TVアニメや劇場作品のオープニングは、必ずしも本編の監督が手がけているわけではないということをご存じだろうか。90秒という限られた尺の中で主題歌と作品世界を接続する映像は、本編とは別に設計され、専任のディレクターや演出家が担うケースも少なくない。
劇場版『チェンソーマン レゼ篇』や TVアニメ『呪術廻戦』第2期 をはじめ、数々のアニメーション作品のオープニング/エンディング制作を担当している神谷雄貴氏。そのほかにもアーティストのMVなど、これまで多様な形式の映像制作に携わりながら、音楽と物語を結びつける独自のアプローチを築いてきた。
音楽をどのように読み解き、物語のエッセンスへと変換していくのか。主題歌と映像が結びつく瞬間の設計思想と、その制作プロセスを伺った。
基本的には、音ありき
まずは近年の主な監督演出作品のひとつ、劇場版『チェンソーマン レゼ篇』のオープニングについてお伺いします。音と映像の組み合わせが印象的なシーンがたくさんありましたが、制作において意識された点を教えてください。
僕はこれまで主にMVなど、音楽がある前提の映像制作をしてきたのですが、改めて聞かれると難しいですね。自分にとって映像とは音ありきのもので、あえて上手に組み合わせようとか意識したことがないかもしれません。音への寄り添いでいうと、どういう表現が音に合うかを考える以前に、主題歌を作詞作曲した米津玄師さんがどう作品を解釈してこういう音や詞にしたんだろうとか、そういうことから考えたと思います。
制作にあたって、監督からはどのようなリクエストがあったのでしょうか? また、オープニング全体はどのような発想やリサーチから構築されたのか、教えてください。
まずこのオープニングはアバン*から繋がる本編と地続きの映像になるので、監督陣からは「デンジ(主人公)達の朝の日常シーンから、公安へ出勤する姿」を描いて欲しい、といった大枠のオーダーがありました。とはいえ、映像尺は90秒ではなく楽曲尺の約150秒だったので、単に日常の姿を描くだけでは尺が埋まりません。
*アバン:アバンタイトル。映画やドラマなどでメインタイトルが表示される前に流れる、導入やプロローグシーンのこと。
加えて、僕が以前TVシリーズで担当した、マキシマム ザ ホルモンの「刃渡り2億センチ」のエンディング映像で描いたようなビビッドカラーな表現も入れてほしい、というご要望もあり、楽曲のキャッチーなリズムと多彩なメロディーにも合うような映像にするため、構成を工夫する必要がありました。
そこで、本作で描かれるマキマの映画好き設定、劇場版として描かれるレゼ篇、TVシリーズのオープニング「KICK BACK」からの流れなど、いろいろな前提を踏まえて、関連する様々な映像表現からエッセンスを組み合わせて構成することにしました。監督陣からいただいたその他の細かいリクエストにも紐付けやすかったので。
絵コンテを描く前には、原作の藤本タツキ先生が単行本や関連インタビューなどで言及されていた作品や、元ネタになっているであろう映画やその他メディア作品を調べて、原作がどういう要素から形作られているのかを考えながら、できる限りインプットしました。演出への補助線を引くために2ヶ月弱で150本くらいは映画を観たと思います。
2022年放送の『チェンソーマン』TVシリーズといえば、毎回違うエンディングテーマと映像が流れたことで話題になりましたね。
アーティスト含めて、ものすごい豪華でしたよね。どういう映像にするかについてはけっこう自由度が高くて、各作家がそれぞれの持ち味を出して作っていたと思います。僕は3話と8話と、2本のエンディングを担当させてもらいましたが、曲に合わせてそれぞれ異なるテイストの映像に演出しました。
演出の自由度は、作品ごとに異なるのでしょうか?
