東京・立川市にある子どものための屋内広場「PLAY! PARK」とオーディオテクニカは、2022年より「音の原体験」をテーマに様々なコラボレーションを実施。今年は「音の動きにのってあそぶ! Let’s! PLAY! SOUND with Audio-Technica」を企画し、音の正体の振動を感じられるユニークな体験を提供している。
そこで今回は、子どもたちの「音感受」に関する研究を行っている桜美林大学の吉永早苗教授をお迎えし、PLAY! PARKの企画担当である川合由美さんと原美咲さん、オーディオテクニカの担当者・黒沢静香を交えた座談会を実施。展示の意図や、幼少期に音に触れることの学術的な意義を語ってもらった。
音を発見し、その楽しさに気づく「音の原体験」
PLAY! PARKとオーディオテクニカの協業も今年で4年目を迎えます。改めて、なぜ「遊び場」と「音響機器メーカー」がタッグを組み続けているのか、そのおもしろさや意義について教えてください。
川合:私たちキュレーターは美術大学出身なので、音楽に精通しているわけではありません。ただ、日常にある音にフォーカスした企画に取り組みたいという思いはあったので、音響機器メーカーであるオーディオテクニカさんと協業できることは、私たちの強みになるのではないかと思ったんです。
企画を進める中で、「音の原体験」が重要だというお話が出ました。楽器を弾いて音楽を奏でることよりも、「こういうところに音があるんだ」と音を発見したり、音の楽しさに子どもたちが気づくことができる、PLAY! PARKらしい取り組みが一緒にできると感じました。
黒沢:協業がスタートした2022 年は弊社の60周年のタイミングで、「もっと、アナログになっていく」というメッセージを打ち出しました。ここで言うアナログには、レコード機器だけではなく、人間の感性や人間らしさを大事にしていきたいというメッセージが込められています。
誰かから一方的に教わったり、作り込まれたものを体験するのではなく、ただ「音で遊ぶ」ことが想像力と感性を育むことにつながるのではないか──。そういった考えから、同じ想いを持つPLAY! PARKさんと一緒にコラボレーションをさせていただくことになりました。
初年度の企画は、「みんなで音を探そう」というテーマでしたね。
黒沢:カセットテープにオーディオテクニカのマイクロホンで音を溜めたり、レコードの気持ちよい音楽を聴いてみたり、ヘッドホンをつくってみたり、音を楽しむための様々な創作遊具やワークショップを開催しました。
川合:特にカセットテープに録音する企画は、子どもたちが自ら音をダイレクトに探しに行くことができるコンテンツです。施設内で自分の声を録る子もいましたし、楽器を使う子も。ついには水道の蛇口を開けて水の音を集める子もいて、こちらが驚かされることもありました。
2025年は「日常の音」がテーマで、スプーンやお皿を吊るしておき、ランダムに叩いたり触ってもらうなどして、音を感じてもらう取り組みをしました。普段、なかなか音が鳴るものに意識を向ける機会はありませんよね。あえて家にあるものを展示することで、「これはこういう音がしていたんだ」という気づきになったと思うんです。
家に帰ってからも「さっきの音と一緒だな」とか、「家のスプーンだとちょっと音が違うな」と楽しむことができる。体験を持ち帰ることができることも魅力だったと思います。
吉永:生活と音とのつながりができる素晴らしい取り組みですね。そもそも聴覚だけでなく触感覚もとても大事。最近はモノに触る体験が減ってきていると感じます。
黒沢:初年度には、畳にごろんと寝転がってもらい、赤ちゃんに動物の声や波の音などの音を感じてもらう「空飛ぶ魔法の畳」という展示もしました。それもまさに、音という振動を直に身体で体験することですよね。
吉永:そうですね。私たち大人は、子どもたちが音に集中していることになかなか気づけません。保育士さんたちに研修を行った際、赤ちゃんが布団に耳をずっと当てているとの報告がありました。なぜかわからず耳を当ててみたら、「ゴー」っという音が聞こえてきたそうなんです。
その保育園は渋谷にあり、園舎の下には地下鉄が通っていることがわかったそう。子どもたちは大人が考えるよりもすごく敏感に音をキャッチしています。畳の展示は、子どもの感性を刺激する上でとても意味があったと思います。
音=振動。視覚で音を楽しめるコンテンツ
今年のテーマは「音の動きにのってあそぶ!」です。「音を探す」「日常の音」といったテーマから一歩踏み込み、よりダイナミックな「動き・振動」にフォーカスした狙いはどこにあるのでしょうか?
