ライブハウスのPAエンジニアは、繊細な聞き分けが求められる一方で、日々大音量が鳴り響く環境のなかで仕事をしている。耳を酷使する現場で彼らはどのように耳を守りながら音を作っているのだろうか?
今回、下北沢のライブハウスBASEMENTBAR/THREEでPAを務める神谷洋美、兼岡里充、金子剛大の3人に、オーディオテクニカのイヤープラグ『AT-ERP3』『AT-ERP5』を約10日間ライブハウスの現場で実際に使用してもらった。セッティングや転換時の耳の守り方、PAならではの音の聴き方、そして音楽用イヤープラグの装着感や音の聞こえ方について。日々ライブの音を支えるエンジニアたちのリアルな視点から、イヤープラグを使うことの大切さと、ミュージシャンたちと共に良い音を作っていくためのマインドについて語ってもらった。
一番気を使うのはリハ中?ハウリングとの闘い、難聴のリスク
PAという仕事を続けていく上で、耳の状態を保つことは死活問題だと思います。日頃、どのように耳を守りつつ仕事をしていますか?
金子:一番気をつけている時はバンドのセッティング中ですね。バンドが音作りをしている時にマイクをセッティングしに行くことが多いので。アンプやドラムセットから大きい音が鳴っている場所に近づく時は、耳をそらしたりします。「この距離で聴いたら危ないな」って分かる瞬間があるので。場合によっては「ちょっと待ってください」って出演者に声をかけたりします。
神谷:至近距離にいても大きな音が鳴る環境がたまにあるので…。
兼岡:僕は寝不足が聞こえ方に影響するんですよ。連勤が続いたり、深夜イベントが重なって生活リズムが崩れると、「調子悪いな」ってすぐ分かります。両耳均等じゃなくて、片耳だけ聞こえづらいとか。風邪気味でも分かりますね。「あ、今日ダメだな」って。だから、睡眠をちゃんと取るとか、お風呂に入るとか、体調管理は意識していますね。
神谷:かなり昔に突発性難聴っぽい症状になったんですよ。ある日突然、低音が耳の中で音がぐるぐる回る感じになって。病院では血管が耳の神経を圧迫してると言われました。薬を飲んだら完治しましたけど。
下北沢BASEMENTBAR/THREEを拠点に活動するPAエンジニア。会場の音響を担当しながら、フリーランスとしてバンドのツアーやライブ現場などの音響も手がける
耳を酷使するなかで、さまざまなトラブルが起こるんですね。
神谷:PA仲間で話してると、結構そういう話題になりますね。耳も大音量ばかり聴いていると回復までに多少時間がかかったりもするので。
兼岡:耳のケアを怠ると、現役寿命に多少なりとも影響すると思います。経験値でカバー出来ることもあるとは思いますが。
PAさんがオペレーションをしているときというのは、どんなふうに音を聞いているのでしょうか。
兼岡:各楽器のバランスをとりつつ、音量だったり音色だったりで不快に感じる部分はないか等を注意して聞いてます。
神谷:演奏中にハウリングが起こらないようにしたり、出音において特定の周波数帯域が膨らんでお客さんにとって耳障りな音になっていないかなどを気にしながらオペレーションすることが多いです。
下北沢BASEMENTBAR/THREEを拠点に活動するPAエンジニア。会場の音響を担当しながら、フリーランスとしてバンドのツアーやライブ現場などの音響も手がける
PAさんがいる会場でハウリングが起こると、大抵すぐに解消されるわけですけど、あの瞬間は何をしているんですか?
