アクリル筐体と別体電源を採用したレコードプレーヤー『AT-LPA2』。外観の美しさに加え、振動やノイズを抑えるための設計が随所に施されています。前回の「紹介編」では、その構造や素材の工夫を中心にAT-LPA2の特徴を解説しました。
レビュー編では、引き続きオーディオライターの炭山アキラさんがAT-LPA2を実際に試聴し、クラシック、ジャズ、ポップスの再生で感じた音の印象をレポート。さらに、カートリッジ交換による音質の変化についても検証します。
クラシックからジャズ、ポップスまで。AT-LPA2の音を聴く
クラシックを試聴
まず、完全なオリジナル状態で音を聴きます。クラシックは恥ずかしながら、元のマスターは名演奏・名録音の誉れ高いものながら、単なる国内廉価盤を使っているのですが、それがまるでオリジナル盤に近い世代の輸入盤であるかのように鳴り響くのには驚きました。針先が音溝をこする際に生み出される、いわゆるスクラッチノイズが極めて小さく、耳に障らなくなり、音楽が生きいきと沸き立つように表現されるのです。
これは、プレーヤーキャビネットもプラッターも極めて鳴きの小さなアクリルという素材を使っていることが一つ、大きな要因として挙げられるでしょう。さらにもう一つ、電源部が別体になっているせいで、電源トランスなどが有する僅かな振動もキャビネットへ伝えることがなく、繊細な針先の振動を妨げる要素が極めて少ないからであろう、と考えられるところです。
ジャズを試聴
試聴を続けましょう。ジャズは、金属よりも柔らかなアクリルという材質からはちょっと意外なくらいパーカッションのアタックをピシリと表現し、声も濁りなくアキュレートに表現してくれます。音数が多く端正で見晴らしの良い表現は、若者はもちろん活発なアダルトにも広く薦められる方向性だな、と感じさせるものがありました。
ポップスを試聴
ポップスもスパッと決まるアタックの快さと、パワフルかつ余裕たっぷりに歌い上げるボーカルに心を奪われます。キャビネットもプラッターも写真で見るよりずっと分厚く、その強度・剛性が効いているのと、付属アームの精度が極めて高く、それもパワーとアタックの鋭さ、そしてそれらが耳に障らないS/Nの高さを保証しているものと考えられますね。
また、付属カートリッジのAT-OC9XENは、ラインコンタクト針を装着した兄モデルが3機種もあるせいで、AT-OC9Xシリーズにあっては廉価版的な印象を持たれがちの個体なのですが、以前じっくりと音質をテストしてみた時も、「たったの5万円でこんな高解像度・高品位のカートリッジが買えちゃうのか!」と、私自身驚きました。コストパフォーマンスが至って高い製品なのです。
それに、今回はテストできませんでしたが、本機の純正ヘッドシェルはパーツ扱いで取り寄せが効きますし、AT-OC9Xシリーズは全5モデルが自重7.6g、適正針圧1.8~2.2g(2.0g標準)にそろえられていますから、例えば上級のML針やシバタ針、特殊ラインコンタクト針が装着されたバージョンを追加購入すれば、調整し直す必要なく音のバリエーションを楽しむことができるようになります。
実はAT-OC9Xシリーズ、弟2機種のEBとEN、そして兄3機種のMLとSH、SLでは、カンチレバーやヨークの材質などいろいろなところが違っており、針先の違いのみならず、結構大きく音質が違います。いくつかそろえ、手間なしで聴き比べるのも楽しいと思いますよ。
アクセサリーによる音質変化をスタビライザーで検証
さて、純正で音を聴き終えたところで、少し実験をしてみましょうか。まず、シートなしのまま、私が長年愛用しているオーディオテクニカのスタビライザーAT6274を載せてみました。そうしたら、「あれ?」という感じです。ほんの少しS/Nがさらに上がったかなという点と、ピシリと鋭く決まっていたアタックが少しだけ大人しくなったかな、というくらいで、それほど大きな音質差が出なかったのです。
推測するに、AT-LPA2はデフォルトで十二分にアタックの鋭さとS/Nを確保しており、つまり私たちがスタビライザーに求める音の世界をデフォルトで達成している、といってよいのではないかと考えます。
ならば、1mm厚の薄いゴム製ターンテーブルシートを敷き、そこへスタビライザーを載せたらどうなるか。早速やってみましたが、デフォルトの好ましきアタックの鋭さとスピード感が幾分衰え、やや弾力的な音になってしまいました。個人的には、これでは副作用の方が強いといわざるを得ません。
そこで、130gくらいの軽量級スタビライザーへ乗せ換えたら、実測で753gあるAT6274より元の音に近くなり、厚みが加わってこれはこれで悪くありませんが、しかしデフォルトで十分以上に魅力的な音を、わざわざ変更してしまうこともないな、といった印象でした。
いやはや、こうもデフォルトで完成度が高いと、わが得意技のアクセサリーによる音質改善がほとんど役に立ちません。脱帽です。
カートリッジ交換による AT-LPA2 の音質比較
こうなったら、次の実験へ移るほかありません。カートリッジ交換です。ちょうど手元にVM型の新しいAT-VMxシリーズがあるので、そこから金属ボディとマイクロリニア針、ボロンカンチレバーを採用した『AT-VM745xML』を取り付け、音を聴いてみましょう。
クラシックはMCカートリッジとはまた違って、抜けの良さやアタックの鋭さはMCに軍配が挙がるものの、音の厚みや弦の色鮮やかさ、実体感ではこちらが上を行く部分があります。それにしても、これだけカートリッジの音の違いをしっかり表現し、しかも当然のことのように、私が半年以上手塩にかけた弟機のAT-LP8Xよりも上質な音で再現するのですから、私はもうお手上げです。
ジャズはシンバルやタンバリンの抜けの良さはMC、声のコクや全体的な厚みはVMという感じで、クラシックと似たところがありますね。しかしこの厚みは、実にジャズへそぐわしいものです。とても端正で彫りの深いプレーヤー自体の表現に、カートリッジそれぞれのキャラクターが上手く重畳され、実に好ましい再生音になっているな、という印象です。
ポップスも傾向はほぼ同じ、高域にかけて抜けが良いのはやはりMC、厚みとパワーはVMという感じです。しかし、カートリッジが変われば当然大きく音の傾向は変わるのですが、それでも抜けが良く見晴らしが効き、端正な表現の方向性は変わりません。これがAT-LPA2固有の表現といってよいのでしょうね。
AT-LPA2は、私のように商売柄アクセサリーを次々試して違いをリポートする、というような用途には向きません。しかし、レコードで音楽をより高度に、端正に楽しみたいという人には、苦労なしのデフォルトでこのレベルが手に入るという意味合いからも、安心して薦められる製品だな、というのが正直な感想です。
*本記事は、炭山アキラさんによる試聴レビューです。音の印象や評価は、筆者の試聴結果に基づくものです。
Words:Akira Sumiyama