原:もともとはレコードの動きに注目していたのですが、オーディオテクニカさんから、より音の遊びや原体験に目を向けてみては、とアドバイスをいただきました。
音はそもそも振動だということに気づき、楽器の上にモールを乗せて叩いてみたらモールが動き出したんです。これはおもしろい遊びになるんじゃないかと思い、日替わりのワークショップ「みんなで音ダンス」というコンテンツが生まれました。
原:とにかく楽器を叩いて音を出してみる子もいますし、モールの動きが不思議でずっと観察をしている子も。聴覚だけでなく視覚でも音を感じてくれています。
展示ではドラム、和太鼓、シンバル、スネアドラム、ハイハット、タンバリンなど約10種類の楽器を用意しています。音の高さによって振動が違うので、モールの動きの違いにいつまでも夢中になる子が多いんです。
吉永教授は、子どもが環境音や人の声を感じ取る力を「音感受」と定義されていますね。
吉永:そう、「感じ取る力」なんです。私は「音感受」を、単に音を聴き取る力とは考えていません。音に触れ、音に応じ、音とともに自分が変化していくプロセスそのものを指しています。
音は外からやってくる刺激ではなく、世界が私たちに語りかけてくる現れでもあります。その声に耳を澄ますとき、子どもは世界と分かれて存在しているのではなく、世界の動きの中に身を置いていることを体験しているのです。
楽器を触ったときに子どもたちの遊びが終わらないのは、自分が働きかけることによってさまざまな反応が返ってくるから。そこにちょっとリズムが生まれてきたら、体が動いてもっともっと楽しくなってくる。
音を感受することは、音で対話をしているということなんです。こちらが働きかけると、音が応えてくれる。その応答のリズムの中で、からだが自然に動き出す。音は「聴くもの」であると同時に、「かかわる」ものでもあるのです。
先ほど振動というお話がありましたけれども、楽器に触れたとき、子どもは単に音を出しているのではありません。叩けば震えが返り、揺らせば響きが広がる。その「返ってくる感じ」に身体が反応し、また次の動きが生まれる。これは一方通行ではなく、呼応の連鎖です。子どもと音とのあいだに、小さな循環が生まれているのです。
音は物理であり、数学であり、そして芸術でもあります。けれど学校では、それぞれが分断されて語られがちです。そういう意味でも、音は無限の可能性が広がるテーマです。音楽ではなく音に着目し、「音楽遊び」ではなく「音遊び」に着目されているところが素敵ですし、意義深いと思いました。
楽器に絵の具をつけて、音を「目に見えるカタチ」として描く特別イベント「音筆」もおもしろい取り組みですね。
川合:楽器の上に絵の具をたくさん垂らして音を出すことで、振動で絵の具が跳ねるんです。音が色と共に物理的な視覚で見えるので、子どもたちも楽しんでくれています。
吉永:それも多感覚の感受ですね。人は本来、感覚が未分化な状態で生まれてきます。成長の過程で、聴覚・視覚・触覚といった感覚が整理されていく。けれど子どもたちは、まだその境界がゆるやかです。音が色になり、動きになり、物語になることもあるでしょう。今回の企画は、その、まだ分かれていない感覚を尊重しているところが、とても魅力的だと思います。
私は以前、子どもたちに音楽を聞いてもらい、音を3色の絵の具で表現してもらう実験をしたことがあるんです。保育者の方たちは「こんな難しい課題、子どもには無理だろう」とおっしゃっていましたが、子どもたちは自由に、音楽を感じたままに絵に描いていきました。音がリズミカルになると、それに合わせて体が動くので、絵も変化していく。
さらにおもしろかったのは、音楽を聴きながら「あ、雨が落ちてきた」、「だんだんひどくなってきたよ」、「雨がやんでお日様が入ってきて、虹が出た」というふうに、景色を思い浮かべながら説明して描いてくれる子も。
