今、世界的な再注目の最中にあるアナログ・レコード。 デジタルで得られない音質や大きなジャケットなどその魅力は様々あるが、裏面にプロデューサーやバックミュージシャン、レーベル名を記した「クレジット」もその1つと言えるだろう。

「クレジット」――それは、レコードショップに並ぶ無数のレコードから自分が求める一枚を選ぶための重要な道標。 「Credit5」と題した本連載では、蓄積した知識が偶然の出会いを必然へと変える「クレジット買い」体験について、アーティストやDJ、文化人たちが語っていく。 あの人が選んだ5枚のレコードを道標に、新しい音楽の旅を始めてみよう。

Mike Pedenが考える「アナログ・レコードの魅力」

思い返せば50年以上前からレコードを集めています。 レコードには収録されている音楽だけでなく、デジタル・フォーマットとは比べ物にならない、暖かくて豊かな音質が存在してます。 レコードをスリーブから滑らかに取り出し、ターンテーブルの上に置き、針を下ろすという、レコードを扱う際の触覚的な儀式は、CDやデジタル・ストリーミングでは再現できない音楽との関係性を与えてくれます。 大きなサイズのLPアルバムのアートワークは常に魅力的であり、かつてはしばしば購入の選択に影響を与え、時には音楽のためではなく、スリーブのアートワークだけのためにアルバムを購入することもありました。 年を重ねるにつれ、コレクターズ・アイテムの魅力はますます大きくなってきました。 リイシュー盤を買うことから、オリジナル盤を追い求め、探し求めることに重点を移しました。 この趣味はお金も時間もかかるし、十分な忍耐力が必要です。 しかし、ついにアルバムを手にし、ターンテーブルの上でレコードが回った時に訪れるこの上ない満足感は、本当に筆舌に尽くしがたい感覚です!

Mike Pedenが「クレジット買い」した5枚のアナログ・レコード

アルバムのクレジットの詳細を探ることは、言語に関係なく、私が長年にわたって世界中のジャズを探求する上で欠かせない事でした。 レコーディングの場所に関係なく、アルバムに英語のクレジットが含まれていることは、世界各地、特に日本の素晴らしい音楽の宝庫を発見する道を提供してくれました。 私は幾度も旅行をし、クレジットに書かれている情報をあてにしながら、ジャズ・アルバムの多種多様なコレクションを収集してきました。 音楽自体が最終的な目的地ですが、クレジットがしばしば道を切り開いてくれたのです。

Pacific Jam 『Pacific Jam』

Pacific Jam 『Pacific Jam』

1980年代初頭、イギリスのクラブ・シーンでは日本のジャズ・ファンクが爆発的にプレイされ、ディスク・エンパイアやシティ・サウンズといったロンドンの専門店は、そのファンの欲求を満たすために日本から大量のレコードを輸入していました。 私はその頃南部のボーンマスという町に住んでいて、幸運なことに地元にもソウル・センターという、似たような店があり、輸入盤をすべて取り揃えていました。 入荷したばかりの日本盤をパラパラとめくっていると、『Pacific Jam』というタイトルのカラフルなスリーブが目に留まったのです。

スリーブを読むと、このアルバムは松岡直也と土岐英史がプロデュースしたもので、私は初めて聞いた陣営でした。 しかし、この40年前のクレジットには、クルセイダーズ(The Crusaders)や私が持っていたUSジャズ・ファンクのアルバムで見覚えのあるLAのセッション・ミュージシャンがずらりと並んでいました。 フローラ・プリム(Flora Purim)もこの作品で歌っていたので、このレコードはサンバ/ラテンの影響を受けているに違いないと確信し、UK盤の普通のレコードよりも3倍の値段だったにも関わらず購入しました。

クレイジーなパーカッションが入っているサンバ系の曲「Pao De Acucar」やダンスフロアを盛り上げそうな曲「Antes De Nais Nada」は大のお気に入りです。 「Toyland」は20年後の2003年にゴンザレス鈴木の渋谷ジャズ・クラシックス・コンピレーションにも収録されていました!

Bobby Paunetto『Paunetto’s Point』

Bobby Paunetto『Paunetto’s Point』

1980年代後半から90年代初頭になると、私は更に遠くを探検し、新鮮な音楽と出会うためにカリフォルニアを旅しました。 以前からアフロ・キューバン・ジャズやラテン音楽の熱心なファンで、特にティト・プエンテ(Tito Puente)やエディ・パルミエリ(Eddie Palmieri)といったアーティストのファンだったので、これらのレコードを見つけるにはアメリカが最適でした。

バークリーのアメーバミュージックというショップで、それまで知らなかったボビー・パウネット(Bobby Paunetto)というヴァイブ奏者のレコードが壁に飾られているのを見つけました。 そのアルバムは『Paunetto’s Point』で、見開きのスリーブを開けると、リズム・セクションにはマニー・オケンド(Manny Oquendo)と、70年代初頭にエディ・パルミエリと共演したものの金銭面なトラブルで大喧嘩して脱退したジェリーとアンディのゴンザレス兄弟がリズム隊として参加していました。

また、ボビー・パウネットの事をジョン・ストーム・ロバーツが書いた独創性に富んだ本『The Latin Tinge』で、彼はこのアルバムについてこう表していました。 「アフロ・キューバン・ドラミングからチャランガ・ヴァイオリンまで、事実上すべてのキューバ音楽に触れており、ジャズへのアプローチは70年代初頭のモーダルやフリー・リズムの実験に色濃く影響を受けている」と。 本作に収録されている音楽は言うまでもなく素晴らしく、今でも私のお気に入りのラテン・ジャズ・アルバムの一枚です。

