この広い地球には、旅好きしか知らない、ならぬ、音好きしか知らないローカルな場所がある。 そこからは、その都市や街の有り様と現在地が独特なビートとともに見えてくる。

音好きたちの仕事、生活、ライフスタイルに根ざす地元スポットから、地球のリアルないまと歩き方を探っていこう。 今回は、スイスの都市、ベルンへ(取材完了は2022年6月)。

中世の面影が残る街、スイスのベルンを拠点に活動する5人組音楽グループ「Sirens Of Lesbos(サイレンズ・オブ・レスヴォス)」。 2014年から本格的に活動開始。 ボーカル担当のSerag姉妹のJasminaとNabylaを中心に、Melvyn Buss、Arci Friede、Denise Häberliでグループは構成されている。みんなスイス生まれだが、ルーツはスーダンやエリトリア、英国、チェコ共和国と多国籍。

彼らのバンド名の頭文字「SOL」は、スペイン語で太陽という意味。彼らが手掛ける楽曲の数々はまるで太陽のように健やかで聞いていて耳が心地よい。 ソウル、ディスコ、ジャズ、ロック、ヒップホップの要素を取り入れつつも、さわやかでポップな楽曲の数々を生みだしている。 透き通る姉妹ボーカルのハーモニーも魅力のひとつだ。 今回は、Jasminaに取材し、彼らのベルンでの生活を覗かせてもらった。

Sirens Of Lesbos(サイレンズ・オブ・レスヴォス)
Photos via Sirens Of Lesbos
右下手前が、取材に応じてくれたJasmina。

こんにちは。Jasminaですね? あれ、今日はArciとの取材だと思っていました(笑)

実は私とArciはカップルなの。 今日は彼が子どもの世話をしてくれてるから、私が取材することになったんだ。

そうなんですね、ありがとう。まず、バンドメンバーの出会いから結成までについて教えてください。

もともとArciがベルンでクラブを運営していたんだよね。 DJも時々やっていて、そこの常連客だった私と意気投合。バンドをやろうっていう話になって、私の姉妹Nabylaと、Arciの友達Melvyn、それから彼の元で働いていたDeniseに声をかけて、バンドを結成。 それがはじまり!

Sirens Of Lesbosの楽曲『HOW MANY MILES』。

クラブを通じて結成されたバンドだけど、さわやかなポップを制作する音楽グループが生まれたっていうのがまた面白いね。

最初はね、「EDMの楽曲を制作して、お金を儲けよう!」みたいなノリで始まったんだ。 いい音楽をつくろうなんて最初は全然思っていなかった…ロマンチックじゃないよね(笑)。 でも、やっていくうちに自分たちがどんな音楽をつくりたいかわかってきて、そこに挑戦してみたくなってきたんだ。 それで、いまのバンドの方向性に。

ぶっちゃけ話をありがとう(笑)地元ベルンを音楽活動の拠点に選んだのは?

いつもベルン以外の場所に住んでみたいなあなんて思っているけど、引っ越すタイミングがなくってさ。 家族の近くにも居たいし…。 一度みんなで違う場所に引っ越して、別の拠点で活動してみようなんて話もでたこともあるんだけれど、でもいつの間にかそんな話は誰もしなくなってた。 それも運命だと思うんだよね。

ベルンのどんなところが魅力だと思う?

ベルンはとっても小さな街。 いつも落ち着いている。 街にはアーレ川が流れていて、緑も溢れてる。 山もすぐ近くにある。 夏なんて特に素敵だよ、 地元民はみんな夏がくるとアーレ川に入って、涼んでる。 日常が、絵画のように美しい街並みなんだ。

アーレ川。
Photos via Joschua Bleitzhofer
アーレ川。
アーレ川。
Photos via Joschua Bleitzhofer
アーレ川。
アーレ川。
Photos via Joschua Bleitzhofer
アーレ川。

古き良き街並み、それから数々の美術館や博物館があるベルンは観光地としても名所です。 そんな由緒ある街の、“地元民のみぞ知るストリートな一面”なんてあるのかな。 例えばナイトシーンとか。 どんなふうに夜遊びしてる?

