ハイレゾやロスレス配信が広く普及した現在でも、ラジオは多くの人に親しまれています。では、アンテナで受信するFMラジオの音を、もっと良くできるとしたらどうでしょうか。実は、受信環境に少し手をかけるだけで、電波を受信するFM放送の音質は大きく変わります。そこで、オーディオライターの炭山アキラさんが、FM放送をより高音質で味わうためのポイントを具体例を交えながら解説します。

FM高音質化の第一歩は「アンテナ」に

ポケットラジオやカーラジオの多くは、望遠鏡のように伸縮させられるロッドアンテナや、短い棒の中にコイルを巻いて受信感度を高めたショートアンテナなどでラジオの電波を受信し、番組を楽しむことができています。しかしそれらは、簡単なアンテナで微弱な電波を受けてもしっかりと番組が聴けるように、音質を若干犠牲にした回路となっていることが普通です。

また、2010年からインターネット上でラジオが聴けるradikoサービスが開始されました。とても便利なもので私も時折使っていますが、ネットによる大規模配信サービスであるため、どうしてもあまり高いビットレートにできないのが苦しいところです。現在は非常に新しいHE-AAC v2という圧縮フォーマットを使っていて周波数特性はほぼ満足できるものの、48kbpsというビットレートで送信されており、アナログのFM電波をダイレクトに受信する方法には、絶対的な情報量はかないません。

しかし、後述するマルチパス障害などには無縁のクリアな番組聴取が可能ですから、電波が弱くて、あるいは高層ビルが林立していて、上手くラジオが受信できない場所へお住まいの人にとっては、むしろradikoの方が良好な音質で楽しめるかもしれませんね。

一方、いわゆるオーディオコンポーネントの中へ組み込んで使うFMチューナーは、廉価なものでも基本的に十分な電波を受けて最善の受信・再生ができるように作られています。ここでは、それらのチューナーを使いこなすための方策を解説していきましょう。

オーディオコンポーネントの中へ組み込んで使うFMチューナーは、基本的に十分な電波を受けて最善の受信・再生ができるように作られています

FM放送は、原理的に高域の上限を15kHzまでしか伸ばすことができません。今は理論的に100kHz以上まで収めることのできるプレミアムなハイレゾ音源が珍しくなくなりましたし、FMはすっかり時代遅れの「低品質ソース」だと思われがちです。しかし、本当にそうでしょうか。

FMを良い環境で受信するために必要なのは、まず電波の強さ、次に電波障害の防除です。電波をよりしっかりとキャッチするためには、あなたのお住まいが送信される電波塔からどれくらいの距離があるか次第で、必要とされるアンテナが変わってきます。今は地デジ時代で、昔のアナログテレビよりもアンテナが随分小さくなりましたが、FMアンテナは往年のVHFアンテナ(アナログ放送を受信するためのアンテナ)よりもずっと大きく、後ろ側へ向けて徐々に横棒のような「素子」が大きくなっていたり立体的になっていたりしない、巨大な板の骨組みといった風情のアンテナです。

後ろ側へ向けて徐々に横棒のような「素子」が大きくなっていたり立体的になっていたりしない、巨大な板の骨組みといった風情のアンテナ

一般的なFMアンテナは3素子、5素子、8素子といった具合に、いろいろな素子数と大きさのものを選ぶことができます。素子が多くなるにつれて受信できる電波の指向性が高まり、つまり真正面以外の電波を拾いにくくなります。それだけ微弱な電波でも、高い感度で受信できるようになるというわけですね。知人で茨城県は筑波山の麓近くに住み、10素子のFMアンテナで放送受信を楽しんでいる人がいます。訪れて聴かせてもらったことがありますが、都心にある電波塔から50kmほども離れているというのに、実に高解像度でノイズレスな、素晴らしい受信環境でした。

電波自体の受信感度が不足すると、ジーという定常的なノイズや、声のとりわけサ行に嫌な歪みが乗ることになります。電波塔から遠い弱電界でも、多素子のアンテナを使えば受信感度が改善してノイズが減少する、ということですね。

また、アンテナの指向性が高まるということは、「マルチパス障害」の悪影響を受けにくくなる、ということでもあります。この喩えもすっかり使いにくくなってしまいましたが、昔のアナログテレビ時代、テレビに映る役者やキャスターの右側に、同じ形の薄い像が見えていることが多かったことを、ご記憶の人がおられると思います。あれは送信塔から直進してくる電波に、経路途中の高層ビルなどに反射した電波が重なることで起こる電波障害で、「ゴースト」と呼ばれました。マルチパスは、そのFM版と思ってよいでしょう。

電波自体の受信感度が不足すると、ジーという定常的なノイズや、声のとりわけサ行に嫌な歪みが乗る

このマルチパス障害が発生すると、再生音にジリジリ、ビリビリといった感じの、何とも不快な音が混じるようになります。これを防止、あるいは除去するためには、一義的にはビルなどからの反射波を拾わない、指向性の強いアンテナを使うことが求められる、というわけです。

