レコードを良い状態で聴き続けるために欠かせないのが「クリーニング」です。普段の埃取りから頑固な汚れを落とす本格的なケアまで、その方法やクリーニング液の種類にはさまざまな選択肢があります。本記事では、オーディオライターの炭山アキラさんが、代表的なクリーニング液の特徴や使い方の注意点、レコード盤を長持ちさせるためのポイントを、自身の実体験をもとにご紹介します。

レコードクリーニング液に違いはある?

皆さんは、もちろんレコードクリーニングをやってますよね。日常的な埃取りには、オーディオテクニカの『AT6012a』をはじめとするレコードブラシを、長年にわたって降り積もった重篤な汚れには、クリーニング液とクロスによる徹底的な掃除を。これらを励行している限り、レコードは100回や200回聴いても音溝が傷むことはありませんし、レコード針も汚れた盤をかける時の数倍は長持ちするようになるものです。

でも、世の中にはクリーニング液もクロスもたくさんの銘柄がありますよね。ああいうのは何を使っても一緒なのか、それぞれに違いがあるのか、気になっている人もおられることと思います。

私の体験として申し上げるなら、磨いた後にすすぎが必要な劇薬的クリーニング液や、レコードブラシに塗布して磨くタイプの液といったごくごく特殊な商品を除き、使い方にそう大きな差はありません。あえていうなら、1液性の製品と2液性の製品があるくらいかな。

1液性のクリーニング液はまさにレコードへ振りかけて磨くだけのもの、2液性の製品は最初に汚れを落とし、2回目でリンス効果的に針の通りを良くするもの、あるいは静電気を防止するための成分を塗布するものなど、幾つかの製品が確認できます。

もっとも、1液性のクリーニング液の中には、除電効果を持つ成分などが入っているものもありますから、必ず2液性を使わなければならない、というわけでもありません。私自身も、1液性の薬剤を常用しています。

各種レコードクリーニング液の特徴を解説

私は大半のクリーニング液を実際に使ったことがありますし、それらの効果については分かっているつもりです。しかし、それらを同一地平で比較することは、とても難しいといわざるを得ません。厳密に比較するならまず、同じように汚れた同じ内容のレコードをテストする液剤の数だけ用意し、全く同じ手加減で磨いてから、レコードの音質を比較するという方法が適切でしょうけれど、実現するのがとても難しい条件といわざるを得ません。

私も中古レコード店のバーゲン棚から汚れたレコードをたくさん仕入れ、いろいろなクリーナーをテストしているのですが、同じタイトルのレコードをそうそう何枚も見つけられることはほとんどありませんし、まして同じ条件で汚れた盤というのはありませんからね。

そんな状態ですから、各種液剤の絶対比較はできませんが、少なくとも名の通ったメーカーから発売されている液剤でレコードを傷めることはありませんし、中には下北沢の中古レコード店フラッシュ・ディスク・ランチの「アナログ洗浄液」のように、お店が自分たちで使うため独自に配合した液剤が売られていることもあります。大手レコードショップのディスクユニオンが販売する「レコクリン」も、成り立ちはやはり自分たちで商品に使うための液剤を開発し、それが市販化されたものだそうですしね。

そんな中で特徴的な液剤といえば、やはり2液性の製品でしょうね。レイカの「バランスウォッシャー」は、A液で汚れやカビを取り去り、B液で盤面を仕上げます。21世紀の初め頃だったか、このクリーニング液と「ビスコ」と呼ばれるクリーニングクロスが一世を風靡し、そこでレコードの再生音質は劇的に向上した、と私は考えています。発売以来全く商品ラインアップは変わりませんが、それでも多くの販売店で売り上げトップを記録する、超ロングセラーでもあります。まさに定番、というべき存在感です。

2液性のクリーニング液でもう1種類有名なのは、アルテの製品

2液性のクリーニング液でもう1種類有名なのは、アルテの製品です。1番の「レコードクリーニング液」で汚れを落とし、2番の「レコード仕上げ液」で静電気の発生を抑える、という作用となっています。この社はクルクル手で回せるターンテーブル式のクリーニング台や、摩擦が大きく帯電を防止した素材でレコードを安定して置きながらクリーニングできるマット、毛先の直径0.02mmという微細な毛が植えられたクリーニングブラシなど、さまざまなお役立ちグッズを用意していることでも知られます。

レイカと並び、もう一つの業界的定番といえば、やはりディスクユニオンの「レコクリン」

レイカと並び、もう一つの業界的定番といえば、やはりディスクユニオンの「レコクリン」でしょうね。自然乾燥しても固体が残らないアルカリ液が主剤で、レコードに不純物を残さず、汚れをよく掻き取ってくれる液剤です。純正組み合わせの「レコクロス」と合わせ、とても入手しやすい価格なのも大きな注目点です。

レコクリンセットの現行パッケージ
レコクリンセットの現行パッケージ
今後、こちらのパッケージに変更予定
今後、こちらのパッケージに変更予定

これだけなら、レコクリンは別段際立った特徴を持たない製品といわれかねないのですが、この液でも取れない重篤な汚れを除去するための、「レコクリンプラス」という薬液が別に存在しています。レコクリンで取れなかった汚れの部分に少量滴下してレコクロスでゴシゴシ磨き、汚れが取れた後は再びレコクリンですすぎ洗いをしてやらなければならず、少々手はかかりますが、それだけに汚れ落としの性能は極めて高く、私もここ一番の時のために常備しています。

ほとんどのクリーニング液には、「エタノール不使用」と書かれています

ほとんどのクリーニング液には、「エタノール不使用」と書かれています。ある社では、アルコールがレコードへ与える害の重大さについて、懇々と説いているくらいです。その一方で、アルコールは盤面に生えたカビを極めて効果的に除去することも知られています。

オヤッグサウンドのクリーニング液「レコードクリーナー LP/EP用」には、含有成分に「アルコール(10%)」としっかり書いてあります。カビをはじめとするレコード表面の汚れ・不純物を取り去るのに、アルコール成分は欠かせない。しかし、盤面に悪影響が出ることは何としても避けなければならない。そこで膨大な実験を繰り返した結果、十分な効果を保ちつつ盤面へ影響を与えない種類のアルコールと濃度を見出した、と同社の南野勝代表にお話を伺ったことがあります。

アルコールが含有されたクリーニング液は、SPレコードには絶対に使ってはいけません

しかし、くれぐれも申し上げますが、アルコールが含有されたクリーニング液は、SPレコードには絶対に使ってはいけません。SP盤の主成分である天然樹脂のシェラックは、アルコールに溶けてしまうからです。オヤッグサウンドでは、SP用にアルコール非含有の専用クリーニング液を開発・販売しています。

他にもいろいろな銘柄のクリーニング液がありますが、知る限りで際立った特徴があるのはこれくらいかな。こうやって解説をした後でいうのも何ですが、実のところクリーニング液そのもののキャラクターよりも、磨く人間の腕前の方がずっとレコード磨きには大切なものです。クリーニング液とクロスを用いたクリーニング法は、以前に書いたことがありますから、ぜひ参照してみて下さいね。

また、私のレコード磨きを記録した動画もYouTubeに上がっています。本物の達人と比べればお恥ずかしい程度の手技ですが、よかったら参考にしてみて下さい。なお、この動画では「この世の終わりか!」というくらいに汚れたレコードを磨いているので、何度も何度も液を振りかけて磨き直していますが、普通なら1回でほとんどの汚れは落ちるはずです。

実践・レコードクリーニング│炭山アキラのオーディオ試行錯誤 第16回(9分30秒くらいから)

Words:Akira Sumiyama

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