第2回:告井孝通(音楽プロデューサー/ギタリスト)
「ATH-M50x」の魅力やポテンシャルを、第一線で活躍するプロフェッショナルの声を通し伝える連載企画。

その高解像度の音質により、世界中のスタジオエンジニアやトラックメイカー、DJから愛され続ける、オーディオテクニカのプロフェッショナルモニターヘッドホン「ATH-M50x」。 本連載では、日本の音楽シーンの第一線で活躍するプロフェッショナルの声を通してその魅力やポテンシャルに迫っていく。

第2回に登場するのは、音楽プロデューサー/ギタリストの告井孝通氏。 4人組のミクスチャー・バンドであるMUSCLE DOGGY GROOVESのギタリストとして音楽業界にデビューし、フジロックフェスティバルへの出演や海外アーティストの前座を経験。 2000年より音楽プロデューサーとして、FLOWやジャニーズWEST、BLUE ENCOUNTなど、様々なアーティストへの楽曲提供/アレンジ/レコーディングを行いつつ、サポートミュージシャンとしても、川本真琴やback numberらのライブに参加するなど、幅広く活動している。 そんな告井氏に、「ATH-M50x」に感じたことや、サウンドへのこだわり、DIYで作り上げたプライベートスタジオなどについて、話を聞いた。

「ATH-M50x」はボーカリストやプレーヤーが楽しくなるヘッドホン

まず「ATH-M50x」を実際に使用されてみて抱いた印象についてお聞かせください。

ボーカリストやプレーヤーのベストなパフォーマンスを後押しするモニターヘッドホン。 それが僕の「ATH-M50x」に対する見解ですね。 レコーディングやライブで気持ちのいい音でモニターできるので、楽しく歌ったり演奏したりすることができる。 例えばSnarky Puppyとか、動画配信サイトでライブや演奏動画を配信しているアーティストで、ATH-M50xを使ってる人がわりといるんです。 「なんでだろう?」と以前から気になっていたんですけど、実際に使ってみてその理由がわかった気がします。

Snarky Puppy「 What About Me? (We Like It Here)」

「ATH-M50x」の出音のどんなところが「気持ちいい」と感じさせるのでしょうか?

ローの出方が大きいですね。 キックの帯域で一番おいしいところがフォーカスされているような出音で、シンプルに聴いていてテンションが上がります。 レコーディングやライブの時って、ミックスが追い込みきれていない状態なんですけど、ATH-M50xがそれをいい感じに補強してくれますね。

ATH-M50x
「ATH-M50x」は、世界が認めた“M50”の次世代モデルとして2014年に発売。 現場のニーズに応える高解像度モニターヘッドホンとして、国境を越えた様々なシーンで愛され続けている。

装着感や遮音性についてはどの様に感じましたか?

装着感は持っているヘッドホンの中でも、一番好みかも知れないですね。 密閉感もいい感じですし、重くないのも素晴らしい。 重たいヘッドホンだと、首が凝るというか、疲れちゃうんですよ。

重さは長時間にわたり作業をする上でとても大切ですよね。

ええ。 僕の周りでも、それが理由でヘッドホンを変えた人も少なくありません。 あと、外のスタジオにも持っていく時もありますので、折りたたみできるようになっているのはとてもありがたいです。 専用のセミハードケースがあるとさらに助かるので、ぜひオーディオテクニカさんに作ってもらいたいですね(笑)。

ATH-M50x

スタジオでのモニターヘッドホンや「ATH-M50x」の使用用途

普段スタジオではモニタースピーカーとモニターヘッドホンをどの様に使い分けていますか?

モニターヘッドホンに優位性があることで一つ確実に言えるのは、MS感のチェックですね。 モニタースピーカーは、吸音をどう工夫しても、音が反射して定位が混ざってしまうことを避けられません。 その点、ヘッドホンはLとRが物理的にきっちりと分かれていて、はっきりとMSを捉えることができますから。 あと、ノイズチェックも。 そういう事故がないかの確認は、やはり耳に近いヘッドホンで行うようにした方がいいですね。

告井さんは「ATH-M50x」をどのような用途で使うことが多いのでしょうか?

