この度、アメリカのジャズコレクティブバンド、スナーキー・パピー(Snarky Puppy)のリーダーであり、ベーシストとして知られるマイケル・リーグ(Michael League)氏が日本酒「ZASSHU(雑種)」を発表し、日本でのお披露目会が東京・御茶ノ水のテクニカハウスにて秘密裏に開かれた。ZASSHUはその名の通り、複数の日本酒がブレンドされたもので、開発はブレンダーとして世界的にも著名なカナダ人ソムリエのフランソワ・シャルティエ(François Chartier)氏、人気酒造(福島)の遊佐勇人氏と共に行われたという。
ZASSHUのお披露目会・テイスティングのために用意されたのは、オーディオテクニカが6月12日にリリースしたダイヤモンドカンチレバーMCカートリッジ『AT-MCD1』で鳴らす音楽空間。テクニカハウス内にある、オーディオテクニカの音の粋が詰め込まれた研究開発型スタジオ「アストロスタジオ」にて、日本酒 × 食 × 音楽のペアリングのために来日したマイケル・リーグ氏に、エクレクティックな感覚が拓く伝統の新たな扉とペアリングの奥深さ、アーティストとしての姿勢について訊いた。
オーディオテクニカとの出会い、感覚の越境。
ZASSHUのリリース、おめでとうございます。今回はこの試飲会のために来日されていると思いますが、まずはどうしてテクニカハウスで実施することになったのか、その経緯を教えていただけますか。
まず、オーディオテクニカとの関係についてだけど、はじめて顔を合わせたのは2012年ごろだったかな。カナダ人アーティストのヴィンス・マンキューソ(Vince Mancuso)とアメリカで会ったときに、彼がオーディオテクニカと一緒にイベントをやっていて、そこで関係が生まれたんだ。
そのあと、2014年にリリースしたスナーキー・パピーのアルバム『We Like It Here』のレコーディングをオーディオテクニカにサポートしてもらったのが最初の仕事。おかげさまで、いまでも僕らの最高傑作になっているよ。
いまとなっては人気ヘッドホンだけど、当時、レコーディングで使用した『ATH-M50x』の音は僕たちのなかでもスタンダードになっていたし、僕自身も旅先でよく使っているんだ。もちろんそれだけでなく、これまで制作してきた楽曲はすべてオーディオテクニカのヘッドホンを使っていて、マイクだってそうだよ。
そんな経緯もあってアストロスタジオを知り、こだわりの音響空間が今回の日本酒とのペアリングにぴったりだと思ったんだ。それに何か特別なカートリッジをリリースすると聞いていたから、僕自身もペアリングがどんなものになるのかすごく楽しみにしていたんだ。
では来日の際、このテクニカハウスを訪れることもしばしばあったのでしょうか?
そうだね。テクニカハウスは大好きな場所のひとつだよ。和室のゲストルームは心が落ち着くし、素晴らしいリスニングルームだってある。僕にとっては東京のホームのような場所だね。オーディオテクニカのチームと一緒にディナーやレコードストアに行ったりもするんだ。
以前、オーディオテクニカで開催した「Analog Market」では、アナログな要素として “音” と “食” を同等に並べていました。マイケルさん自身、それらに繋がりを感じることはありますか?
ペアリングに関してはみんな興味があると思うんだけど、それは何も高次元で交わるハイエンドな体験に限ったことではないんだ。つまり、いついかなる状況でもペアリングは存在していて、それを普段意識できているかどうかなんだよ。
五感は常に働いているわけだから、レストランに入ったときに、そこで頂く料理以前に、室温や店内の匂い、流れている音楽が料理の味に作用することは多分にあるんじゃないかな。ミシュランの料理を頂いているのに、ヘンテコな音楽がかかっていたら気が滅入るよね?