神谷:ハウリングが起きたであろう回線の音量を瞬時に下げる場合もありますが、基本は耳で聴いてピークが起きている帯域を見つけてカットしています。
ハウリングの音を聞いて、おおよそのピークポイントがわかるんですね。
神谷:そうですね。PAを始めて初期の頃に覚えるのがグラフィックEQのそれぞれの帯域ごとの違いだったりするので。「この音は何kHz」っていうポイント。EQをカットする時は削りすぎても音楽が美味しくなくなるので、そのバランスがとても重要な気がします。
兼岡:自分がTHREEに入った頃は、バンド側からとにかく「(音を)デカくしてください」っていう要望が多かったですね。正直、「そんなに大きい音だけが正解じゃないんじゃないかな」と思うときもありましたが、若かりし自分は勢いもありめちゃデカい音を出してました(笑)。
神谷:当時は今より割と音がハードめなバンドが多かったのもあり、音量が刺激の一つみたいな感覚が強かった気がしますね。
金子:ステージ上の音がバランス悪い状態で大き過ぎると、それに合わせて客席の音量も上げないとバランスが取りづらくなるんですよ。そうなると、お客さんにとって心地よい音に調整することが物理的に難しくなってきますね。
系列ライブハウスの渋谷LUSHで経験を積んだ後、下北沢のBASEMENTBAR/THREEへ。フェスやツアー、機材関連の現場などフリーランスとしても活動している
オーディオテクニカの新しいイヤープラグ、その実力は?
最近はそういう状況は変わってきたんですか?
兼岡:そうですね。昔より演者側からもお客さん側からも「耳を守る」っていう話が普通に出るようになった。
神谷:耳栓してるお客さんって、昔はあまり見なかったけど最近は当たり前になってきている気がします。
金子:今は普通にいますね。
兼岡:海外のお客さんが増えたのも大きい気がします。日本のライブハウスは音が大きい事が多いので、彼らにとっては苦痛な場合があったりすると思います。BASEMENTBARとTHREEでも簡易的な耳栓を用意してあります。
神谷:それぞれの「音楽の楽しみ方」のために守るっていう感覚ですね。
兼岡:音量の問題って本当に複雑で、多種多様な表現がありますから大きい音を出すこと自体をやめよう、というより、選択肢を用意する感じです。
皆さん自身は日頃から耳栓を使っているんでしょうか。
神谷:転換中とか、自分がオペしてない時間は使っていますね。
兼岡:自分もオペしてない時間はつけたりしています。
オペ中は?
金子:細かい帯域判断ができなくなるので、オペ中は外します。
兼岡:あと、耳栓してるとミュージシャンの方に失礼だと思われちゃわないかと気にする事があります。無言の拒否みたいに見えちゃう可能性があるというか。
神谷:演者からすると「え、耳栓?」って思うかもしれないですしね。
兼岡:だから、今回使わせてもらったイヤープラグはありがたかったです。着けた状態がさりげないので、そういうネガティブなアピールに映りにくいと思います。
今回、みなさんにはオーディオテクニカのイヤープラグを2種類試してもらいました。日常使い向けの『AT-ERP3』と、ライブ会場などで適切な音量で音楽を楽しむための『AT-ERP5』です。10日ほど現場で使ってもらったわけですが、いかがでしたか。
神谷:まず、チップが選べるのが良かったですね。サイズがぴったり合うと、密閉感がしっかり出るので。それでいて、ハイエンドが聞きやすかったです。例えばハイハットの細かいニュアンスとかがかなりクリアに聞こえました。音がこもる感じはあまりなかったですね。ローもちゃんと感じられました。
金子:遮音性が強いAT-ERP3の方は、スポンジタイプの耳栓に近いくらい音を抑えてくれる印象でした。スポンジタイプって潰して耳に入れて膨らむのを待って…という手間がありますよね。これはその必要がなくて、パッと入るし、フィット感も高い。取り出して、すぐ装着できるっていうのは助かります。仕事中って、手が塞がってたり急いでたりすることが多いので。
兼岡:さっき言った通り、見た目も違和感が少ないし、長時間つけてても付け心地が気持ち悪くならずストレスがなかったですね。
装着したまま会話はできましたか?
兼岡:21dB(AT-ERP5)の方なら普通にできますね。声が聞こえなくなることはない。
神谷:AT-ERP5の方はハイとローがかなり綺麗に聞こえました。DJがプレイしている時も、ローの体感が残る感じがあった。クラブのお客さんが使っても楽しめると思います。AT-ERP3はフラットな感じですね。上から下まで均等に整っている印象でした。
一般的な耳栓との違いは感じましたか?