Mtume Umoja Ensemble『Alkebu Lan Land Of The Blacks』

Mtume Umoja Ensemble『Alkebu Lan Land Of The Blacks』

このアルバムは、私が90年代に初めて購入したフリー・ジャズ・アルバムのひとつです。 中身の音楽に何を期待していいのかわからなかったのですが、いくつかの理由からこのアルバムは特別なものであると確信していました。

まず第一に、このアルバムは、アーティストが独立して妥協のないジャズ音楽を制作することで有名なレーベル、Strata-East(ストラタ・イースト)からリリースされていました。
次に、目を見張るようなジャケット・アートと特徴的なタイポグラフィが目を引きました。
そして極めつけは、スタンリー・カウエル(Stanley Cowell)、ゲイリー・バーツ(Gary Bartz)、バスター・ウィリアムス(Buster Williams)、エムトゥーメイ(Mtume)といった豪華なミュージシャンが、ブルックリンの文化の中心地であり、黒人ミュージシャン達が集まり、演奏できる週末ジャズ・クラブ、サロン、コンサート会場として機能していた「イースト」でライブを行っていた事です。 過去30年間、私はこの画期的なセッション盤を4枚所有してきましたが、1974年の日本盤プレス盤は今でも持っていてプレイし続けています。 しかし、残念ながら、美しい帯がないのが悲しいです。

Graham Collier Music『Songs For My Father』

Graham Collier Music『Songs For My Father』

このレコードは、私がブリティッシュ・ジャズを探求し始めてから初めて出会った作品であり、忘れがたい入門になりました! 発見したきっかけは、誰かからもらったカセットテープにこのアルバムに入っている「Song One (Seven Four )」が収録されていたからです。
当時、私はアメリカのジャズにどっぷり浸かっていて、自分の国にジャズの豊かな文化遺産があることに気づいていなかったのです。 LPを探すにあたって私が頼りにしていたのは、この曲名とグラハム・コリアー(Graham Collier)というアーティスト名だけでした。 当時、イギリスのジャズ・アルバムは今ほど手に入れにくくはなかったですが、それでも数年間、熱心に探してようやく探し出すことが出来ました。

クレジットを見ると、知らないアーティストがたくさんいることに驚きました。 それは、ジョン・テイラー(John Taylor)、アラン・スキッドモア(Alan Skidmore)、ハリー・ベケット(Harry Beckett)といった著名人の、まさにブリティッシュ・ジャズのWho’s Whoだったのです。
この発見をきっかけに、ブリティッシュ・ジャズの収集を始めました。 それぞれのアーティストの他のレコードを探し求め、そのソロでのプロジェクトを探求していったのです。 彼らはイギリスのジャズ界にとって重要な貢献者であり、既にイギリスで制作された、あるいは後に制作されることになる最も注目すべきレコードを生み出した存在でした。 このレコードのクレジットが、私をジャズ収集における最も魅力的な旅の一つへと導いてくれたのです。

松風鉱一トリオ+大徳俊幸『Earth Mother』

松風鉱一トリオ+大徳俊幸『Earth Mother』

このレコードを発見できたのは、レコードのクレジットというよりも、私の親愛なる友人である村上裕一郎さんのお陰でした。
私はOrgy In Rhythmというブログをやり、裕一郎さんも別のブログをやっていて、ジャズについて語り、共有することをそれぞれにキュレーションしていて、デジタルの世界ではすでに繋がっていました。 私が初めて日本を訪れた2013年に、東京で遂に彼と直接会うことができたのです。

三軒茶屋にある「Jazz Inn Uncle Tom」というジャズ喫茶で会った時間は、とてもスリリングでした。 夜が更け、ビールと焼き鳥を食べに東京のバーを探検するうちに、私たちの話題は日本の無名でレアなジャズLPの話になりました。 彼は、70年代後半に東京のインディ・レーベルALM(コジマ録音)からリリースされた、非常に入手困難なアルバム『Earth Mother』をかなりの時間をかけて手に入れており、私にも探すように強く勧めたのです。 激しくドライヴするタイトル・トラックを熱っぽく語り、アルバム全曲を熱狂的に賞賛し、その素晴らしさを鮮明に伝えてくれたので、このアルバムを探し出すことを決意しました。

その後8年もの間、インターネット上はもちろん、旅先でもあちこち探したのですが、なかなか出て来ませんでした。
しかし、再び東京を訪れた際に、以前から私のことを信頼してくれて、何枚もレコードを売ってくれた友人の北村響介さんに会った時、彼はバッグの中から『Earth Mother』を取り出し、笑顔で「あなたが探していたのはこのアルバムですか?」と尋ねてきたのです。

そして数年後、幸運にもBBE Musicの「J Jazz Masterclass Series」の一環として、このアルバムを再発する権利を得ることが出来ました。 この珠玉の作品をより多くの聴衆と分かち合う事は、私たちにとって大きな喜びでした。 その後も私たちは他の松風さんの再発に関わり、彼が存命中、より多くの聴衆にそれを届けることができ、彼がふさわしい評価を得たことに感激しています。

Mike Peden

マイク・ペデンは、現在19枚を数える「J Jazz Masterclass」の再発シリーズの共同キュレーターの一人で、同シリーズをBBE Musicからリリースしてます。 同レーベルから「J Jazz: Deep Modern Jazz From Japan」のコンピレーション・シリーズもコンパイルし、リリースされました。 また、パー・ハズビー・セクステットの、希少なノルウェーのプライベート・プレス・アルバム『The Peacemaker』の再発を同レーベルからリリースするためのキュレーションも行っています。 2024年5月にBBE Musicから出版予定の『Jazz: Free and Modern Jazz From Japan 1954-1988』という本の共同プロデューサーでもあります。

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Edit:原 雅明 / Masaaki Hara
Translate:Ken Hidaka