そうですね、作品や監督、その時々の状況次第だと思います。僕が担当してきたTVアニメのオープニングでは、割と自由に演出を任せていただくことがほとんどでした。アニメは分業体制で作られているものとはいえ、想像以上に制作の自由度が高くて、最初は意外に思いました。
もちろん、中には細かく指示をいただく作品もあって、たとえば TVアニメ『呪術廻戦』「懐玉・玉折」 のオープニングでは、具体的に ”こういうシーンやモチーフを入れて欲しい” であるとか、 ”このキャラクターをコミカルに描いて欲しい” であるとか、監督からいろいろとオーダーを受けたうえで作っています。
一方で、次に続く『呪術廻戦』「渋谷事変」 のオープニングは完全に裁量を委ねていただいたので、「懐玉・玉折」 とは対照的な雰囲気にして、自分なりの解釈で演出しました。King Gnuの「SPECIALZ」はいわゆる “アニメのオープニングっぽくはない” 曲というか、テンポも遅めで、まるで想像してなかった方向性だったので驚きましたが、だからこそ作品の世界観に合わせて演出を考えるのは楽しかったです。すごい曲が上がってきたとMAPPA(制作会社)の方も言ってましたね。
独学で続けてきた、ものづくりの積み重ね
アニメーション作品に限らず、過去には乃木坂46やDISH//などアーティストの実写MVやプロモーション作品の監督など、幅広い領域でジャンルを横断した映像制作を手がけていらっしゃいますが、そうした技術や表現はどのように身につけてこられたのでしょうか。
いま直接仕事に関わっている技術や知識の大半は独学です。教本を読んだり、解説動画などから学んで、手を動かしてみて……っていうことを繰り返してきました。アニメ制作に関してもそうで、それまで身につけていた能力や知識をそのまま生かせる部分が多かったので、仕事の中で学びつつ適応していきました。
学校で専門的に学ばれたわけではないんですね。
そうですね。出身も芸術大学ではありません。ただ、大学にデザインエンジニアの山中俊治氏の研究室があって、運良くそこで基本的なものづくりの哲学を学ぶことができました。
山中氏は「現代のものづくりは専門領域が細分化されすぎているが、デザイナーはそのすべてを極める必要はなくて、必要な知識を組み合わせて作りたいものを実現すればいい」という考え方を教えてくださったんです。指揮者がすべての楽器を演奏できなくても音楽を構築できるのと同じです。 必要に応じて必要なことをクイックに学んで設計に生かす、基本的にはそれが自分の生き方の下地になっています。
当時、特に影響を受けたアーティストはいますか?
高校時代の同級生にイラストレーターになった友人がいて、その存在が大きかったです。彼は芸大に進学してから、学生ながらCDジャケットのイラストとか、オンライン漫画連載とか、ガンガン仕事をし始めたんです。一方の自分といったら世情や流行に疎く、パソコンで絵が描けることすら知らなくて。彼からAdobeやペンタブレットなどのツール、ニコニコ動画やpixiv*などのネットサービス、アニメのカルチャーまでいろいろと教えてもらいました。彼を真似して絵を描き始めたのが、クリエイター系の道に舵をきった契機のひとつです。
*pixiv:イラスト・マンガ・小説の投稿や閲覧が楽しめる日本の作品コミュニケーションサービス。全公開作品の閲覧数やいいね!数などを基に、独自のアルゴリズムで毎日正午に更新されるランキング機能がある。
アニメで影響を受けた作品はありますか?
子供の頃は、アニメ=ジブリでした。家にDVDがあったので何度も繰り返し観てました。大学に入ってからは友人の影響でジャンル問わず見漁るようになって、色んなアニメから影響は受けているのですが、特に感銘を受けたのは今敏作品ですね。
大学卒業後は、どのような道に進まれたのか教えてください。
大学を出てからすぐは、ウェブやエディトリアルの領域でグラフィックデザイナーをやっていました。並行して主に書籍の装画などを描くイラストレーターもしていました。ゆくゆくのキャリアとしては、広告分野のアートディレクターになろうとしてたんです。
そこから映像の道に進むことにしたのは、なにかきっかけがあったのでしょうか?
そもそも映像を作り始めたのは、たまたま海外のデザインサイトで映像作家の細金卓矢さんによる『Vanishing Point』というモーション作品を目にしたのがきっかけだった気がします。単純な図形が動く抽象的な作品ではあるんですけど音と同期した動きがすごく気持ちよくて。
あとはグラフィックデザイナーのアッシュ・ソープ(Ash Thorp)やデザイン集団のグルービジョンズ(groovisions)が作った映像などにも影響を受けました。いずれにせよ質の高いグラフィックに音楽が気持ちよく組み合わさったモーショングラフィックスという映像分野に強く惹かれたんです。
自分もこういうものが作りたいと思って、After Effectsでキネティック・タイポグラフィを制作したり、Cinema 4D*やProcessing**などを使ってオーディオリアクティブな映像を作ってみたのが第一歩でした。作った時点で満足しちゃって、あまり外に向けて公開することはありませんでしたが。
*Cinema 4D: モーショングラフィックスなどのビジュアライゼーションに強い3DCGソフトウェア。
**Processing:アーティストやデザイナーのために作られたビジュアルプログラミング言語。
それから実写映像にも興味を持たれたということでしょうか?
