鎌倉駅に降り立ち、潮の匂いが鼻を抜けるとすぐそこにある海を感じることができる。歴史的な建造物と自然に囲まれた街並み。都会の喧騒から離れてこの地に来ると、永井博やわたせせいぞうのイラストの世界観に飛び込んだかのような感覚に陥る。モダンな外観のお店が数多く点在する由比ガ浜通りの一角に建つ、真っ白な建物。その二階へ続く階段に目を向けるとネオンサイン『Bar Sharuman』の文字が目に入る。

重量感のある入り口のドアとスピーカーのイラストがポップなオリジナルマットに出迎えられ、右手にあるもう一枚のドアを開けると、ウッドとコンクリート、メタルを基調としたミッドセンチュリーモダンな空間が広がる。鎌倉の自然と海風が香る街並みと相まって、優しい自然光に照らされたクリーンな店内の居心地の良さがすぐに感じられる。

ロゴ入りのマット

オーナーは東京生まれの柴田讓治氏。もともとは母親が同じ鎌倉市内の小町通りでクラブ「しゃるまん」を50年以上にわたり経営していた。店名の由来はチャーミングなどを意味するフランス語「Charmant」 から。その名前を引き継ぎ、『Bar Sharuman』として現在の場所で2018年に移転オープンさせた。

しゃるまん看板
店内のカウンター

柴田氏は幼少の頃、両親に連れられてよく映画館に行っていた。その影響で(特に加山雄三の若大将シリーズやジェームス・ボンドの007シリーズから)映画音楽が好きになり、レコード屋に連れて行ってもらった事が音楽にハマっていくきっかけだった。小学生時代はグループ・サウンズ、寮生活を送っていた中学生時代には先輩が持っていたディープ・パープルやキャロル・キング、サイモン&ガーファンクルなどを聞き、ロックやポップミュージックに触れた。そしてマーヴィン・ゲイやダイアナ・ロスに触れ、ソウルやディスコミュージックにのめり込んでいく。その当時、彼にとってディスコは大音量で音楽が聴ける場所であり、踊る事よりも音楽を大きな音で聞く事を楽しみに通っていた。
その後はニューウェーブ、打ち込みのダンスミュージック、ヒップホップなど時代の流れとともに様々なジャンルの音楽に触れてきた。自分のフィルターを通して良いと思った音楽は良いものだ、というスタンスでレコードを購入してきた。

スピーカー

店内のデザインは柴田氏が音に惚れ込んで購入したTannoy GRFを中心に設計されている。パワフルな音のMclntosh 275とクリアで繊細な音のMarantz Model 8。ふたつのアンプを日によって切り替えて使っている。ミキサーはAllen & Heath、ターンテーブルはTechnicsを使用している。

営業時はお客様の雰囲気を汲み取ってレコードを選んでいる。取材時、柴田氏に選んで頂いた曲はトム・ミッシュのアルバム『Quarantin Sessions』から「Chain Reaction」だった。ジョーダン・ラカイのボイスエコーからトム・ミッシュのギターリフが鳴り響き始めると、ライブレコーディングのザラっとした空気感、繊細なピッキングの音がクリアで暖かく耳に入りこんできて、つい目を閉じて聴き入ってしまいたくなる。この音響でお酒が入ったらついつい長居してしまいそうだ。ドリンクはウィスキーを中心に、オリジナルカクテルも提供している。

アンプ

現在3,000枚ほどあるレコードは、ロック、R&B、AOR、ジャズ、ソウル、ディスコ、ボサノバ、ラテンなど幅広いジャンルが揃っている。客層は20代から70代までと幅広く、主に音楽好きなお客さんが多い。インスタライブなどSNSでの活動もあり、地元のみならず様々な場所からSharumanまで足を運んでくれる人が増えているそうだ。「今後はさらにメジャーなバーとなる事を目指して、音やお酒、サービスなどのクオリティーを上げていきたい」と柴田氏は語った。

スタイリッシュな店内と心地よい開放感を感じるレイアウト、至高の音、美味しいお酒。音楽好きもそうでない人も、鎌倉に来たらぜひ訪れてほしい隠れた名店だ。

柴田讓治氏

Bar Sharuman

〒248-0014
神奈川県鎌倉市由比ガ浜 1-3-5-1
Tel 0467-23-1010
営業時間 17:00 – 23:00 (22:30 L.O.)
定休日 水曜日、木曜日
店内禁煙 テーブルチャージ¥500

Photos & Words by Masahiro Takai