神谷:普通の耳栓って、全体がこもる印象ですが、MIDはやや落ちるもののこれはHIとLOが綺麗に聞こえるので音量が下がっただけ、という感じで聴こえる。
兼岡:大音量のライブハウス会場において音楽として楽しめる範囲にあると思います。
神谷:新たな発見だったのが、オーテクさんのイヤープラグで耳を塞ぐと、低音を体で感じやすくなった気がしています。
体で鳴っている音を感じやすくなる?
神谷:そうですね。耳を塞ぐことで逆に体感が強くなるというか。
兼岡:体感があるのは大事なポイントですよね。体感がなくなると「ライブを見てる感じがしない」と思う人もいると思うので。このイヤープラグは、音量は下がるけどライブ感は残る。
現状のラインナップは26dBカットと、21dBカットの2種類だけど、いつかもっと細かい数値ごとに出してくれたら、PAとしては理想的かもしれないですね。
“良い音”のために演者とフラットな関係を築く。拡張する「PAの役割」
PAという仕事は、多くの人がコンサート会場やライブハウスでその存在を知っているにも関わらず、PAさんが何をしているのか、どんなことを考えて調整しているのか、ってことはほとんど理解されていないと思います。皆さんは「PAの役割」とは何であると思っていますか?
神谷:基本的には、やっぱり演奏の良さを引き出すことだと思っています。曲の良さだったり、そのバンドの持っている雰囲気だったりを、できるだけそのまま外に伝える。ステージの外で音を聴いている分、客観的な意見も持ちつつ、まずは寄り添うという感じですね。
演者の意図を尊重しているわけですね。
神谷:そうですね。言われた意見を踏まえた上で、「こうした方が外音がもっと聞きやすくなるのでは?」という提案も含めて作っていく感じです。
金子:自分は、お客さんの様子をかなり見ますね。どういう気持ちでライブを見ているのかとか、どこで盛り上がっているのかとか。そういうところを見ながら、音の出し方を変えたりします。例えば、リズムが前に出た方が楽しい空気になりそうだなと思ったら、少しドラムを強めたり。ボーカルの言葉をしっかり聴かせた方がいい曲だったら、そこを前に出したり。お客さんと同じ目線でライブを見ながら調整する感じですね。
兼岡:だいたい言われちゃいましたね。そうですね「客観性」を失わないことを大事にしてるかも。ライブを見ている人たちの反応とか、空気感とか、そういうものも見て判断する。バンドが「もっと大きく」と言っても、お客さんの様子を見て「これ以上はきついな」と思ったらギリギリで調整することもあります。バンドの専属でPAする時はまた違う対応をすると思いますけど、ライブハウスのPAって、お客さんとバンドの間に立っている存在なので。ワンマン公演じゃなくてブッキングイベント時などはできるだけ多くの人が楽しめる状態を作るのが大事かなと思っています。
みなさんにとって、理想的な音のバランスってどんな状態でしょうか。
神谷:バンドメンバー全員の音を欠ける事なく届けられている状態でしょうか。そうすれば、自然とお客さんの満足度に繋がっていくんじゃないかと。
金子:ライブが楽しいと、終演後の雰囲気で分かりますよ。
どういう時ですか?