実写映像に携わることになったのは、単純に当時いた制作会社で映像ディレクターに配属されたからです。職務上の成り行きで撮影の知識などを学び始めたんですけど、実写もやってみると面白くて。僕が入社した2010年代半ばは実験的な広告映像やMV作品がかなり多かった印象で、オーケー・ゴー(OK Go)が毎年のようにギミックの凝ったMVをリリースしてたり、大喜利のごとくクリエイティブな作品が量産されていたので、本腰を入れて映像を学ぶには良いタイミングだったなと思います。
ミシェル・ゴンドリー(Michel Gondry)が監督したケミカル・ブラザーズ(The Chemical Brothers)の「Star Guitar」のような映像と音楽が高度に同期されたMVがこの世にあることも知り、モーショングラフィックスに限らずとも映像全般が面白いという意識に変わっていきました。
なので、よし映像の道を進もう!と思ったというより、成り行き含めていろいろと学んでふらふらしているうちに気づいたら映像の道にいたって感じです。
音楽を分解することから始まる
オープニング制作での神谷さんの作業の流れについて、教えてください。
まずは監督と打ち合わせをして、描くべきヒトやモノなどの優先度や目指すべき方向性をヒアリングします。その打ち合わせからだいたい1ヶ月半くらいかけて、絵コンテ(Vコンテ)と演出設計をまとめた資料を作ります。僕の場合は原作や設定資料を何周も読み込んで、曲を聴き続けて構想を練るので、最初の2〜3週間くらいはひたすらインプットをしています。
その工程では、スケッチのようなラフなものでも描かないのでしょうか?
構成がある程度固まるまでは、あまり絵を描くことはしません。実際に描きながらアイデアを形にしていく人も多いと思うんですが、僕は絵を描くとその中途半端な出力に変に引っ張られちゃう感じがして。頭の中で8〜9割の映像ができてから描き始めます。
音楽を繰り返し聴いているときは、どのような聴き方をしているんですか?
いただいた音を分解します。もしそれがマスタリング音源であれば、「なんでここにはこの音やこの歌詞が選ばれているんだろう」というように、楽曲の意図を考えながら、After Effectsで大まかなカッティングを行います。 そこから、その音に合う絵を想像したり、どこで何を見せるかを決めていきます。散歩や打ち合わせの移動中とか、風呂の中とか、ずーっと聴きながら考えてますね。
アニメのオープニングならではの制作事情はありますか?
基本的にTVアニメのオープニングは90秒、厳密に言えば楽曲は89秒と尺が決まっています。稀にインストゥルメンタルとかで尖った展開をするものもありますが、たいていの場合は、イントロ・ABメロ・サビ・アウトロなどある程度決まった構成で展開します。当然、映像構成も楽曲に寄り添うので、その文法にそって王道な設計をすることがほとんどです。
ただ昨今のオープニング楽曲のBPMは結構速くなってる印象で、楽曲によっては200を超えるものもあります。これはボカロ出身の作曲者が台頭してブレス制約のない高速・高音域のメロディが違和感なく定着したり、タイパ重視化による聴き手への対応として楽曲の情報密度が高騰したり、SNSにおけるマーケティングの都合だったり……、いろいろ理由はあるんでしょうが、いずれにせよ映像もこの高速化するテンポに合わせる必要があります。
そのテンポや音数に合わせて、編集は細かく、情報は詰め込みがちになるわけですが、カットが増えれば制作費やスケジュールを圧迫しますし、海外を含めた幅広い視聴者層に対して「見やすさ」も考慮する必要があるので、とにかく曲を繰り返し聴きながら、音の情報量に負けないようにどうバランスを取るかということを考えます。
作品のクレジットを拝見するとコンテや演出以外にも撮影や編集なども担当されているようですが、理由はあるのでしょうか?
厳しいスケジュールの中で品質を最大限コントロールするためです。僕はカラーマネジメント含めたルック*の管理を重視しているのですが、現代アニメの制作フローの場合、基本的には合成工程である撮影が最終画面の色とルックを決定づけることが多いです。一方で、その重要工程に割ける時間というのは限られています。
TVアニメのオープニングってけっこう放送直前のタイミングまで制作してることが多くて。MVにしても楽曲リリースから逆算してシビアにスケジュールが決まってることが大半です。アニメはたくさんの作業者が関わって分業で制作されるので、多くの場合、どうしても進行に遅れがでます。絶対遵守の締め切りが迫る中、後に控える撮影含めたポスプロ**工程に割ける時間というのはどんどん削られていくわけです。
限られた時間の中、今の実力だとポスプロを人に任せた上で画面を制御することが難しくて、現状自分が演出する作品に関しては、自分で最終画面に仕上げるのが最適だと考えています。それと業界生え抜きではない自分がこうやって仕事をすることができているのは、純粋な演出力ではなく総合力に由来してると考えているので、強みは生かすべきかなと。
*ルック:キャラクターや背景などの色彩や光と影の表現、質感、撮影処理など、映像作品の画面全体の見え方を形づくる視覚的な方向性のこと。
**ポスプロ:ポストプロダクション。アニメ業界において、とくに本文中では作画や背景などの素材が描き上がったあとに行う最終工程のことを指す。撮影および編集、音響などを通して映像や音を整え、作品として完成させるための終盤の制作プロセス。
編集もご自身で担うとなると、音に関わる対応もしやすいということでしょうか。
おっしゃるとおりです。絵コンテは音源がデモの状態、つまり仮歌・仮の歌詞をもとに作り始めることも少なくありません。そして制作がある程度進んだ段階で完成音源が共有されるわけですが、マスタリング後のアレンジでは印象がガラッと変わってたり、キックなど重要な音のタイミングに変更がある場合もあるので、時間がない中でも楽曲に応じた細かい画面調整がしやすいように、最後まで自分で触れる体制にしています。
ちなみに、実写のMVや映画では「撮影」というとカメラを回すことだと思うのですが、アニメーション作品においての撮影とはどのような作業なのでしょうか?
