映画『ベートーヴェン捏造』でベートーヴェン(Ludwig van Beethoven)役を演じた古田新太さん。音楽的ルーツをたどると、フォーク、クラシック、ハードロック、ヘヴィメタル、J -POPなど、幅広いジャンルを聴いてきたことが明らかに。

ところが、そんな柔軟さとは裏腹に、聴き方については頑なまでのこだわりが。ケータイもパソコンも持っておらず、音楽配信サービスも使用したことがないという、無類の音楽好きの生態に迫った。

小学校5年生でキッスに出会い、運命が変わった

古田さんはハードロック好きのイメージがありますが、人生で初めて好きになった音楽は?

フォークです。今では考えられないかもしれないけど、小学生の頃はオフコースとかアリスとか聞いていました。(井上)陽水さんとか(吉田)拓郎さんとかね。

でも小学5年生のときにキッス(KISS)に出会って「かっこよ!」って思った。それでハードロック好きになりました。今聴くと完全にロックンロールなんだけどね。全然ハードではない(笑)。

フォークを聴いていた少年にとっては、かなり衝撃的だったんですね。では、古田さんの運命を変えた曲は?

キッスの「Rock And Roll All Nite」かな。初めて聴いたとき「うわー! 楽しい」と思いました。キッスはディスコミュージックやダンスミュージックも多かったから、フォークやピンクレディしか知らなかったオイラも聴きやすかったんだと思う。

そのあとにクイーン(Queen)とかエアロスミス(Aerosmith)とかを聴いて「あ、こういうのがハードロックなんだな」と改めて思ったんだけど、レッド・ツェッペリン(Led Zeppelin)を聴いてからは「これが本当のハードロックだ!」と知ったんです。

それ以降は、メロディアスなハードロックとかヘヴィメタルが好きになっていきました。デフ・レパード(Def Leppard)とかね。レップス(デフ・レパードの愛称)はバラードが多いし、恋愛の曲も多いからヘヴィメタルではないという人もいるんだけど。

今もエアロスミスとかレップスとか、美しい曲が多いバンドは好きですね。

では、古田さんが一番愛を注ぐアーティストを挙げていただくと?

相変わらず陽水さんは好きかな。それまでのフォークって静かで美しい歌詞の曲が多かったんだけど、陽水さんってやっぱり独特だったんですよ。楽曲がデタラメというか、すごくパンキッシュ。歌詞も攻撃的ですごく怖い。

みんなの陽水さんのイメージって「て〜ててて〜て〜♪」(「少年時代」のメロディ)でしょう? あれだけじゃないから! オイラはやっぱり激しいほうの曲が好きですね。「氷の世界」とか。

今聴いたらフォークに聴こえないの。個人的には初っ端に日本のロックを作った人なんじゃないかって思ってます。

1990年代後半からはJ-POPもよく聴くようになっていったけどね。(椎名)林檎ちゃんとか宇多田(ヒカル)ちゃんが好き。

おふたりを好きになったきっかけは?

宇多田ちゃんはもう、デビュー1発目。「Automatic」を聞いて「普通にR&Bを歌ってる日本人がいる!」と思って。

林檎ちゃんは1枚目のアルバム(『無罪モラトリアム』)に入っている「シドと白昼夜」。ギーソロ(ギターソロ)は林檎ちゃんが弾いているわけじゃないんだろうけど、めちゃくちゃロックしていてかっこよかった。

それまでは洋楽ばっかり聴いてたけど、ふたりのおかげで日本に戻ってきた(笑)。

今ではR-指定も好き。ラップだけどメロディがある。Creepy Nutsの「Bling-Bang-Bang-Born」とか、やっぱすごいと思う。

オイラにとって重要なのはメロディライン

本当にいろんなジャンルの音楽を聴くんですね。音楽はウェルビーイングやメンタルヘルスのために聴く人もいますが、古田さんにとってはどのような役割を果たすものですか?

基本的には癒しですね。家で酒を飲みながら台本を読むときなんかに、ハードロックやヘヴィメタル、J-POPあたりを聴いてます。

歌詞がうるさい曲が苦手だから、パンクはあんまり好きじゃないんです。メタルなんてほぼギーソロだったりするでしょ。重要なのはメロディライン。だからクラシックも好き。

映画『ベートーヴェン捏造』
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映画『ベートーヴェン捏造』ではベートーヴェン役を演じられました。クラシック好きになったきっかけは?

