混沌とした渋谷の中でも特にディープな匂いの漂う道玄坂エリアに位置する渋谷百軒店。
周辺には赤提灯などのクラシックな飲食店から若者が集うお洒落なバー、ラブホテルにストリップ劇場に神社。昭和、平成、令和の全ての時代の要素が入り組んだそんなミクスチャーな感覚を味わえるエリアになっている。
2018年にオープンしたRECORD BAR analogはそのようなエリアに溶け込むミクスチャーなバーになっている。

店内のカウンターとテーブル

オーナーの松鶴隆弘さんは、若い頃兄の影響でクラブミュージック、特にハウスミュージックにハマり、大学生の時に通い始めたクラブの煌びやかな世界に夢中になる。ずっとクラブで働いてみたいと思っていた松鶴さんは20歳になり、代官山の『Air』で働き始める。6年ほど働いた後、新店舗の『Vision』で店長として働き始め、雇用からスケジュール管理、給料計算、イベントの企画など店舗のマネージメントを通してビジネスを学んでいった。5年間の店長業務の中で特にイベントの企画に関わったことにより、それまではハウスやテクノを中心に聞いていたがヒップホップやレゲエなど他ジャンルの音楽に触れ、音楽の幅が広がった。今まで世代が上の、いわゆる大物中心に回っていたパーティーシーンにtofubeatsなどの若手がメインのパーティーを企画して高い集客を記録したりと実績を残した松鶴さん。結果を出したことにより独立心が高まり、イベント会社を立ち上げたが理想を追い求めるほど利益に繋がらない現実に一年ほどでぶつかった。考えた結果、自分の強みであるイベントとお店を作ってきた経験を活かした場所を作ろうと思い、RECORD BAR analogをオープン。

ソファと飾られたレコード、熊手

昔から遊んでいた友人達が家族を持ち始めたり、生活のスタイルが変わりクラブやイベントにあまり行かなくなった世代に対して音楽を楽しめる場所を提供したかったとのこと。

モダンな印象の店内なのだが、レトロな柄の壁紙やテーブルゲーム機、所々に昭和のスナック感も醸し出していてレトロフューチャーなミクスチャー感が唯一無二な空間となっている。お酒はもちろんだが、よく出る人気メニューの一つに昭和生まれの人間には懐かしいメロンクリームソーダがあり、今の若い世代に響いていると言う。

メロンクリームソーダ
テーブルゲーム機

いわゆるジャズバーやソウルバーにはしたくなかった松鶴さん。スピーカーにAltec A7アンプにAltec1569A プリアンプにAltec1567A ターンテーブルはGarrad 301と、60-70年代のビンテージオーディオを揃えているのだが、あえて最新のポップスやヒップホップ、R&B、シティポップから昔ながらの歌謡曲までかけている所が斬新でありユニーク。店内にあるレコードラックからレコードを掘り、お客さんは1曲だけリクエストできるようになっていて、さながら老舗のジャズ喫茶の様な仕様になっているが流れる音はビリーアイリッシュやトラヴィススコットだったりしている。

ターンテーブル

店のコンセプトと最新のポップスなどのレコードを取り揃えていることがSNSや口コミで若い世代に話題になったり、レジェンドDJであるDJ Harveyが東京に来たら訪れるべき店の上位に選んでくれたりと海外からのお客様も多い。
人気店になりお客さんが入れないほど店が手狭になってしまっていたのと、ヒップホップのリクエストが圧倒的に多くなってきたのをきっかけに2店舗目のMUSIC BAR BOUNCEを徒歩1分ほどの立地に今年オープン。

バスケットゴールをモチーフにしたネオン管のライトオブジェ

BOUNCEでは主にブラックミュージックを楽しめる様になっておりコンクリート打ちっぱなしのアーバンな店内に『少年インザフッド』の漫画家SITE氏が描いたグラフィティやバスケットゴールをモチーフにしたネオン管のライトオブジェ、ブームボックスやブラックミュージックの名盤が並ぶバーシェルフ、analogとはまた違う洗練された大人の遊び場という雰囲気の空間になっている。

長テーブル
カウンター内の壁の棚

他にも松鶴さんが敬愛する細野晴臣氏の音楽を現代へ受け継いでいきたいと思った事をきっかけに、HAPPYEND RECORDS & TAPESという独自のフィルターを通したレコードとカセットテープを取り扱うオンラインショップを経営しており、松鶴氏の造詣の深さと熱量を感じることができる。
音楽というフィルターを通して様々なジャンルをクロスオーバーさせて活動する松鶴氏は、今後の展開としていつか自分のクラブを持ちたいとの事。
きっとまた他にはないような場所になるのだろう、どんな箱になるのか今から楽しみだ。

RECORD BAR analog

〒150-0043
東京都渋谷区道玄坂2-20-9 リアライズビル3階
営業時間
20:00 – 27:00
定休日 不定休
電話番号 03-6416-1228

Photos & Words by Masahiro Takai