ある男の子は、いろんな色を混ぜて泥のようになった絵の具を「泥だ!」と言って筆を置いて手で掘る動作を始めたんです。
絵はこういう風に描かなきゃいけないとか、音楽はこういう風に奏でなきゃいけないということではなく、様々な感覚を自由に使うおもしろさを子どもたちは知っている。
子どもの感覚は、大人の私たちが思うよりもっともっと人間としての基本的なものを持っているように思います。この企画は、感覚にスイッチを入れ、感性の扉を開いてくれる場所。どんな風に感じてもいいんだという肯定感を得られたり、他の子どもたちが感じていることを共有し合える場所になっていると感じます。
余白を作ることで、さらに感性が広がっていく
今回の目玉企画は、「ターンテーブルにのってみよう!」。約2mの人が乗れるターンテーブル(レコードプレーヤー)型遊具です。
川合:レコードはそもそも音が鳴るものですが、今回の展示ではあえて音が出る仕掛けにはしていません。
黒沢:実はそこは結構議論したポイントでしたよね。大きいレコードにどうやって音を出すか悩んだときに、逆に音を出さずに余白を残すことを選択しました。歌を歌う子がいるかもしれないし、親御さんと会話してコミュニケーション取る子がいるかもしれない。
あえて音を出さない仕掛けにしたことで、子どもたちの感性を育むという、今回の取り組みの目的に近くなったと思います。
子どもたちの反応はいかがですか?
原:ほとんどのお子さんがレコードの存在自体をまず知りません。ところが不思議とすぐにレコードを回したり、針を動かしてみる子が多いんです。直感的に子どもたちが遊びを作ってくれていることがすごく嬉しいですね。
特にこちらから説明をしなくても、お父さんやお母さんが「これって実は音楽を聴くものなんだよ」と言って、近くに展示してある実際のレコードプレイヤーで曲をかけてあげたり。そこで「あ、こういう風に音が鳴るんだ」と気づいてもらえています。
もうひとつの目玉である「くるくるベビーレコード」は、赤ちゃんも安心して楽しめる小さなレコード型の遊具です。
原:レコード部分には回転台を設置し、回すと回転台の下にある木琴が鳴る仕掛けです。最初は動くことに関心を示していた赤ちゃんが、だんだんと音が聞こえていることに気づき、心地よさそうにしていることもあります。くるくる回されながら音に耳を澄ませる子など、いろんな反応があっておもしろいですね。
今回のイベントでは、実際に本物のレコードプレーヤーで音楽を聴く常設コーナー「PLAY! RECORD」も設置されています。スマホで手軽に音楽が聴ける時代に、あえてレコードという音楽媒体に触れる体験や、「円盤に針を落とす」というアナログな体験を用意した狙いは?
黒沢:今の子どもたちは生まれたときから当たり前にスマホやパソコンがあるので、どうして電話から遠くにいる人の声が聞こえるのか、どうして四角いテレビから音が出るのかといった、私たち大人が子どもの頃に抱いていた疑問を持ちづらいと思うんです。だからこそ、こういったアナログな体験をしてもらいたかったんです。
原:私自身、レコードに初めて触れたのがPLAY! PARKに携わってからでした。存在は知っていましたが、どうやって音が出るのかもわからなくて。レコードに溝があること、思っていたよりも軽くて柔らかいことなど、触って初めて知ることが多くありました。
スマホだと再生ボタンを押したらすぐ曲が流れますが、レコードだと針を落とす作業があるため、音楽が鳴るまでにちょっと時間があったりして。そういったひとつひとつが新しい発見だったので、子どもたちにも体験してほしいと思いました。レコードの音を聴きながら思わず踊り出す子もいて、その感受性に私たちも刺激を受けています。
吉永教授は、音楽がデータではなく、溝の刻まれたモノとして存在することを実感するのは、現代の子どもの「音感受」やモノへの愛着にどうつながるとお考えですか?
