都市生活者にとって、バードウォッチングは自然と結びつくための最良のアクティビティになり得るかもしれない。自然のなかに身を委ねる。そんな時間に価値を見出すことが多い現代の人々へ、 “もっと気軽に自然と触れ合ってほしい” という想いのもと、音楽、フード、ビジュアルアートなどの分野を跨いだコンテンツが詰め込まれた「Spring Migration」というイベントが企画された。

春の訪れを告げる春分の日に都市型自然体感イベントを実施したのは、ロンドンの有色人種(POC)コミュニティを中心に立ち上がったバードウォッチング・コミュニティ「Flock Together」の東京支部担当としても活躍する、オライオン・ジョンソン(Orion Johnson)さん。

鳥の鳴き声という、自然界の音ゆえのHi-Fiサウンドにも応えるヘッドホン『ATH-WP900』をイベントブース内に携えた本イベントでは、都市生活者こそ備えたい身近な自然を感じとることのできる審美眼を磨くためのティップスが落ちているはず。そんな想いでバードウォッチングの魅力について触れながら、会場となったWPÜ HOTEL SHINJUKUのイベントスペースへと足を運び、オライオンさんにインタビューした。

マイノリティなコミュニティがハブとなり、多様性を生んでいく。

まずは、今回のイベント「Spring Migration」を企画したオライオンさん自身のことについて教えてください。

生まれはニューヨークで、学生時代から勉強していたグラフィックデザインを活かして、フリーランスのデザイナーとして2年間ニューヨークで仕事をしていました。

ところが仕事が思うように軌道に乗らず、気分転換に場所を変えてみようと、2016年に拠点を日本へ移したんです。

なぜ、新たな拠点に日本を選ばれたのでしょうか?

母が日本人なので、日本のパスポートを持っていたんです。ニューヨークでは日本語をあまり使ってこなかったというのもあって、大学生のときに少し勉強をしてみたら、ちゃんと日本語を学びたいと思いはじめて。それが東京で暮らすようになった大きな理由ですね。

日本に来て最初に就職したのはグラフィックデザインの会社だったのですが、いざ拠点を移してみると、東京には面白いグラフィックが溢れていた。ストリートウェアのグラフィックデザインにも興味があったので、毎日がとても刺激的だったんです。

当初は日本が肌に合わなかったらすぐにニューヨークに帰ればいいやと思っていたんですが、気づけばあっという間に10年経ってしまって(笑)。

ニューヨークの街は、グラフィティをはじめ、さまざまなミューラルアートに囲まれていますよね。東京のそれとはまた異なる印象だったのではないでしょうか?

父が日本文化が大好きだったというのもあり、80年代から何度も日本に渡っていたんですよ。僕もその影響で、日本にはシンプルだけどミニマルでクラフトマンシップに溢れたモノづくりの文化があることは知っていたんです。

ニューヨークはもっとラフな感じじゃないですか。生々しくて、迫力があるというか。当然そういった良さも理解しつつですが、日本の美意識のようなものに惹かれたところはありました。日本は全体的にレベルが高いですし、やっぱり世界で一番センスがいい国だと思いますよ。

現在はグラフィックとはまた違う領域の仕事をしていますが、フリーランスで会社のコンサルティングやイベントプロデューサーとして、さまざまなイベントの企画、海外アーティストのアテンドなどをしています。

ところで、今回のイベント会場となっているWPÜは、仕事の一環でお知りになったのでしょうか? この部屋はラジオ番組「Room 303 Radio」のブースですよね。

WPÜを知ったのは、東京のナイトライフで出会った人たちの影響です。みんな若くて面白いメンバーが働いているので、自然と一緒にイベントをやろうという話になって。Room 303 Radioのメンバーも僕のまわりにあるDJコミュニティとは繋がっているので、まだちゃんとお会いしたことはないんですが、もちろん知っていますよ。

ここでは、東京に点在しているコミュニティ同士がくっついていくような感覚を覚えることができますし、単にホテルとしての機能だけというのではなく、音楽やさまざまな文化の発信拠点になっているところに共感がもてますよね。

今回企画されたイベント「Spring Migration」についてお聞きしたいのですが、その前に、オライオンさんはバードウォッチング・コミュニティ「Flock Together」のメンバーでもあるんですよね?

