「レコードは音質がいい」「レコードの音には温かみがある」とはよく耳にしますが、いまの令和の時代において発売されたレコード、その音質はいかに?ここではクラシックからジャズ、フュージョン、ロックやJ-POPなど、ジャンルや年代を超えて日々さまざまな音楽と向き合うオーディオ評論家の小原由夫さんが最近手に入れたレコードの中から特に<音がいいにもほどがある!>と感じた一枚をご紹介いただきます。

トム・ヨークも参加。レッチリのベーシストが放つジャズアルバム

発売から少々時間が経ってしまったが、それでもここで紹介したかったのは、内容も演奏も素晴らしいから。初期プレスは早々に完売になったものの、幸いなことに5月頃に再プレスとなり、現在も比較的容易に入手できる。フリー(Flea)の2枚組LP『Honora』を今回採り上げる。

フリーは、言わずと知れたあの米西海岸を拠点にワールドワイドに活躍するオルタナティブ/ファンクロックバンド、レッド・ホット・チリ・ペッパーズ(Red Hot Chili Peppers)のベーシストだ。となると、バリバリのロック系ソロアルバムかと思いきや、さにあらず。何とゴリゴリのジャズアルバムなのである。

フリーはステージでもトランペットを演奏することがあり、日頃からジャズに対するリスペクトを示している。彼がこのファースト・ソロ作にて集めたメンバーは、いずれも現代最先端のジャズを奏でる先鋭たちといってよい。プロデュースを担ったサックス奏者のジョシュ・ジョンソン(Josh Johnson)を筆頭に、ギターのジェフ・パーカー(Jeff Parker)、アコースティックベースのアナ・バターズ(Anna Butterss)、そしてドラムのディアントニー・パークス(Deantoni Parks)。彼らリズムセクションが醸し出すグルーヴが実に心地よくてカッコいい。

さらにヴォーカルには、レディオヘッド(Radiohead)のトム・ヨーク(Thom Yorke)、ニック・ケイヴ(Nick Cave)等が参加。フリー自身は作曲と編曲を手掛け、全編でトランペットとベースを演奏しながら、一部の楽曲でヴォーカルを務めている。

レコーディングは2025年2月に米ハリウッドのSunset Soundで実施された。録音エンジニアはクリント・ウェランダー(Clint Welander)、編集はライアン・ヒューイット(Ryan Hewitt)、マスタリングはエリック・ブーランジェ(Eric Boulanger)とクレジットされている。

アルバムに収録された全10曲は、ヴォーカル曲とインストゥルメンタルがいい按配の配分だ。その中には、ジョージ・クリントン(George Clinton)やジミー・ウェッブ(Jimmy Webb)のカバー楽曲も含まれる。

A-2「A Plea」は、Lチャンネルにギター、Rチャンネルにエレキベース、ファントムセンターにアコースティックベースが克明にレイアウトされている。フリーの歌唱はほぼ絶叫に近いスポークン・ワードで、米国と他国の分断を嘆くポリティカルな意味を孕んだプロテストソングの様相を呈する。

本作はとにかく楽器の音が抜群によく、ナチュラルで鮮度が高い。トム・ヨークが作詞し、歌うA-3「Traffic Lights」はその典型的な楽曲で、リズムのピッチは微動だにせず、ブラスのアンサンブルとそのハーモニーが立体的。延々と続くベースのリフとハイハット・シンバルが繰り出すグルーヴ感が堪らない。

B-4「Willow Weep for Me」は、「柳よ泣いておくれ」の邦題で知られるジャズ・スタンダード曲。それをここまで崩したイメージで演奏してしまう編曲の凄さに脱帽だ。フリーのトランペットも、余興の域をもはや越えている。

ちなみに楽曲収録は2枚組の3面までで、D面には、ハート等のイラストと「A Plea」の歌詞がエッチングにて手書き刻印されている。

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Words:Yoshio Obara

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