昭和時代、日本独自のポピュラーミュージックとして数多くの名曲を生んだ「歌謡曲」。その魅力をひも解く本企画では、アーカイヴァーの鈴木啓之さんにご案内いただき、世代を超えて愛され続ける名曲をその背景とともに紹介していきます。
今回とり上げるのは、キャンディーズの「銀河系まで飛んで行け!」。アイドルグループとして人気を博した彼女たちが放ったポップで華やかな一曲には、一体どんな物語があるのでしょう?
活動期間わずか5年、伝説の昭和アイドルグループ
2025年7月から9月までYouTube及びTOKYO MXで放映されていたアニメ『銀河特急 ミルキー☆サブウェイ』の主題歌に、キャンディーズ「銀河系まで飛んで行け!」が使われている。ファンの間ではよく知られている曲ながら、アルバム曲なので一般的にはあまり知られていないはず。それでも当時コンサートで歌われたり、テレビ番組で披露される機会もあった。
キャンディーズは渡辺プロダクションが擁していたダンス&ヴォーカルグループ、スクールメイツに所属していた伊藤蘭(ラン)、藤村美樹(ミキ)、田中好子(スー)が、1972年4月にNHKの新番組『歌謡グランドショー』のマスコットガールに抜擢された際、番組プロデューサーによって名付けられたという。そして翌1973年9月にCBS・ソニーから「あなたに夢中」で歌手デビューする。プロダクションとレーベルが一緒だった天地真理のチームが制作にあたり、初期は一番年下の田中好子がセンターだった。

ザ・ドリフターズの人気番組『8時だョ!全員集合』などにレギュラー出演しつつも、歌手活動ではなかなか大きなヒットに結び付かなかったが、5枚目のシングル「年下の男の子」で伊藤蘭がメインボーカルとしてセンターに据えられると、初めてベストテン入りとなるヒットを記録。デビュー3年目にして紅白歌合戦への初出場も果たした。作曲の穂口雄右は完成に至るまで何十回も曲を書き直したという。
その後も「春一番」「ハートのエースが出てこない」など次々とヒットを連ね、トップアイドルとして大活躍を遂げた。1976年に遅れてデビューしてきたピンク・レディーを、女性アイドルグループのよきライバルとしてマスコミに取り上げられることが多かった。
「普通の女の子に戻りたい」と宣言し、解散
人気絶頂の1977年7月17日、日比谷野外音楽堂で開催されていたコンサートの終わり間際に突然の解散宣言。当初は9月いっぱいで解散する意思を固めていたが、その後の話し合いで結局半年間先送りとなり、全国縦断ファイナルコンサート〈ありがとうカーニバル〉が開催される。ラストシングルとなった「微笑がえし」はファンの後押しもあって、初のチャート1位を獲得するに至った。
最後の公演〈キャンディーズ ファイナルカーニバル FOR FREEDOM〉は、1978年4月4日に後楽園球場で約4時間に亘って催され、実に5万5千人もの観客が訪れた。その後、各々は芸能活動を再開するも、キャンディーズは一度も再結成されることなく、もはや伝説となった。

アルバムの中の一曲だった
「銀河系まで飛んで行け!」は、キャンディーズの解散が決まった後、1977年12月に出された5枚組ボックスセットのアルバム『CANDIES 1676 DAYS~キャンディーズ1676日~』で発表された。タイトルの ”1676日” はデビュー曲「あなたに夢中」のリリースから後楽園球場で行われた解散コンサート〈ファイナル・カーニバル〉までの日数に因んでいる。
Disc-5の冒頭に収められていたこの曲は、喜多條忠 作詞、吉田拓郎 作曲、馬飼野康二 編曲。この年3月に出されたシングル「やさしい悪魔」の布陣である。さらに9月のシングル「アン・ドゥ・トロワ」も同じチームであった。


キャンディーズが解散していなければ、「銀河系まで飛んで行け!」がシングルリリースされた可能性もある。翌1978年には梓みちよが、1983年には中原理恵がカバーしてそれぞれシングルリリースしたことで、楽曲の知名度は少し上がったかもしれない。

しかし2019年には解散以来41年ぶりに伊藤蘭がソロ歌手としてデビューし、昔からのファンを歓喜させた。何より嬉しいのはコンサートでキャンディーズのナンバーが惜しげもなく披露されること。最新のステージでも「銀河系まで飛んで行け!」は歌われている。こうなると伊藤蘭バージョンもぜひ新録音して欲しいなどと思ってしまうのだ。
鈴木啓之
アーカイヴァー。テレビ番組制作会社勤務、中古レコード店経営を経て、ライター及びプロデュース業。昭和の音楽、テレビ、映画を主に、雑誌への寄稿、CDやDVDの企画・監修を手がける。著書に『東京レコード散歩』『昭和歌謡レコード大全』『王様のレコード』ほか共著多数。FMおだわら『ラジオ歌謡選抜』、MUSIC BIRD『ゴールデン歌謡アーカイヴ』、YouTube『ミュージックガーデンチャンネル』に出演中。
Words:Hiroyuki Suzuki