ボーカル録りのモニターが一番多いですね。 「ATH-M50x」だとスムーズにいくことが多いというか、モニターで悩む人が減ったなと感じています。

その理由は何だと思いますか?。

スタジオでデフォルトで用意されているモニターヘッドホンって、カチッとした固い出音のものが多いんです。 もちろん、それは悪いことじゃないんですけど、自分の声がそう聴こえることに慣れていなかったり、違和感を覚えたりする人も少なくなくて。 そういう人は、ATH-M50xの解像度がありつつローがいい感じで補強される出音の方が、気持ちよく歌えるんだろうなと。

なるほど。

あと、自分ではアコギの録音にも使いますね。 外のスタジオでやる時にも持っていったり。
カチカチな「痛い音」でモニターすると、演奏のタッチが弱くなっちゃうんですよ。 なので、僕はボーカリストやプレーヤーの方達がレコーディング用のマイヘッドホンを持つことは全然ありだと思っていて。 気持ちよくパフォーマンスできないと、いいテイクが録れないですから。 音楽制作においては、音質や音色も大切ですが、ボーカリストやプレーヤーのテイクも重要な要素。 その意味で、ATH-M50xは「いいテイクが出やすいヘッドホン」として、楽曲のクオリティアップに貢献すると言えるかもしれませんね。

告井孝通氏

スタジオのこだわりとその役割

ところで、こちらのスタジオはDIYで作られたと伺っています。 スタジオづくりにおけるこだわりを教えてください。

今まで住んでいたところでも、それなりにDTM環境は整えていたんです。 でも、お隣さんにビクビクしながら音を出す生活はもう嫌だと思って(笑)。 知り合いの不動産屋に相談して、2019年にここに引っ越してきたんです。 場所や予算の面で少し迷っていたのですが、(現在スタジオとして使用している)この地下のスペースを見た時に、ここしかないな、と。 ピンときて。 地下は完璧な防音ですから。

ただ、そのままの状態だと、音の反射がすごくてスピーカーから音を出すとめちゃくちゃリバーブがかかっちゃう感じで。 それでは制作する上で困るので、吸音材を設置したり床を工夫したりしながら、整えていったんです。 モニタースピーカーをAMPHIONに変えたのも大きくて、それでようやく納得の行く出音で作業することができるようになりました。 今でも有識者にここに来てもらって、もっと良くしていくためのブラッシュアップは続けています。

スタジオ
スタジオ

この場所は告井さんに活動においてどのような役割を担っているのでしょうか。

僕は、その領域を担当することもあるのですが、エンジニアやミキサーではありません。 この場所は、プロデューサー・コンポーザーである僕が、思いついたアイデアをすぐに試して、イメージを形にするためのアトリエ、プロダクション・スタジオみたいなものですね。 サウンド・クオリティの面ももちろん大切にしていますが、ものを生み出すことを第一に考えた機材、セッティングになっています。 ここで最終形が見えるイメージを作ってから外のスタジオに行くと、とてもスムーズに作業が進みます。 また、スタジオの閉塞感が苦手というアーティストもいたりするので、そういう場合はここでレコーディングを行って、そのテイクを最終的に使うこともありますね。

告井孝通氏
ATH-M50x

「いい音」を生み出すためには

抽象的な質問となりますが、告井さんが考える「いい音」とはどの様なものでしょうか?

楽曲に合っていることですね。 「音質がいい」ということではなくて、その曲において感じさせたいイメージや時代性に合った音であることが、何よりも重要で。 その後に、それを実現するために必要な手段やクオリティを精査し、詰めていく作業があるのだと思っています。

スタジオでリファレンスとしている作品について教えてください。

まず、ACOの『material』(2001年)。 UKダブの重鎮であるAdrian Sherwood(エイドリアン・シャーウッド)がプロデューサーを務めていて。 彼ならではのディープなサウンドに日本語の歌が違和感なくハマっていて、そいういったバランス感もとてもおもしろい作品なんです。

ACO『material』

そしてこれは定番ですが、Bruno Mars(ブルーノ・マーズ)の『24K Magic』(2016年)。 ただ、この作品はどんな環境でもめちゃくちゃいい音で聴こえるので、果たしてリファレンスとして最適なのか?っていうことも思ったりもしています(笑)。 Jimmy Edgar(ジミー・エドガー)とMachinedrum(マシーンドラム)によるユニットであるJ-e-t-s(ジェッツ)の『Zoospa』(2019年)もリファレンスとしてよく使っています。

Bruno Mars『24K Magic』
J-e-t-s『Zoospa』

最後に、新しいモニター・ヘッドホンの購入を検討している方にアドバイスをいただけますか?

もし可能であれば、タイプが異なるヘッドホンを2つ以上持つことをおすすめします。 「こっちで聴いたらいい感じだけど、別のもので聴いたら全然ダメ」みたいなことがあるとまずいじゃないですか?そういったミックスの破綻を防止するために、多角的にチェックできる環境を持っておいた方がいいですね。 既に固い音がでるヘッドホンを持っているのであれば、これ(「ATH-M50x」)を買い足してみるとか。 さっきの「いい音」という話もそうですけど、音楽って相対的なもの。 複数の環境で俯瞰的に捉えることが、いいアウトプットを生み出すことにつながっていくのだと思います。

ATH-M50x

プロフェッショナルモニターヘッドホン

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Words: Takahiro Fujikawa
Photos: Wataru Kitamura