吉永:自分の身体を使うことの意味が大きいと思うんです。針が落ちて、パチパチパチパチという音が流れて「あ、音楽が始まるぞ」と感じる。そういうプロセスのひとつひとつにワクワクしますし、身体を使うことで耳が開いていくというか。
自分の身体の動きを通して音が始まっていく時間が、心のゆとりを作るきっかけにもなっていくと思いますし、ゆとりができてくると、いろんな感性が開かれていくと思うんです。
吉永教授は「日常の音に敏感になることが、保育者(親)の感性に潤いを与える」ことの大切さを説かれています。このイベントを通して、親御さんにはどのような時間を過ごしてほしいですか?
吉永:ここにいるお母さんやお父さんは、ほっとした顔をしてますよね。ともすれば子どもより喜んで遊んでる方もいらっしゃる。
最初はおそらく、我が子が遊んでいるのを見て微笑ましく感じると思うのですが、「この子、ここで何を感じてるんだろう?」と、親御さん自身も知的な反応を抱くことになる。そこが大事なところなんです。
親御さんが子どもさんと一緒のことをやってみることによって、我が子が何を感じているかを体験でき、自分自身も童心に戻って楽しめる。普段、さまざまな感性をシャットアウトして生活を送っている現代において、「こんなに私たちの世界はおもしろいんだ」と気づくことができると思います。
子どもの感受を見ることで、とてもいい循環が生まれると思いますし、ぜひ親御さんにもみずみずしい感性を思い出して楽しんでいただきたいです。
黒沢:私たちも初めは子ども向けのコンテンツとしてコラボレーションを始めましたが、PLAY! PARKに来るたびに、親御さんたちの顔が「なんて幸せそうなんだろう」と感じるんです。特に音筆のイベントでは、子どもも大人もみんなが笑顔で。普段、凝り固まっていた感性が解放されますし、大人も遊びながら学ぶことができる場所だと思います。
吉永:ここに足を踏み入れた瞬間に笑顔になれますよね。保育園ではよくお散歩をしますが、お散歩は「散らばって歩く」と書きます。まっすぐ前だけを見ていては出会えないものに、少し枠から外れて自由に歩くことで出会える。
ここを一歩出たら、草の揺れに気づくかもしれない。露の光に立ち止まるかもしれない。子どもが音に応じる姿を見て、大人の感性もまた揺れる。その揺れが、新しいまなざしを生むことでしょう。
音は、遊びの道具であると同時に、世界との関係をひらく入り口だと思います。この場所で起きているのは、音の体験ではなく、感受の循環。それは、子どもから大人へ、そしてまた子どもへと、静かに広がっていくと思います。
吉永早苗
岡山県瀬戸内市生まれ。1985年に岡山大学 教育学部 中学校教員養成課程 音楽教育専攻を卒業、1987年に岡山大学 大学院 教育学研究科 修士課程を修了、2013年に白梅学園大学 大学院 子ども学研究科博士課程を修了。1987年度よりノートルダム清心女子大学や岡山県立大学、岡山大学などで教鞭を執り、2025年からは桜美林大学 健康福祉学群 教授、東京家政学院大学 生活共創学部 特任教授を務める。著書に『音からひろがる子どもの世界』(単著、ぎょうせい、2021年)、『主体としての子どもが育つ 保育内容「表現」』(編著、北大路書房、2025年)など。
音の動きにのってあそぶ!
Let’s! PLAY! SOUND with Audio-Technica
開催期間:2026年1月26日(月)~2026年4月26日(日)
場所 :PLAY! PARK(東京都立川市緑町3-1 GREEN SPRINGS W3棟3F)
参加費:無料(PLAY! PARK入場料は別途必要)
Words & Edit:Kozue Matsuyama
Photos:Soichi Isida