金子:物販に並ぶ人が多い時(笑)。
神谷:あれは本当に分かりやすい指標ですね。物販が並んでると、良いライブだったんだなって思って、こちらも嬉しくなります。少しは貢献できたのかな、と。
兼岡:同じバンドでも毎回違うので。それが面白い。
金子:自分は、「どんなバンドが好きですか?」とか「参考にしているアーティストはいますか?」ってバンド側に聞くことが多いです。
バンドって、頭の中では理想の音像を持っていることが多いんですよね。でも、それをどう再現するかが分からないことも多い。だから、「このバンドのこういう音が好きなんです」っていう共通のイメージが見つかると、話が早くなる。
例えば、「このバンドはギターがこの帯域を出していて、ボーカルはこういう位置にいるよね」とか、「今のあなたたちの音はそれとは逆になっているかもしれないね」とか、具体的な説明がしやすくなるんです。
音のイメージを共有するんですね。
金子: そうですね。イメージが共有できると、「ああ、こういう方向なんだな」っていうのが分かってきます。バンドって、それぞれが「自分の好きな音」を出していることも多いんですよ。ギターはギターで好きな音、ベースはベースで好きな音、ドラムもそれぞれ理想がある。それ自体はすごく良いことなんですけど、全部をそのまま重ねても成立しない時もあります。
だから、PAとしては「足し算」より「整理」に近い作業になります。この楽器がこの帯域を出しているなら、別の楽器は少し違う場所に移動させるとか。被っているところを少し引いたりして、全体のバランスを整える。
兼岡: 自分は、選択肢を用意して判断してもらうこともありますね。「今の音と、こっちの音、どっちがいいですか?」って。その場でEQや音量等を変えて、両方聴いてもらう。
音のバランスの大切さって、なかなか伝わらないんですよ。だから、例え話を使ったりもします。「複数人で会話している時に、いきなり一人だけめちゃくちゃ声が大きい人がいたらびっくりするよね?」みたいな。一つの曲を複数人で一緒に演奏する意識。当たり前ですが、バンドって合奏ですから、それがいくら良い音でも誰か一人だけ突出しているとバランスが崩れる。そう言うと、理解してくれますね。もちろん意図があればいきなりデカイ音も聞いた事ないような不思議な音色もOKですよ。
ただ出音を調整するだけじゃなくて、そうやってバンド側とコミュニケーションを取ることもしているんですね。昔は、バンドマンにとってPAさんって怖い存在だったりしましたが、そういう上下関係は変わってきているんでしょうか。
兼岡:変わっていってると思います。昔はバンド側がPAの機嫌を常に伺ってるみたいな話も聞いた事があります。でも今はPAとバンドがフラットな関係になってきていると感じます。
神谷: コミュニケーションを取りながら一緒に作る感じですね。
金子:BASEMENTBARとTHREEは特にそうかもしれないですね。出演するバンドも、スタッフも、「良いライブにしたい」という気持ちが強い人が多い。だから自然と会話が増えてるんだと思います。
兼岡:バンドとPAって本来そういう関係が一つの理想ではあると思います、BASEMENTBAR、THREE ではある時期からノルマ制(バンド側が最低限売らなければならないチケットの枚数を課されるシステム)を廃止してから、さらにバンドに積極的に関わる風潮になったと思います。
神谷:ブッキングスタッフともよく話しますね。「今日どうだった?」とか、「あのバンド良かったよね」とか。ライブハウスって、音響だけで成立しているわけじゃないので。ブッキング、照明、受付、いろんな人が関わっている。その中で、ライブ全体をどう良くしていくか、という話はよくします。
BASEMENTBARとTHREEは、演者からもお客さんからも質の面でとても信頼されている稀有なお店だと思います。みなさんがそういうマインドで日々働かれているからこそ、成り立っている場所なんだなと納得しました。最後に、ライブハウスに遊びに来るお客さんに一言お願いします。
金子:音楽って、長く付き合っていくものだと思うんですよ。若い時だけじゃなくて、年を重ねてもライブに行く人も多いですし。そのためにも、耳を守るという選択肢があるのは良いことだと思います。イヤープラグも、そういう意味で自然に使われるようになったらいいですよね。
神谷:ライブハウスはすごく近い距離で音楽を体感できる場所なので、ある程度の音量で音楽が常に流れています。耳を守りつつそれぞれの感じ方で音楽を楽しんでもらえたら嬉しいなと思います。
兼岡:耳を守ることと、ライブを楽しむことは両立できると思うので。「ちょっと今日は音大きいな」と思ったら、イヤープラグを使うのも一つの方法だと思います。
金子:無理をしないで、長く音楽を楽しんでほしいですね。

AT-ERP3
イヤープラグ

AT-ERP5
イヤープラグ
Photos:morookamanabu
Words & Edit: Kunihiro Miki