まだある、FM音質改善の手段

しかし、あまり強電界の場所で多素子のアンテナを使うと、今度は電波が強すぎて良好な受信を損なうことがあります。そんな場合は、アッテネーターと呼ばれる電波強度を敢えて下げる装置を仕込み、受信環境を整えることがあります。

もう一つ方法はあり、それは受信する電波の強度は多素子アンテナほど高くないけれど、特殊な機構で指向性を改善した「位相差給電型」と呼ばれるアンテナを用いることです。2素子のものが多く、その見た目から「トンボアンテナ」と呼ばれます。

その昔、貴重な高音質供給源としてFMに情熱を燃やす人が多かった頃は、FMアンテナを立てたポールにローテーターと呼ばれる回転装置を取り付け、高級チューナーに装備されていた「V-H端子」をオシロスコープに接続し、波形を見ながら精密にアンテナの向きを調整して、最善のFMを楽しみ、特に海外ライブ音源などを録音なさっていたマニアがおられたものです。

貴重な高音質供給源としてFMに情熱を燃やす人が多かった頃は、最善のFMを楽しみ、特に海外ライブ音源などを録音していたマニアがいた

翻って現在、そこまでしようにももうV-H端子を備えたチューナーなんて絶えて久しく見かけないし、高級FMチューナー自体が絶滅危惧種となってしまっていますからね。ちなみに、ローテーターはアマチュア無線機器として、今も入手は可能です。

アンテナの更新とチューナーで、驚くようなFM高音質体験を

ならば、現代においてFM受信はもう高音質を求めることができないのか。いえいえ、決してそんなことはありません。ローテーターを設置しないなら、FMアンテナは地デジTVアンテナと同じポールに立てることができますから、もしあなたが一戸建てにお住まいでしたら、この次アンテナを更新する時にでも、電気屋さんに「FMアンテナを立てたい」と頼めば、それほど大きな追加料金なしに立てることが可能でしょう。

電気屋さんに「FMアンテナを立てたい」と頼めば、それほど大きな追加料金なしに立てることが可能

「アンテナを更新する!?」と意外に思われた人がおいでかもしれませんが、屋外で風雨に晒されるアンテナは、本当は消耗品と考えるべきなのです。内陸部で5年、海辺の近くでは1〜2年といわれていますが、そこまで頻繁でなくとも、定期的にアンテナを取り替えることで、テレビの画質も向上しますし、FMの高音質受信にも大切です。

あなたのお住まいがマンションだと、FMアンテナを立てるハードルは一気に高まりますが、昨今のマンションはその多くにケーブルテレビ回線が通っていますよね。一部のケーブルテレビ業者では、地上波やBS/CSテレビの電波と一緒に、FM放送の電波もアンテナ端子まできていることがあります。もしそうなっているならば、「TV/FM分波器」という装置を使って1個の端子からFMの電波を切り分けることができます。多くの場合、強度十分でマルチパス障害に悩まされることのない、良質の電波がきているものですよ。

もちろんこれは万人に薦められる世界ではありませんが、一つの究極を表したものと捉えて下さい。2025年に登場した新製品のFM専用チューナーがあります。アキュフェーズのT-1300です。FMの電波が端子から入ってきたところでデジタル化し、すべての処理をデジタルで行うことにより、アナログチューナーではどうしても避けられなかった音のにじみをほぼ完全に排除し、何とマルチパスを低減する機能まで内蔵された製品です。

非常によく管理された環境で、6素子のアンテナから給電されたFM放送を聴く機会に恵まれましたが、「これが本当に放送の音なのか!?」と、目から鱗が何枚も剥がれ落ちる体験ができたものです。アナウンサーのナレーションからは放送ブースの吸音質の響きが聴こえ、クラシックのコンサートではオーケストラが広大なホールの奥にどっしりと定位し、しっとりとした輝きを帯びた響きがホール全体に飛び散り、消えていくさまに、思わず息を呑みました。

現代のFM放送局はとても高いクオリティで送出している

「あぁ、現代のFM放送局はこれだけのクオリティで送出しているんだな」という理解と、FM受信にはまだまだやり残したことがあったんだなというチャレンジ精神と。このチューナーから流れる音楽を聴いていると、オーディオマニア魂が強く揺り動かされたものです。

今はピュアオーディオ用の高級FMチューナーがすっかり少なくなってしまいましたが、探してみるとアメリカの名門オーディオメーカー・マッキントッシュ社がMR89という製品を発売しています。日米の老舗がしっかり高品位FM受信の灯を絶やさぬよう頑張っていることを、本当にありがたく頼もしく感じています。

こんな超ハイエンド機器ではなく、比較的手頃なチューナーからでも、適切な受信強度があってマルチパス除去ができていれば、ちょっと驚くような高音質のFM受信ができることは請け合います。私自身も、もっともっとFM放送を楽しもうよと、たくさんの人に声をかけていきたいと思っています。

Words:Akira Sumiyama

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