音楽には欠かせない「音律(おんりつ)」という言葉。ピアノやギターの調律、和楽器の響き方、そしてクラシックから現代音楽まで、すべての音楽の根底にはこの「音の並び方のルール」があります。音律の基本的な意味や代表的な種類について、音楽家、録音エンジニア、オーディオ評論家の生形三郎さんに解説していただきました。
ドレミファソラシドだけでは表現できない音がある
巷に溢れる音楽は「音律」と呼ばれるシステムを使って作られています。システムと言うと仰々しいですが、いわゆる、「ド・レ・ミ・ファ・ソ・ラ・シ・ド」というと分かりやすいですね。
流行りのヒットソングなり誰もが知る名曲なりのメロディを、ピアノやキーボードで弾いてみようとすると、鍵盤の何らかのキーで弾くことができるでしょう。例外もありますが、それはすなわち、その曲が「平均律」という音律によって作られていることを表しています。
世の中に存在する殆どの曲がその平均律によって作られていますが、実はピアノやキーボードで弾こうとしても上手く弾けない曲も存在します。
例えば、音楽ではありませんが、よく耳にする鳩の鳴き声によるフレーズを鍵盤で弾こうとしても、きっと、鳴き声の音程が鍵盤の出す音の高さに上手くハマらないでしょう。もちろん、近しい音ではあるのですが、ちょっと違う音程になると思います。これは、鳩の出しているフレーズの音程が、ドからその1個上のドまでを12個の鍵盤で均等に分割した平均律の「音程」には当てはまらないからです。

このような決められた音程によ って作られる音の並びを「音律」と呼びます。同時に、世の中には「平均律」以外の音律も沢山存在しています。
音の印象は音律の違いで変わる
クラシック音楽の中でも、圧倒的にメジャーな存在である平均律に加えて、「ピタゴラス音律」、「中全音律」、「純正律」などの音律が存在します。
詳しく解説すると専門的になりすぎるのでここでは触れませんが、それらは音律ごとに完全に異なる音程間隔で作られているわけではなく、それぞれの音程が微妙に異なる関係を持っています。
例えば、純正律は、周波数の比が整数比である「純正音程」のみを用いる音律です。平均律では、隣り合った音、「ド」と「ド#」の音程は100セントと規定される音程になっています。そして、平均律と純正律を比べたとき、平均律の「ド」と「ミ」の間が400セントのところ、純正律では約386セントとなり、両者の差は、隣り合った音よりもさらに近い、ごく小さな違いになります。それは、楽器によっては、調律の狂いの範疇といえるくらい微妙なものです。
しかし、この微妙な違いが和音の響きから得られる印象を大きく変えてしまうこともあります。そのため、ピアノなどの音程の調整が困難な楽器を除き、オーケストラや吹奏楽、合唱といった編成の音楽では、演奏する曲や箇所によって音程を微妙に狭めたり広げたりして、和音の響きを調整しているのです。

西洋音楽のほかにも、独特の音律をもった音楽として有名なのが、インドの音楽です。インドの音楽は主に「シュルティ」と呼ばれる、1オクターブを22等分した音階が使われています。インドの音楽は、音律の他にも、演奏される時間帯に応じて適した旋律や調性が決められていたりと、細かい決まり事が多数存在しており、実に神秘的です。
ほかに、音律にも近い話として、音の高さを決める「基準音」の話があります。現在、基準となるラの音は440Hzや442Hzで調律されますが、国際的な基準が規定される前は、それよりもずっと低い周波数、あるいは地域によっては高い周波数で調律されていました。基準音の違いだけでも、演奏される音楽の響きが変わってきます。
ちなみに、日本の雅楽の基準音は430Hzです。あの独特の響きの秘密の一つは、楽器だけでなく、チューニングにもあったわけです。
こういった話を調べていくと、音楽と一口に言っても、実は様々な仕組みや違いによって成り立っていること、そしてそこから受ける印象も異なることが分かり、実に奥深いですよね。
Words:Saburo Ubukata