描いた作画素材や背景素材などを合成(デジタルコンポジット)して、様々な画面効果(エフェクト)を足す作業です。昔は撮影台という専用機材を用いて物理的なセル画と背景画を真上から実際にフィルムカメラで「撮影」していたのですが、デジタル環境に移行した今でも、その名残で作画の合成工程が「撮影」と呼ばれています。
なるほど!では最後に、オープニングの制作に携わることについて、神谷さんはどのように考えて取り組まれているのかを教えてください。
TVアニメは1クール(およそ12話)を数年かけて作るものなんですが、オープニング映像は放送直前の数ヶ月〜半年くらいで制作することが多いです。その頃、アニメ本編を作ってる制作陣はおそらく正念場です。スケジュールに追われる戦場で、本隊がうおーって一丸となってるところに僕はフリーの傭兵のような立場で後からひょっこり参加するわけなんですけど、それにしてはオープニングって重要なものだよなと改めて感じていまして。
昨今、オープニング楽曲にはメジャーアーティストがこぞって起用されて、国内外からも大いに注目を集めますよね。オープニング映像はほぼ毎話に付くので、作品の顔のひとつとなって何度も観られる。
ちょうど米津玄師さんが劇場版『チェンソーマン レゼ篇』公開後のインタビューの中で、主題歌を担当するというのは一番最後にやってきて矢面に立つっていう「変な役割」だと思うところがある、というような発言をされていて、程度は異なりますがやたら共感したのを覚えています。
何が言いたいかというと、アニメって本当に多くの人が関わって一生懸命作られていて、そんな中、大詰めで重要なものを任せてもらうので、心構えとしては本隊の熱量に追いついて一騎当千の働きをしたいわけですよ。制作を自由に任せていただくことも多いですが、好き勝手やる場所でもないので、今は与えられた役割を誠実に全うしたいと考えています。
神谷雄貴
映像ディレクター。映像・デザイン分野を中心とした幅広い知識と技術を有することを強みに、現在は主にアニメーション作品のオープニング・エンディング映像、ミュージックビデオ、プロモーション映像などのディレクションを手がける。
近年の主な監督演出作品に、劇場版『チェンソーマン レゼ篇』オープニング映像、TVアニメ『ONE PIECE』オープニング映像、ハチ(米津玄師)「ドーナツホール 2024」MV、TVアニメ『呪術廻戦 渋谷事変』オープニング映像、TVアニメ『機動戦士ガンダム 水星の魔女』オープニング映像など。
劇場版『チェンソーマン レゼ篇』
大ヒット上映中!
© 2025 MAPPA/チェンソーマンプロジェクト ©藤本タツキ/集英社
INTRODUCTION
恋も欲望も、人間も悪魔も全てを巻き込むド派手な血戦、劇場アニメ化!
シリーズ累計発行部数3,000万を突破し、現在「少年ジャンプ+」(集英社)で人気連載中の漫画『チェンソーマン』(箸・藤本タツキ)。2022年には、アニメスタジオMAPPA(代表作:『呪術廻戦』『進撃の巨人 The Final Season』等)による制作のTVアニメが放送され、大きな話題を呼んだ同作。そして2025年、連載当時大熱狂を巻き起こしたエピソードが劇場アニメ化!
STORY
悪魔の心臓を持つ「チェンソーマン」となり、公安対魔特異4課に所属するデビルハンターの少年・デンジ(戸谷菊之介)。憧れのマキマ(楠木ともり)とのデートで浮かれている中、急な雨に見舞われ、雨宿りしていると偶然 “レゼ” (上田麗奈)という少女と出会った。近所のカフェで働いているという彼女はデンジに優しく微笑み、二人は急速に親密に。この出会いを境に、デンジの日常は変わり始めていく……
STAFF
原作:藤本タツキ(集英社「少年ジャンプ+」連載)
監督:𠮷原達矢
配給:東宝
制作:MAPPA
主題歌:米津玄師「IRIS OUT」
エンディング・テーマ:米津玄師, 宇多田ヒカル「JANE DOE」
(Sony Music Labels Inc.)
Photos:Soichi Ishida
Words & Edit:May Mochizuki