そうですね。Flock Togetherはロンドンからはじまったバードウォッチング・コミュニティで、以前からずっと山登りが好きで、何か趣味として一緒にできる小さなアクティビティを探していた僕にとって、ちょうどいい機会でした。

コロナ禍でロックダウンが緩和された2020年の夏というのは、Black Lives Matter(以下、BLM)の抗議デモが世界中でムーブメントとして起こっていたころ。以降、ロンドンで有色人種(Person of Color、POC)コミュニティの居場所が求められたタイミングで人々が手をとり合い、内に向かってエネルギーを発散させる必要がありました。そんな時期とも重なり、Flock Togetherがひとつのコミュニティとして成長していきました。

家のなかに長期間閉じ込められたロックダウンの反動で、人々の意識がより自然へと向いたことや、人との距離を保つことのできるアクティビティとしても、バードウォッチングは最適だったんです。

そんな折、僕の友人でもあり、兄貴分とも言えるクリエイティブディレクターのオリ・オラニペクン(Ollie Olanipekun)がFlock Togetherの運営メンバーに選ばれたんです。それで、東京支部は僕に任せるという話になり、東京でバードウォッチングをはじめたというわけです。

Flock Together開催時の様子。

BLMの流れを汲み、あくまでもマイノリティの人たちのコミュニティとしてスタートしているので、誰もが参加できるというわけではありません。ただ、日本人も世界から見ればマイノリティではありますし、最近は厳格なルールを少し緩めて、より多くの方にご参加いただけるようになりました。いまでは東京の参加メンバーも全体で150人ほどになり、さまざまな業種の方が集まりながら、およそ20人ほどで東京近郊にバードウォッチングをしに出かけています。

今日は春分の日でもあるので、春の到来を祝いながら、屋内アクティビティでも自然が感じられるものをつくりたいと思い、このイベントを企画しました。音楽、フード、ビジュアルアートなど、自分のまわりにあるさまざまなコミュニティメンバーを集めたコンテンツは、得意分野が異なる個性豊かな人たちと交差することで、面白い状況に生まれ変わります。

あえて新宿という都心で企画したSpring Migrationは、土を敷き詰めた区画があったり、木々の装飾があしらわれたりと、音楽はもちろん、映像やフードなどのコンテンツも揃えられています。屋内であっても自然が感じられるスペースを意識的につくっているほか、鳥の生態を視覚と聴覚を通して楽しむことのできるコンテンツも用意されています。わざわざ遠くにある自然へアプローチしなくても気軽に立ち寄れますし、バードウォッチングのように意図せず自然と触れ合うことができるんです。

今回のイチ推しコンテンツはありますか?

『LISTERS』という、去年イギリスでリリースされたドキュメンタリー映画があるのですが、イベントではこの映画を畳に座って鑑賞できるスペースをつくりました。

1年間で400種類以上の鳥を観察している若きふたりのバードウォッチャー兄弟についての映画なのですが、バードウォッチングというと年配の趣味というイメージ、既存概念を覆すような内容で、コメディとしても気兼ねなく観れる作品なんです。

バードウォッチングを一度も経験したことのない人も多いと思うので、こういった映像作品から興味をもってくれるといいなと思っています。今回はありがたいことに、その映画を視聴するためのヘッドホンをオーディオテクニカさんからお借りすることができたので、とても嬉しかったですね。

自然を手にとるような温もりと響き合うHi-Fiサウンド。ATH-WP900が魅せるアンビエントとの相性。

ハウジングにメイプルの無垢削り出しが採用されたナチュラルな印象のATH-WP900は、新設計φ53mmドライバーが、低音から高音までフルレンジのオーディオを再生する。強磁力マグネットにより、優れた低域特性を実現するほか、角度がついた新形状バッフルを採用したことで、中低域再生もクリアに聴こえる。

オライオンさんが、今回のイベントにATH-WP900のヘッドホンを選ばれた理由はありますか?

鳥の鳴き声は想像以上に音程が幅広く、高い声から低い声までさまざま。自然のなかの音なので、バランスがよくて解像度の高い、Hi-Fiサウンドが心地よく聴こえるヘッドホンを探していたんです。

鳥はもちろん都会にも生息していますし、あちこちで鳴いてはいますが、その環境下だとあまり意識を向けたりしない。でも自然のなか、加えて群れの鳴き声を聴いてみると、それはもうほとんどアンビエントミュージックのように聴こえるんです。

飛び立てば羽を打つ音や水面を蹴飛ばす音も聞こえてきますし、すべての音が聴こえることで、その空間が浮かび上がってくる。鳥たちには本当に圧倒されますよ。ATH-WP900のもつ臨場感によって、非常に再現性の高いサウンドスケープを楽しめましたし、木でつくられたハウジングには自然の温もりを感じることができるので、聴覚だけでなく、視覚的にもバードウォッチング・コミュニティを有する僕たちの文脈にピッタリでした。

