レコードが溜まってきたのでプレーヤーを買った。最初はBluetoothでイヤホンから聴いていたけれど、やっぱり家族や友達とも一緒に聴きたいし、家の中くらいイヤホンを外して音楽を楽しみたい。そうお考えの人は、意外と多いのではないでしょうか。

ここではちょっとしたシステムプランを、オーディオライターの炭山アキラさんと一緒に考えてみましょう。今回はその後編です。

前編はこちら:オーディオ評論家と考える、レコード再生のセッティングプラン【前編】

お手頃価格から億超えまで。スピーカーシステムは無限大

プレーヤーとアンプ、スピーカーにほぼ等分のお金をかけて装置を組み合わせるべき、という意見があって、それはそれで大いなる正論です。一方、スピーカーこそはオーディオの “要” というべきコンポーネントで、自分の好きなスピーカーを存分に鳴らしてやるために他の装置を組み合わせる、そんな方法論も決して間違いではありません。というか、私自身はそちらの方に惹かれます。

それこそセット1万円少々から、果ては1億円以上の超弩級まで、スピーカーシステムは文字通り数え切れないほどの製品が世に出ています。そんな中から、一体どうやって自分に最もマッチする製品を選べばいいのか。気が遠くなるような話ですね。

予算内で購入し、”調整シロ”を愉しむ

私自身、それに対する絶対的な答えというものは持ち合わせていません。あえてガイドになり得ることを申し上げるなら、ご自分に可能な範囲でまず情報を集められること、具体的にはお近くのオーディオ店で聴き比べのできるスピーカーがあれば極力聴いてみたり、オーディオ雑誌やウェブマガジン等で、いろいろなスピーカーのキャラクターについての評論を読み、大体の傾向を知っておいたりすることを薦めます。

その中からご予算に合う範囲で好みの音の製品を選び出して、購入するのがよいのではないでしょうか。素性としてもっとあなた向きのスピーカーがこの世の中には存在するかもしれません。しかしその出現を待っていたらいつまでも購入へ進めないし、オーディオ機器、とりわけスピーカーというものは、セッティングやアクセサリーの活用で大幅に音の出方を整えることが可能ですから、実際にご自宅へ据えてみて音が今一つ好みに合わなくても、結構 “調整シロ” が大きいものなのです。

それに、いよいよお使いのスピーカーが限界だとお感じになったら、その時こそもっとあなた向きの製品へ交換すればよいじゃないですか。それまで使ってきたスピーカーのセッティング作業でポケットへ入ったノウハウは、そのまま新しいスピーカーにも応用することが可能ですからね。

1ウェイ、2ウェイ、3ウェイ。それぞれの特性

具体的なスピーカーの特徴は、そう簡単に書き記すことは難しいものですが、音の違いへ影響しやすいものをいくつか書き留めておきましょうか。

スピーカーシステムの中で、音が出るパーツをスピーカーユニットといいます。1個のユニットで全部の音域を再生するものをフルレンジ(1ウェイ)、低音用のウーファーと高音用のトゥイーターの2個でカバーするのを2ウェイ、その真ん中に中音用のスコーカー(ミッドレンジ)を加えた3ウェイなどがあります。私はウーファーとミッドバス、ミッドハイ、トゥイーターの4ウェイを愛用しています。

スピーカーシステムの中で、音が出るパーツをスピーカーユニットといいます

フルレンジはもちろん20Hz~20kHzの可聴範囲をすべてカバーすることは不可能ですが、2ウェイ以上のスピーカー、いわゆるマルチウェイに不可欠のクロスオーバー・ネットワークというパーツが必要なく、概してけれん味がなく抜けの良い再生音を持つ傾向があります。マルチウェイに比べればもちろん再生レンジは欲張れませんが、私自身を含め、フルレンジの魅力に取りつかれた人は少なくありません。

2ウェイはウーファーとトゥイーターの2本で分担して音楽を再生しますから、多くの場合フルレンジに比べて再生レンジが広いのは当然でしょう。一方、人間の耳が一番敏感な周波数といわれる1~2kHzに両ユニットの分岐点、いわゆるクロスオーバー周波数がきてしまうことが多い点、またウーファーが大音量時に低音の大きな振幅でバタつき、声の帯域を歪みっぽくさせてしまうといった弱点はありますが、音質劣化の大きな要因の一つとなるクロスオーバー・ネットワークが1箇所だけで済み、ここは大いに有利な点です。

3ウェイは3つのユニットで分担し、さらに前述のクロスオーバー・ネットワークも2箇所に増える分だけ複雑な構成になりますが、声の帯域の大半をスコーカーで再生させられることから大音量でも歪み感が少なく、余裕たっぷりに再生されるのが大きな魅力です。以下、4ウェイ以上の多chマルチウェイも、これに準ずる利害得失を持つといってよいでしょう。

ブックシェルフ型とフロア型、それぞれの強みとは

キャビネットの形状では、現代スピーカーは背の低いブックシェルフ型と背の高いフロア型が主力です。

ブックシェルフ型はもともと「本棚へ置いて使うスピーカー」という意味ですが、現代ブックシェルフを本領発揮させるなら、適切なスピーカースタンドへ置いて使わなければなりません。スピーカーは、可能な限り周辺に空間を持たせてやるのが適切なセッティングだからです。

ブックシェルフ型はもともと「本棚へ置いて使うスピーカー」という意味

フロア型はその名の通り床へ直接置いて使うことができるスピーカーです。特に最近は、小型ブックシェルフ型の背をヒョイと伸ばしたような格好の「トールボーイ」型が人気ですね。

ブックシェルフ型に比べてフロア型は、キャビネットの内容積を確保しやすいので、2ウェイが圧倒的主流のブックシェルフ型に対して、ウーファーを2本取り付けた2ウェイ3スピーカーや、それを少し特殊なネットワークで駆動する2.5ウェイといった方式が採用されることが多いようです。ブックシェルフ型よりも余裕を持って中〜低音が鳴らせるように、という考え方ですね。

それでは、ブックシェルフ型の方が一方的に劣勢なのかというと、そういうわけでもありません。ブックシェルフ型はキャビネットが小さい、ということは相対的に丈夫で鳴きにくいということで、一方トールボーイ型は表面積が大きい≒板が鳴きやすく再生音に悪影響を与える可能性がより大きい、という風にもいえるのです。

以上、非常に大ざっぱな割にはいささか文字数を食ってしまいましたが、皆さんがオーディオ機器を選ばれる際の参考になると幸いです。オーディオがしっかりしてくると、音楽はもっとずっと面白くなりますよ。

Words:Akira Sumiyama