スマホのテキスト(ショートメッセージ)で「今日はどこどこでパーティーがおこなわれている」という情報を送ってくれるアンダーグラウンドのグループがあるんだよね。 ある日は古いビルの中だったり、またある日は森の中でのパーティーだったり。 テキストを受け取ったらその指定の場所にいって、パーティーにジョインするのが私たちの遊びかた。

へえー。Sirens Of Lesbosのメンバー行きつけのクラブなんかは?。

ナイトクラブ「Dachstock」はオススメ。 いい感じのイベントはいつもここ。 中にレストランもあるからそれがいい。 あ、あとナイトクラブ「Dampfzentrale」! ここも良いよ。 そういえば最近あんまり行ってないけど、そこに行けばいつも最新の楽曲が流れてる。 新しい音楽を開拓しにいくにはばっちり。

ナイトクラブ兼ライブ会場「ISC Club」では一度ライブをしたことがあるんだけど、超良かった。 どのクラブが一番好き? って聞かれたら、ここって答えるかな。 多種多様なミュージシャンのイベントが開催されるからオススメ。

ISC Clubにて、Sirens Of Lesbosのライブの様子。
Photos via Sirens Of Lesbos
ISC Clubにて、Sirens Of Lesbosのライブの様子。

ベルンだとどんな音楽が人気なの? 音楽シーンについても知りたいな。

ベルンの音楽シーンはあまりにも小さくって、普段はアメリカやロンドンをはじめ他国の音楽にリーチするのが一般的かなあ。 これって少し残念なことに聞こえるかもだけど、実はそうでもないと私は思ってる。 外の音楽に関心を持つからこそ、いろんな場所の音楽からインスピレーションをうけて、自分たちのベルンでの音楽制作に役立てられるから。

音楽制作はいつもどこで? 行きつけのスタジオはある?

自分たち専用のスタジオ「Wasswerk studios」がある。 落ち着いた雰囲気もありながら、とてもプロフェッショナルな音楽スタジオなんだ。 アーレ川の側だから、音楽制作の合間に川に飛び込んで休憩したりもしちゃう。 川の水はとっても綺麗だから、最高だよ。 家や職場が川沿いにある人は、川を泳いで職場に向かう人もいるらしい。

音楽制作の合間の川泳ぎ! すんごいリフレッシュできそうです(笑)。 練習はどれくらいの頻度で?

実はみんな音楽活動以外にも仕事があったり、勉強があったりで忙しいんだ。 だから普段は2週間に1度くらいのペースでしかスタジオ練習はできていない。 アルバム制作が決まったら、1週間くらい毎日スタジオに通いつめて、楽曲制作や練習に集中するっていうのが私たちのいつものやりかた。

スタジオ。
Photos via Joschua Bleitzhofer
スタジオ。
スタジオ。
Photos via Joschua Bleitzhofer
スタジオ。
スタジオで練習中。
Photos via Joschua Bleitzhofer
スタジオで練習中。

スタジオにある音楽機材や楽器はどこで仕入れてる?

路上マーケット「Waisenhausplatz market」によく行く。 世界各国の楽器を売るおじさんのところ「Dunum」でよく楽器を買ってるよ。 私、変わった楽器が大好きでさ。 この前はガーナのマラカスをゲットしたんだ。 音がとっても良かったんだよね〜。

あとは「Studio sounds」。 ここもちょっと変わった機材や楽器を取り揃えていて、店頭で試せるのが魅力。 「Musik müller」ってところは一般的な楽器を取り揃えているお店で、スタッフがいつも親身になってくれるところが好き。 必ずいいアドバイスをくれる。

変わった楽器探し、楽しそう。 ベルンの食事情は、どう?

