効率性と安全性を求め、あらゆる物事のデジタル化が進む昨今。 その一方で、足りなくなってしまった「手触り」に飢えたZ世代の間でもレコードの需要が高まっており、80年代の盤が再発されたりと人気が再燃。 「アナログ」が改めて評価されている。 先日、日本橋兜町でゆるりとスタートした「針J」企画のスピンオフとして、東急プラザ銀座5Fの空間「Space Is the Place」(現在は閉店しております)にて、じっくりとアナログの音に耳を傾けてみる。 セレクターは水原佑果さんと垣畑真由さん。

今回持ち込んだカートリッジ

VM510CB
エントリー機種。 針先が円錐形状で方向性がないので、多少セッティングが甘くても、安定した再生音が得られる。

VM520EB
「AT-LP7」に標準搭載。 トレーシングする際の歪みを低減し、正確な情報を引き出す接合楕円針を採用。 豊かな高音質を実現する。

VM750SH
シバタ針(=4chレコード対応のラインコンタクト針)を採用しており、ラインコンタクト針らしい情報量の多さが魅力ながら、骨太な低域表現が魅力。

VM760SLC
SLC(=特殊ラインコンタクト)を採用しており、シリーズ中、最も情報量が多く、高精細な音質。

アルゴリズムからの解放、という人間最後の意思表示。

Space Is the Place

サウンドバーガーの体験記事から引き続きですが、レコードという存在について、もう少し詳しくお聞きしたいです。

垣畑:いまの若い世代の人たちって、音楽を“買う”っていう感覚があまりないので、作品に対してどうリスペクトをもって良いのかわからない環境にいると思うんです。 自分(のさじ加減)でレコードを買うことで、どこまで作品にお金を出せるかという判断力と、作品を自分の手元に持つことで、熱意をもって音楽を自分のモノにしていく感覚。 その両方が養われます。 ストリーミングではいくらでも同じ音源をリピートできるけれども、レコードが傷つかないように丁寧に扱うことで、音楽を大切に聴こうという姿勢も生まれますしね。 レコードって、そういった態度のためのツールなんですよね。 音質だったり、音の温かみももちろんありますけど、それこそがレコードの良さ。

水原:みんな、アルゴリズムから解放されたいんですよね。 好きな曲を何となくランダムにライクしていくと、徐々にAIが傾向に合う曲を提案してくれるけど、そこに抗いたくなる(笑)。 やっぱり気に入った曲を自分でレコードで買って、それを家に持ち帰って音楽に没頭するっていう時間が好きですし。 時間をどう費やすかをしっかり考えたいというか。

ストリーミングだとアーティスト名とか全然覚えられなかったりしますよね(笑)。

水原:いまレコードに流れ込むのって、どんどんデジタル化して情報が加速していく社会に対して、自分の意思を提示する反応だったりするのかなって思っちゃいます。

垣畑:案外、自然な反応かもしれませんね。 デジタルに抗う人間の最後の意思表示がそこに表れてきているのかも。

水原:聴きたい曲を自分で選んで聴くという当たり前だった行為が、便利さを追求し過ぎたことで、逆に新鮮な行為になってしまっていますよね。 曲を聴くスピードもレコードとストリーミングでは全然違う感覚がありますし。 レコードって、聴いているとひとつの曲の中でも好きな部分が見えてきたりするじゃないですか。

垣畑:最初はあまり好きではなかったけど、投資した手前悔しくて、聴いているうちに好きになるパターンもあったり(笑)。

水原:でも、ビートルズのレア盤とかがすごく高かったりするけど、10万円とか出せるのは本当にすごいなって思います。

垣畑:私は査定する側なのでわかるんですけど、マトリックス・ナンバーとかプレス時期(この年からプレスする人が変わったりとか)や会社の違い、クレジットや音質には直接関係のない小さな違いに価値を見出すコレクター魂というか、お客さんの意地みたいなものもあるんですよ(笑)。 もちろんUK盤とUS盤の音の違いもありますけど、最近はその気持ちもわかってきていて。 ひと通り集め終わってから、私もそっちの世界に行ってみたいなって。

ありがとうございます。 「デジタルに抗う人間の最後の意思表示」が音楽、レコードの選択ってとても良い話ですね。 素晴らしいパンチラインが出たところで、そろそろレコードを聴きましょうか。

垣畑:じゃあ、私から。 フェアポート・コンヴェンションをかけてみますね。 まずは、正確な情報を引き出してくれるという「VM520EB」の針からはじめてみます。

Space Is the Place

~「VM520EB」のカートリッジで試聴 フェアポート・コンヴェンション「Matty Groves」~

Space Is the Place

垣畑:あ〜、やっぱりレコードの音って気持ち良いですね。 これで針を換えて聴いていくということですか?

水原:同じ曲を聴き比べていかないといけないんですよね。 いきなり一番ハイエンドな針に交換してみます(笑)?

垣畑:これでもし違いがわからなかったらどうしよう(笑)。

Space Is the Place

~「VM760SLC」のカートリッジで試聴 フェアポート・コンヴェンション「Matty Groves」~

Space Is the Place

垣畑:え、すごい!? 全然違う。

水原:Wow すごい!

垣畑:こんなに違うんですね。

水原:良いなぁ〜(笑)。 聴きやすいし、気持ち良いね。

垣畑:これはすごい。 スピリチュアル・ジャズとか聴き比べたら良さそう。

水原:じゃあ、次は私。 一回どんなものなのか、ちょっと曲を変えてYMOかけてみよう。

Space Is the Place

~「VM760SLC」のカートリッジで試聴 イエロー・マジック・オーケストラ「Absolute Ego Dance」~

Space Is the Place

水原:音が図太いな!でも、パワーがあるのにクリア。

垣畑:シャープっていうか、ソリッドな感じがするね。

水原:うん、ソリッドだね!

垣畑:ドラムが結構前に出て来てる感じ。

Space Is the Place

水原:さっきの針と比べると、各パートの音が際立っている気がします。 さっきは全パートが一斉に向かってきた印象だったけど、この針に換えたら、それぞれの楽器が不思議とクリアに聴こえてくる。

垣畑:わかる。 洗練された感じというか。

水原:ちょっと、エントリーモデルの「VM510CB」の針に換えて聴いてみてもいいですか?

~「VM510CB」のカートリッジで試聴 イエロー・マジック・オーケストラ「Absolute Ego Dance」~

Space Is the Place

垣畑:あ〜、なるほど。 また全然違いますね。

水原:これはこれで良い! 個人的にはこっちの方が好きかも。

垣畑:結構音が変わってはいるけど、好き嫌いって感じですよね。 柔らかくて繊細な方か、ゴツゴツとした硬質な方か、みたいな。 どんなレコードを持っているかにもよるかもしれないですね。 ジャンルというか。 どの針がどのジャンルに向いているのかっていう話になるのかな。 どんどん可能性が広がりそう。

水原:こっちの方が繊細な気がします。 ずっと聴いているならこっちかも。 普段使いとしては。

おふたりがはじめて買ったレコードって何なんですか?

【Part.02へ続く】

カートリッジ

VM型(デュアルムービングマグネット)ステレオカートリッジ

Space Is the Place by Face Records

Space Is the Place

現在は閉店しております

Words: Jun Kuramoto(WATARIGARASU)
Photos: Hinano Kimoto