ロックと一口に言っても、そのスタイルは実に多彩。芸術的な要素を持つアートロックから、ヘヴィなギターリフが特徴のハードロックまで、ロックは時代ごとに進化を遂げてきました。本記事では、オーディオ評論家の小原由夫さんが、それぞれの音楽的特徴や背景を代表曲とともに解説し、ロックの魅力を深掘りします。
目次
ジャズロック
プログレッシブロック
サイケデリックロック
シンフォニックロック
メタル、ヘビーメタル
グランジロック
パンクロック
ニューウェイブ
オルタナティブロック
ジャズロック
ロックにジャズ的な即興演奏(インプロビゼーション)やシンコペーションを積極的に採り入れ、演奏家の主体性をより強く打ち出したロックの1つ。後にフュージョンと呼ばれる音楽もジャズロックから派生した。
ジャズミュージシャン側から電気楽器を駆使した楽曲アプローチがあった一方で、ロックミュージシャンが長い即興演奏を採り入れたジャズっぽいスタイルもあった。前者の例はマイルス・デイヴィス(Miles Davis)やジョン・マクラフリン(John McLaughlin)、後者の代表格にはフィル・コリンズ(Phil Collins)が在籍したブランドX(Brand X)やソフト・マシーン(Soft Machine)である。
かつてマイルス・デイヴィスの黄金のクインテット(Miles Davis Quintet)でドラムを務めたトニー・ウィリアムス(Tony Williams)が率いたライフ・タイム(The Tony Williams Lifetime)が、ジャズロックの初期のスタイルを確立したと言ってもいい。前述の英国出身ギタリスト、ジョン・マクラフリン、オルガン奏者のラリー・ヤング(Larry Young)とのトリオ編成で、凄まじく高速で激しいインストゥルメンタルミュージックを展開した1969年のアルバム『Emergency』からタイトル曲「Emergency」を紹介しよう。叩きまくっているトニーのドラミングが圧巻だ。
プログレッシブロック
進化したロックとして、60年代半ばから主に英国で活発化したロックの一大ジャンル。それまでのロックに比べ、より進化した音楽性、前衛的な要素を孕んだロックといえるが、70年代後半には廃れていったとする説もある。
メンバー間による難解なリフの応酬や即興性が取り込まれ、クラシック音楽やジャズからの影響も見受けられる。また演奏技量的にも高いレベルが要求され、転調や変拍子などが頻繁に曲間に挟まれた複雑なメロディーやハーモニー構成のものが多い。
バンドの初期にはサイケデリックロックに分類されたピンク・フロイド(Pink Floyd)を筆頭に、キング・クリムゾン(King Crimson)、イエス(Yes)、ジェネシス(Genesis)が四大プログレッシブロックバンドと称されている。
代表曲は、私にはこれ以外に考えられない。キング・クリムゾンの1969年のアルバム『In the Court of the Crimson King(クリムゾン・キングの宮殿)』から「21st Century Schizoid Man(21世紀のスキッツォイド・マン)」だ。日本語タイトルの「スキッツォイド・マン」という表記は、以前は「精神異常者」だったが、1999年4月1日から、レコード制作基準倫理委員会の規定に則って現在の表記に改められた。
サイケデリックロック
1960年代後半にアメリカ西海岸で生まれたロックの派生ジャンルで、「アシッドロック」と称されることもある。ヒッピー文化やフラワームーブメントとの結び付きが強く、LSDなどのドラッグによる幻覚作用を再現するスタイルが主流。
トリップや幻想を連想させる歌詞、幻聴や刺激性を誘因する曲想の傾向が強く、シタールやタブラといった民族楽器が使用されることも多い。そうした背景から、中期のビートルズ(The Beatles)もサイケデリックロックに含める説もある。
1967年にリリースされたドアーズ(The Doors)のファーストアルバム『The Doors』から、最初のシングルカット「Light My Fire(ハートに火をつけて)」を代表曲としたい(ちなみにシングル・バージョンは間奏が大幅にカットされており、演奏時間は半分以下となっている)。後にホセ・フェリシアーノ(José Feliciano)やアストラッド・ジルベルト(Astrud Gilberto)など、民族を超えてカバーされた名曲でもある。
シンフォニックロック
クラシックの交響曲のような音響的特徴や曲想の展開を有したロック。シンセサイザーやメロトロン、あるいは生のオーケストラを用いてシンフォニックなサウンドを表現し、重厚な雰囲気を展開するのが特徴。プログレッシブロックと重なる部分もあり、実際に双方にカテゴライズされるバンドや作品も少なくない。
代表曲として、英国のバンド、ムーディー・ブルース(The Moody Blues)の1967年11月発売のセカンドアルバム『Days of Future Passed』から、「The Afternoon」をチョイスした。ロンドン・フェスティバル・オーケストラ(London Festival Orchestra)との共演により、ロックとオーケストラの本格的融合を試みた記念碑的アルバムだ。
メタル、ヘビーメタル