高校生のときにクラシックバレエを習っていたんです。そこでチャイコフスキー(Pyotr Tchaikovsky)とかヨハン・シュトラウス(2世/Johann Strauss II.)とか、その辺の曲を聴くようになって、ストリングスの美しさに惹かれていきました。でもショパン(Fryderyk Chopin)とかシューマン(Robert Schumann)とかはどーもぬるく感じてね。

そんなときにベートーヴェンを聴いたら、激しい曲が多いから「かっこいい!」と思って。「運命」なんて、ちょっとどうかしてるでしょう。あそこまで激しい曲を作るなんて、天才だよね。「第九」にコーラスをつけたのも本当にすごいと思う。

それまでクラシックは宮廷音楽であり室内楽だったのに、ホールでライブをするという考えを持ち込んだのもベートーヴェン。音楽家であり発明家だったと思う。

レッド・ツェッペリンがハードロックを発明して、ジューダス・プリースト(Judas Priest)がヘヴィメタルを発明したと言われているように、発明した奴ってすごいんですよ。

楽屋にはCDラジカセを持っていく

自宅で台本を読むとき以外に、どんなシチュエーションで音楽を聴いていますか?

オイラはケータイを持っていないから、移動中は聴けないんです。昔はウォークマンやiPodで聴いていたこともあったけど、持っていたiPodが壊れちゃって。電器屋に行って「新しいiPodありますか?」と聞いたら、「もうそんなもんないですよ」って言われてカチンときちゃって(笑)。それからやめちゃった。

iPodが使えなくなってからはパソコンを使うのもやめました。だから楽屋にはCDラジカセを持っていってBiSHとか聴いてます。

音楽配信サービスを利用していない古田さんが、新しい音楽に出会う手段は?

レコードショップ。中古レコード屋さんが家の近くにあるから、酔っ払って入ってダーッと選ぶことが多いかな。あとはもう、ジャケ買いする。家にあるレコードもCDも、百枚単位じゃきかないんじゃないかな。

そもそも配信で聴いてる人って、1曲だけつまんで聴いたりするんでしょ? オイラからしたら「アルバムを聴け!」って話ですよ。

本当はCDじゃなくレコードがいいんだけどね。A面を聴いて裏返して、B面の1曲目にどう繋がるんだろうっていう聴き方がおもしろい。

しかもアルバムだと捨て曲があるわけ。3曲目と5曲目の間にある、力の入っていない4曲目があるのがよかったりするのに。

では、古田さんがレコードやCDを聴くときはスキップをせずに聴くのがルール?

いや、2〜3回目になったら飛ばすよ(笑)。でも一旦は全部聴かなきゃ。それが、アルバムを作っているアーティストへの愛だと思う。

オイラたちで言ったら、舞台のワンシーンだけ見られるようなもの。アルバムもそれ自体が作品で、ちゃんとストーリーがあるわけだから。

古田新太

1965年12月3日生まれ、兵庫県出身。大阪芸術大学舞台芸術学科ミュージカルコースに入学(のち除籍)。大学の先輩に誘われ、劇団☆新感線公演に出演。以来、次々と劇団☆新感線の公演に出演し、看板役者となる。劇団での活動と並行して、バラエティ番組やラジオ番組でも人気を博す。映画やドラマなど映像作品にも多数出演。『EIGHT JAM』(テレビ朝日)にレギュラー出演中。現在は舞台『2025年劇団☆新感線45周年興行・秋冬公演 チャンピオンまつり いのうえ歌舞伎「爆烈忠臣蔵~桜吹雪 THUNDERSTRUCK」』に出演。リーディングアクト『一富士茄子牛焦げルギー』、映画『栄光のバックホーム』、『ゴリラホール』などが待機中。

『ベートーヴェン捏造』

耳が聞こえないという難病に打ち克ち、歴史に刻まれる数多くの名曲を遺した、聖なる孤高の天才・ベートーヴェン(古田新太)。しかし、実際の彼は下品で小汚いおじさんだった……⁉︎ 世の中に伝わる崇高なイメージを “捏造” したのは、彼の忠実なる秘書・シンドラー(山田裕貴)。彼の死後、見事 “下品で小汚いおじさん” から “聖なる天才音楽家” に仕立て上げていく。しかし、そんなシンドラーの姿は周囲に波紋を呼び、「我こそが真実のベートーヴェンを知っている」、という男たちの熾烈な情報戦が勃発。さらにはシンドラーの嘘に気づき始めた若きジャーナリスト・セイヤー(染谷将太)も現れ、真実を追求しようとし始める―― 。歴史ノンフィクションの傑作『ベートーヴェン捏造 名プロデューサーは嘘をつく』(かげはら史帆著/ 河出文庫刊)をバカリズムの脚本で実写化。

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Words & Edit:Kozue Matsuyama
Photo: Kosuke Matsuki
Hair&Make:Natsuki Tanaka
Stylist:Keisuke Watanabe

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