックバンド)のレコードのコメント欄は「え!6分しか経ってないのに売れちゃった…」「すげえ、これ! まだ手に入れてないやつだ…」などのお客の悲痛の声(笑)が。レコードの価値を表しています。これは売れる、みたいな確信や鑑識眼があったり?

これまで3年間、お店でお客さんとの関係をじっくり培ってきたおかげで、彼らがどんなレコードを欲しているのかがだいたいわかるんだよね。自分のなかで構築されたアルゴリズムがあるというか。あと、僕自身コレクターだから、彼らの求めているものが掴みやすい。

よくオンライン販売は、投稿する商品写真の良し悪しが売れ行きに左右すると聞きますが。

写真には、レコードの状態をできる限りしっかりと写すことが大事。レコードが珍しい色だったりジャケットデザインが特殊だったりする場合は、特に。見た目がいいだけで売れることだってあるからね。

ジャケ買いはオンラインでも健在。ちなみに閉店中、店主自身はなにをしていたんです?

みんなと同じように、オンラインでレコードを買い漁っていたよ。 自分用とショップ用に。でも、ほとんどが自分用。

笑。

正直ね、3ヶ月の休暇があってよかったとも思っているんだ。しばらく聴いていなかったレコードを改めて聴く時間ができたしね。

Instagramでの販売以外にも、Patreon(クリエイターとファンを繋ぐ会員制プラットフォーム*)を通しても、レコード販売したり、Spotifyのプレイリスト作成やTシャツ販売もしていましたね。

*5ドル(約500円)から200ドル(約2万円)までの値段別に、キュレートされたレコードが届くメンバーシップ制のサブスクリプション(5ドルはプレイリストが届くというバーチャル仕様)。

Patreonは店の存続の大きな助けになったよ。僕1人ですべてのレコードをキュレーションして箱詰めする作業は、とても時間がかかった。でも受け取ったみんなに喜んでもらえるよう、必要以上の枚数を入れちゃったりもした(笑)。Tシャツの他にも、仲の良いバンドのメンバーにポスターをデザインしてもらったり、ピンを作ってもらったりもしたよ。

Limited To Oneのトートバッグ
Limited To One店内
店内にいるKristian Sorge
レコードをディグる様子
レコードを手にするKristian Sorge

そういえば、Instagramではストーリーの質問機能を使ってフォロワーと積極的にコミュニケーションを取っていましたね。「いままで見たなかで最高のジャケットは?」や「最もギルティープレジャーなレコードは?」といった質問に答えつつ。

お客さんやフォロワー、つまりコミュニティとのコミュニケーションこそ、100パーセント大切。高価なレコードが売れるより、お客さんが嬉しそうにしているのを見る方が良いじゃない。

90年代後半だったかな、当時通っていた小さなレコ屋の店員が、僕の名前と音楽の好みを覚えていてくれてさ。嬉しくて何度も通った。この店も自分が行きたいと思える店にしたかったから、お客さんとのコミュニケーションは絶対に欠かさない。直接会えなかったパンデミック中は、インスタのDMやコメントをすべて読んでいたし。

いま、お客さんはどれくらい戻ってきているんですか。

60パーセント、かな。まだまだコロナを警戒して外出を控えている人は多いからね。だからいまも週に1回だけインスタ販売を続けているよ。たとえば金曜日に入荷があったとすると、まずは入荷の告知をInstagramに投稿するんだ。あくまで入荷告知ね、この時点では注文は受け付けない。月曜になっても店頭に残っていた場合のみ、Instagramで売る。 金、土、日は、店に直接足を運んでくれるお客さんのために、取っておいてあげたいんだ。

店内を眺めるKristian Sorge

Limited to One Record Shop

2017年にオープンした、マンハッタンのイーストビレッジにあるレコードショップ。パンクやエモ、ハードコアなどのジャンルを中心にレアなレコードを取り揃えている。アーティストやレーベルともコラボレーションし、限定盤のリリースなども積極的におこなっている。

221 E 10th St, New York, NY 10003

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Words : Yu Takamichi(HEAPS)
Photos: Kohei Kawashima