音楽やアート、サステナビリティ、食、ウェルビーイング、テクノロジーといった要素が交差する空間には、世界中から感性を刺激されたい人々が集まるもの。多様化が進む現代において、 “フェス” はいまや音楽だけにとどまらない多彩な体験の場として進化を遂げている。この記事では、Always Listeningの中の人たちが気になっている4つのフェス――Burning Man(アメリカ)、Wonderfruit Festival(タイ)、Big Ears Festival(アメリカ)、Sónar(スペイン)を紹介する。

砂漠に現れる“非現実都市”での奇祭、Burning Man

アメリカ・ネバダ州のブラックロック砂漠に約1週間だけ現れる仮設都市ブラックロック・シティで、約7万人が自給自足の生活を送りながら、巨大なアート作品や自由なパフォーマンスを楽しむフェスティバル、「Burning Man(バーニングマン)」。

  • Radical Inclusion(誰でも歓迎):誰もが参加できること。すべての人を歓迎し、排除しない。
  • Gifting(贈与の精神。お金のやり取りは禁止):見返りを求めずに贈り物をすること。商取引は禁止。
  • Decommodification(非商業化):広告やスポンサーなしで、純粋な体験を守ること。金銭に依存しない空間。
  • Radical Self-reliance(自己責任と自立):自分の生活は自分で支えること。精神的にも物質的にも自立すること。
  • Radical Self-expression(自己表現の自由):他者への敬意を前提に、思い思いのスタイルや表現を自由に発信すること。
  • Communal Effort(協力と共同作業):参加者同士が力を合わせ、創造・支援・守り合う文化を大切にすること。
  • Civic Responsibility(社会的責任):法律やルールを守り、安全で倫理的なコミュニティを自ら築くこと。
  • Leaving No Trace(痕跡を残さない):自然に配慮し、ごみや痕跡を一切残さず、元より美しくして去ること。
  • Participation(積極的な参加):受け身ではなく、自ら関わって創造・体験することを重視すること。
  • Immediacy(今この瞬間を大切に):リアルな体験や人とのつながり、心の動きを何よりも尊重すること。

という、2004年に創設メンバーのラリー・ハーヴェイ(Larry Harvey)によって定められた「The 10 Principles」に基づいて運営されている。つまりどういうことかというと、一部エリアでのコーヒーや氷の販売とトイレを除いて、水道や電気などのインフラ、飲食サービスすらもイベント側が提供することはなく、Burner(バーナー)と呼ばれる参加者は水や食料、燃料などといった1週間生き抜くための物資を、自らの責任で準備して参加しなければならない。また、アートや音楽、パフォーマンスなど、会場内で遭遇するものは全て参加者によって作り上げられ、最終日には巨大な木製人型像「The Man」を燃やすセレモニーが行われる。2025年の開催期間は、8月24日から9月1日まで。

HP

サステナブルでクリエイティブなフェス、Wonderfruit Festival

タイのパタヤ近郊のゴルフリゾートの敷地内、The Fields at Siam Country Clubで毎年12月に開催される、「Wonderfruit Festival(ワンダーフルーツ・フェスティバル)」は、音楽・アート・文化・自然・ウェルネスを融合した5日間のライフスタイルフェスティバル。

2024年はタイを拠点に活躍するWildealer、Tontrakul、パラダイス・バンコク・モーラムインターナショナル・バンド(Paradise Bangkok Molam International Band)などをはじめ、他国からはフォテー(Photay)、ネイサン・フェイク(Nathan Fake)、スタイミング(Stimming)、日本からはELECTRONICOS FANTASTICOS!、Powder、Atsuo(Pineapple Donkey)など、多数のアーティストが出演し、300を超える音楽アクトが披露された。

Wonderfruit 2024 Official Aftermovie

地元資源を活用した会場デザインやフードロス削減など、環境に配慮した取り組みも徹底しており、竹や再生素材で造られた芸術的なステージ、高品質な食材を使った料理の提供、ヨガやものづくりができるワークショップなど、日本にはない世界観をタイの豊かな自然の中で感じられるだろう。2025年の開催期間は、12月11日から15日まで。

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歩いて回れる都市型フェス、Big Ears Festival

2009年に設立された「Big Ears Festival(ビッグ・イヤーズ・フェスティバル)」は、アメリカ・テネシー州ノックスビルで毎春開催される、先鋭的な音楽とアートのフェスティバル。

現代音楽からジャズ、インディーロック、エレクトロニカなどの幅広い音楽セッション、トーク、ワークショップ、映画上映、展覧会、リスニングパーティなど、その内容は多分野を横断しており、ノックスビル市内中心の劇場、教会、美術館、倉庫、ギャラリー、バーなど20ヶ所以上の会場で、約200のパフォーマンスが同時並行的に4日間にわたって繰り広げられる。

Highlights from Big Ears 2025

フェス全体のテーマやキュレーションの方針に応じてアーティスト・イン・レジデンスが招かれる年があり、2010年には初代としてテリー・ライリー(Terry Riley)が招かれ、彼の75歳の節目を祝う企画として3日間の特集公演が組まれた。2025年はテリー・ライリーが90歳を迎えた年であり、それを祝して「Sound & Space // Terry Riley at 90」を実施。彼の影響を受けたアーティストたちによる、環境的かつ没入的なサウンド・アート作品が展開された。テリー・ライリーの他、スティーヴ・ライヒ(Steve Reich)、クロノス・クァルテット(Kronos Quartet)、ジョン・ルーサー・アダムズ(John Luther Adams)、リアノン・ギデンズ(Rhiannon Giddens)がこれまでにアーティスト・イン・レジデンスとして招かれている。2026年は3月26日から29日まで開催予定。

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音楽・テクノロジー・アートをつなぐ、Sónar Festival

スペインはバルセロナで毎年6月に開催される世界的な音楽・クリエイティブ・テクノロジーの祭典「Sónar Festival(ソナー・フェスティバル)」は1994年に始まり、現在ではエレクトロニカ、実験音楽、デジタルアート、技術革新を融合した先進的なフェスとして知られる。

昼夜のライブ、DJやアーティストによるパフォーマンスはもちろんのこと、音楽・創造産業・イノベーションをテーマにしたカンファレンスやワークショップに参加できる「Sónar+D」も開かれる。また、Sónarの開催日を含む前後1週間は「Sónar Week」と呼ばれ、バルセロナのクラブ、文化施設、ストリート、屋外会場など、あらゆる場所で関連イベントが実施され、街全体が音楽とともに賑やかな空気に包まれる。

2025年はオーヴァーモノ(Overmono)、フォー・テット(Four Tet)、バイセップ(Bicep)などの出演もさることながら、アルヴァ・ノト(Alva Noto)とフェネス(Fennesz)や、アクトレス(Actress)と電子音楽のパイオニアであるスザンヌ・チアーニ(Suzanne Ciani)など、特別なコラボレーションが披露され、注目を集めた。2026年の開催予定期間は、6月18日から20日まで。

HP

Information provided by:Masaaki Hara, Kunihiro Miki, Shoichi Yamamoto
Edit:May Mochizuki

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