Flock Togetherが立ち上がった当時はコロナ禍ということもあり、クラブに遊びに行く機会も減ってしまっていました。きっと、クラブミュージックよりもジャズ、アンビエントに趣味趣向が移っていった人も多かったんじゃないですかね。

僕のまわりの友人たちにも家族が増えたタイミングだったので、何か異なる趣味を見つけたいというタイミングで、みんな散歩に出かけたり、自然のなかへと足を運ぶようになった。こうした状況から、夜遊びに出かけるというよりも、昼間でかつ屋外のイベントに参加する機会が増えていったんだとも思います。

先ほど、Flock Togetherにはあらゆる業種の方たちが参加されているというお話があったと思いますが、バードウォッチングの何が人々を魅了しているのでしょう?

Flock Together開催時の集合写真。

正直、150人のメンバー全員がバードウォッチングが大好きというわけではなくて、BLMの流れがあり、コミュニティとしての居場所を探していた方も多かった。でも、いざバードウォッチングをはじめてみると、思った以上に楽しんでもらっている印象です。

メンバーにはデザイナーやファッション関係、ラッパーやDJなどのアーティストやウェブ関連など、クリエイティブ領域で仕事をしている方がたくさんいます。一方で、英語の先生や企業に勤めるサラリーマンの方もいらっしゃいますが、都会で暮らし、週末は少し都内から離れてリラックスしながら自然に触れたいと感じている人が多いですね。

都会と自然を行き来することで受ける刺激をエネルギーに変換できる、そんな感覚的なところに惹かれているのかもしれません。

自然は“どこへ行くか”ではなく、“どう感じるか”で手に入る。

日本でバードウォッチングをしていて、新たな発見などありましたか?

たくさんありますよ。昔から鳥を観てきた上の世代の先輩たちと一緒になる機会も多いですし、みなさんシャイではありますが、こちらから話しかければ気さくにお話ししてくれます。僕たちは鳥の和名を知らなかったりもするので、鳥の名前を教えてもらったりしています。

そういった先輩の方々から教わるインターネットには載っていない情報、山のなかで必要になるアイテムであれば、ナイフの研ぎ方や見たこともない紐の結び方など、クラフトマンシップ溢れる情報もたくさん教えていただけたりするので、貴重ですよね。この活動を通じて、世代間ギャップが埋まるといいなとも思っています。

そういう意味では、双眼鏡さえあれば誰しもが気軽にはじめられるバードウォッチングって、とてもいい趣味ですよね。

オライオンさんが掲げる今後の目標というのは、どのようなものでしょうか?

今日のようなイベントをもっと多くの方に体験してもらうことですかね。そこにバードウォッチングのようなコンセプトがあってもいいですし、室内に自然を取り込んだ、誰もが楽しめるような空間をつくってみたいんです。

バードウォッチングをしていると、都市のなかにも自然があることに気づかされますし、どこに行くかというのもありますけど、一方でどう感じるかという視点が大事だということがわかってきます。

遠くへ行かなくても自然との接点をもつことはできますし、音響のクオリティが高ければ、聴く力が備わり、世界が変わって見えてくると思うんです。

東京で生活していると日々忙しく過ごすことが多いですし、自由には自然のなかに入ってはいけないかもしれない。だから、まずは休日にフラっと自然のような環境で、ゆっくり音楽が楽しめるイベントを街中につくりたかった。

まだ小さなコミュニティかもしれませんが、今後もこうした活動を続けながら、都市と自然、あらゆる世代が交差するような状況をつくっていけたらと思っています。

オライオン・ジョンソン(Orion Johnson)

ニューヨーク生まれ。アメリカ人と日本人の両親をもち、学生時代をニューヨークで過ごす。Skidmore College進学後はスタジオアートを専攻し、コミュニティデザインや彫刻を学ぶと、卒業後はフリーランスのグラフィックデザイナーとしてニューヨークで約2年間仕事を続ける。その後、兼ねてより興味のあった日本文化と日本語を学ぶため、2016年に来日。ほどなくして、Black Lives Matterの流れでロンドンで立ち上がったバードウォッチング・コミュニティ「Flock Together」のファウンダーより名を受け、東京支部のリーダーに就任。以降、東京を拠点にバードウォッチングの集いを実施しながら、コンサルティング、イベントプロデューサー、海外アーティストのアテンドなど、デザイン、ファッション、音楽の分野を軸に幅広く活躍。oriön名義でDJとしても活動している。今回はFlock together開催時の写真もご提供いただいた。

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Photos:Shintaro Yoshimatsu
Words & Edit:Jun Kuramoto(WATARIGARASU)

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