メタルやヘビーメタルは、より鋭角で硬質なギターソロ、高速のリズムやビートなど、ハードロックをさらに激しく攻撃的にし、スピード感も加味したラウドなスタイルと言って過言でない。この類のバンドからは多くの速弾きギタリストが輩出されたこともトピックのひとつで、トニー・アイオミ(Tony Iommi)、エドワード・ヴァン・ヘイレン(Edward Van Halen)、マイケル・シェンカー(Michael Schenker)、イングヴェイ・マルムスティーン(Yngwie Malmsteen)、スティーブ・ヴァイ(Steve Vai)、エリック・マーティン(Eric Martin)等がいる。
1970年代始めから少しずつ発展し、80年代初頭に大きく花開いたロックのひとつである。日本では略して「メタル」、または「ヘビメタ」と称することも多い。さらにデスメタルやスラッシュメタル、クリスチャンメタルなど、細分化されたサブジャンルが多数あるのもヘビーメタルの特色だ。
代表曲として挙げたいのは、1980年にリリースされたジューダス・プリースト(Judas Priest)の『British Steel』から「Rapid Fire」だ。ソリッドなギターリフが特徴的で、彼らの代表的アルバムである。
グランジロック
80年代後半にアメリカのシアトルを中心に起こったムーブメントで、パンクやヘビーメタルの影響を受けたロック。荒々しいサウンドと内省的な歌詞に特徴がある。陰欝で屈折した曲想が多く、パンクやヘビーメタルの影響も色濃く、後にオルタナティブロックに発展したともいわれる。また、ミュージシャンの服装にも特色があり、パンクロック系に共通したダメージ感のある服装、破れたジーンズやくたびれたシャツの重ね着などラフなファッションが見受けられる。

米国のニルヴァーナ(Nirvana)が最も影響力の強い代表的なグランジロックバンドであろう。1991年9月にリリースされた彼らの2枚目のアルバム『Nevermind』から、先行シングルとして発売された「Smells Like Teen Spirit」は、彼らを世界的メジャーバンドに押し上げた記念すべき楽曲。結果的にその成功がバンドの崩壊、ひいてはリーダーのカート・コバーン(Kurt Cobain)の自殺へとつながったとされている。ちなみに同作のMofi(高音質リマスター)盤は、中古盤市場でプレミア価格が付いている。
パンクロック
70年代半ばから後半にかけて生まれたロックのスタイルで、スリーコードを軸とする簡素化されたスタイルが主流。パンクロック登場以前の大概のロックのベーシックなエッセンスには、黒人由来のブルースやブギウギ等の音楽要素が大なり小なり刷り込まれているのだが、パンクロックではそうした要素の大部分が削減されている。体制や社会問題に対する反抗的メッセージが込められることが多かったが、その全盛期は短く、2年から3年とする考察がある。後に、パンクロックはニューウェイブに吸収される形となったともいわれる。
ファッションシーンにも多大な影響を与えており、ツンツン尖んがったヘアスタイルや、安全ピンやスタッズなどで装飾された革ジャンなどに特徴が見出だせる。

セックス・ピストルズ(Sex Pistols)がパンクロックのシンボリックな存在と言って、意を唱えるロックファンは誰もいないだろう。1977年発表の唯一のオリジナルアルバム「Never Mind the Bollocks, Here’s the Sex Pistols(勝手にしやがれ)」から、シングルヒット曲「Anarchy in the U.K.」をパンク・ロックの象徴的ナンバーとして推す。
ニューウェイブ
パンクロックから派生した音楽ジャンルで、70年代後半から80年代始めまで隆盛を極めた。ストレートかつ素直(粗野)な表現であったパンクロックに対して、アカデミックな要素と、ポップスやファンク、ディスコの要素を採り入れていたのがパンクロックと異なるニューウェイブならではの特徴だ。また、パンクロックのムーブメントの中心がイギリス(ロンドンパンク)であったのに対し、ニューウェイブは世界的な流れを持っていた。
代表的なバンドにブロンディ(Blondie)を挙げよう。女性ヴォーカリストのデボラ・ハリー(Debbie Harry)の妖艶な雰囲気も相まって、全米・全英1位のシングルを連発したが、やはり80年リリース「Call Me」がこの時代のニューウェーブのムードを体現した曲といえる。同曲は映画『アメリカン・ジゴロ』のために作られ、私も映画を観て以降、頻繁に聴いていたのを思い出す。
オルタナティブロック
80年代から90年代にかけて登場したロックのひとつで、既存のセールス志向のロックに反旗を翻し、流れに逆らうようなアンダーグラウンドな空気感を内包している。「Alternative」、すなわち「他の選択、代替手段」 というキーワードも、ロックの原点回帰的な意味を込めたものとされる。
音楽スタイルとしてはパンクロックを下敷きとしたパターンが多く、激しくて情熱的な楽曲が大勢を占める。日本では略して「オルタナ」と呼ばれ、英米からの流れを踏襲した邦人バンドは数多い。
代表的なバンドは、米西海岸を拠点とする世界的な大人気バンド、レッド・ホット・チリ・ペッパーズ(Red Hot Chili Peppers)にとどめを指す。彼らの出世作である1991年のアルバム『Blood Sugar Sex Magik』から、「Give it Away」を紹介しよう。ファンキーなリズムに乗ったヴォーカルの自由奔放ぶりがいい。同年のグラミー賞のハードロック部門、最優秀シングル賞を獲得している。当代最強のオルタナバンドと言われて久しい ”レッチリ” は、個人的にも生でステージを観てみたいロックバンドのひとつだ。
Words:Yoshio Obara