私、食に関しての変なこだわりが強すぎるらしいんだよね。 聞く人間違えちゃったかもだけど、一応答えるね(笑)

私がよく行くレストランは「Du nord」。 シンプルなオーガニックのベジタリアン(やビーガン)料理が食べられる。ヨーロッパ系のお料理が中心かな。

あと「noy」っていうカフェにはほぼ毎日通っている。 ここのコーヒー、最高なの。 フラットホワイト(エスプレッソとミルクで三層に分かれているドリンク)をオートミルクで頼むのが私のオーダー。

Jasminaお気に入りのカフェ「Noy」。
Jasminaお気に入りのカフェ「Noy」。
Photos via Joschua Bleitzhofer
Jasminaお気に入りのカフェ「Noy」。

あ、あと。ベルンといえばチーズフォンデュが有名だと聞いたんだけど、好き?

うん、チーズフォンデュ専門店があちこちにあるよ。 ファンシーなチーズフォンデュ専門店もいいけど、昔ながらのチーズフォン専門店もたくさんあるから、これをぜひ試してみて欲しいな。

Arciはよく「lötschberg」ってレストランでチーズフォンデュをよく食べているらしいよ。 まあでも チーズフォンデュとラクレットはどのお店で食べても、失敗ってことはないはず。

休みの日にはどんなところに遊びにいく?

「Bärner Brocki」っていうリサイクルショップに行くよ。 古い家具とか服がたくさんあるから、 とりあえず行ってみる。 ラッキーなときには、カシミアのセーターをすごい安い値段で手に入れることができたりするよ。 ここはローカルな人ばっかりの店だよ。

Arci、バスケをプレイ中。

Arciは週2くらい近くの学校へバスケをしにいくよ。 夏の間は近所の学校のコートでプレイして、冬の間はいろんな室内公共施設でプレイしてるみたい。

いいねえ。 バンドメンバーで出かけたりは?

コロナ禍前は、よくナイトクラブにみんなで行ってたんだけどね…。 最近は外で遊ぶことが多くなったかな。 夏の間はアーレ川で遊ぶ。 Melvynは「Marzili」っていうアーレ沿の公園もお気に入り。 そこによく行ってるみたい。

冬の寒い日々は室内の公共施設「Münsterplattform」とかで集まるかなあ。 昔は大きな教会だったんだけど、いまは公園みたいな感じで誰でも入れる施設になってるんだ。 カフェもあるから便利。 それから、子どもを連れて行っても大丈夫な場所だから、親にとってはありがたい場所。

Sirens Of Lesbosメンバーたちがよく集まるという施設「Münsterplattform」。
Sirens Of Lesbosメンバーたちがよく集まるという施設「Münsterplattform」。
Photos via Joschua Bleitzhofer
Sirens Of Lesbosメンバーたちがよく集まるという施設「Münsterplattform」。

最後に、ベルンで音楽活動をしていてよかったなと思うことを教えて。

ニューヨークやロンドンでは多くの人々が私たちと同じように音楽活動に励んでいるよね。 ベルンは(小さい街だから)、日々プレッシャーを感じずにのびのび〜と音楽生活を送れてる、ってところかな。

Sirens Of Lesbos/サイレンズ・オブ・レスヴォス

スイスの首都ベルンで生まれ育った5人組で結成された音楽グループ。 2014年にデビュー。 バンドメンバーは姉妹のJasmina Serag(ヤスミン・セラッグ)とNabyla Serag(ナディラ・セラッグ)、 Melvyn Buss(メルヴィン・バス)、 Arci Friede(アーチ・フリーデ)、Denise Häberli(デニス・ハベリ)で構成。 メンバーはそれぞれエリトリア、スーダン、チェコ、イギリスにルーツを持っている。 『HOW MANY MILES』や『PALA』などの楽曲では、優しいポップでありながらもソウル、ディスコ、ジャズ、ロック、ヒップホップの多国籍な音楽要素を取り入れた楽曲制作をおこなっている。

Sirens Of Lesbos(サイレンズ・オブ・レスヴォス)
Photos via Sirens Of Lesbos

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Words: Ayano Mori(HEAPS)