もし「感覚の越境」をペアリングと呼ぶのであれば、音楽、食、アート、あらゆる感覚は越境して互いに作用し合う。そうであるならば、それらの価値から喜びを最大限引き出すためのキュレーションが成されるべきだと思うんだ。
ミュージシャンというのは基本的に人と会って何か新しいものを生み出すことが好きな人種だし、結局みんな音楽を届けるために旅しているようなものなんだ。出会った人々と食が旅先での時間をさらに豊かにしてくれる。食が音楽とクロスオーバーする部分も大きいと思うよ。
アナログ故の流動性が生むケアの精神。
音楽と一緒に世界中を旅してきたマイケルさんですが、きっと日本酒文化には驚かれたことと想像します。ZASSHUが従来の日本酒と比較してユニークな点や、飲んでほしいシチュエーションなどがあれば教えてください。
ZASSHUがユニークなのは、日本酒の伝統的な華やかさがありながら、さまざまな料理とペアリングできる点なんだ。この日本酒は、新しい価値観を広げていくような自由な精神を宿しているんだよ。
味を端的に言えば、エレガント且つディープでリッチ。複雑な味わいだからこそ、従来の伝統的なペアリングはもちろん、想像もつかないような料理とも組み合わせることができる。意外かもしれないけど、チーズバーガーとも相性がいいんだ。
ZASSHUは家で飲むことを想定してつくっていて、ふたりで飲みきれる量を想定して500mlのボトルを採用しているんだけど、レストランのペアリングでも提供してもらっているし、色んなシチュエーションで楽しんでもらえると思うよ。
日本酒、ナチュラルワイン、アナログレコードもそうだと思いますが、アナログなものには常にケアが伴いますよね。温度管理だったり、日々状態を確認することが。
僕が以前聞いて心に残っているのは、シェフで作家のアンソニー・ボーディン(Anthony Bourdain)がインタビューで言っていた「食べ物は常に変化し続けている」という言葉なんだ。もっとも美味しい食体験は、それらの変化における完璧な瞬間を射止めた結果なんだ、と。とても興味深いよね。
アナログ・フィジカルなものは繊細で壊れやすいからこそ、人はそれをケアしなければならない。そういった手間を惜しまないことも僕自身がバンドを通して学んだことのひとつだし、人はケアする過程で責任感を伴うようにもなっていくもの。だからアナログ・フィジカルなものに触れることは、とても意義のあることなんだ。
そうしたバンド活動などのフィジカルな体験を通してZASSHUの開発に活かされたことはありますか? そもそもの開発のきっかけは何だったのでしょうか。
実は、以前リリースしたアルバムのなかに酒蔵で書いた曲があるんだ。それもほろ酔い状態でね。とてもフィジカルな体験だったよ(笑)。実際のところ、ZASSHUの開発には奇跡のような偶然が重なった部分もあったんだけど、基本的には時間をかけて一つひとつプロセスを追っていったんだ。
ここ最近、ヨーロッパのハイエンドなレストランでは日本酒をペアリングで扱うことが増えてきていて、ある種の日本酒ブームの文脈のなかで改めて日本酒の魅力を海外に発信していきたいという前提があったんだよね。そんな折に、以前から知っていたソムリエのフランソワから「一緒に日本酒をつくらないか」と声をかけてもらったのが直接的なきっかけ。僕も日本酒の大ファンだったし、彼と開発できるなんて光栄だったから、すぐに「やろう!」って即答したよ(笑)。文化的土壌のある日本の消費者にクラシックな日本酒の代替品として楽しんでもらうというよりは、ブレンドという西洋の価値観によるオプションとして、新しい楽しみ方を提案できたらと開発をスタートしたんだ。
まず最初にフランソワが福島の人気酒造をやっている遊佐さんにコンタクトして、コラボレーションの可能性を探ったんだ。酒蔵に6時間籠り、貯蔵していた38種類の日本酒を順番にテイスティングしながら、ブレンドする日本酒の候補を彼の感覚で決めていった。
そのなかから今度はブレンドする日本酒の候補をとり出して、6種類の日本酒をブレンドした4本の異なるサンプルをつくった。
最終的に、僕がその4本のサンプルをテイスティングして選び出したのが、いまここに並んでいるZASSHUなんだけど、僕が遊佐さんに会ったのはそのあとで、結果的に3人とも同じサンプルを選んでいたことを知ったときは本当に驚いたよ。
“ブレンド” というバックグラウンドからZASSHUと名づけたんだけど、国際的にも発音しやすいし、響きもいい。一見すると芝犬のようだけど、秋田犬のニュアンスも入っているんだ。僕自身もビーグルとバセットハウンドのミックス犬と一緒に育ったから犬にはとても愛着があったし、僕らのバンド名にも縁があるからね。
それで昨年11月、イギリスでZASSHUをリリースしたところ直後に完売。国によってリアクションが異なるのが日本酒の面白いところなんだけど、やっぱり本場の日本でとなると緊張するよね。
日本では、 “良い酒に悪い酒が混ざると全部悪い酒になってしまう” と言われているみたいで、遊佐さんも「こんな日本酒のつくり方ははじめて見た」と驚いていたんだ。実はZASSHUには10年以上熟成した酒がブレンドされているんだけど、面白いのは、それを10%ではなく5%にしたことで、その香りが引き立つというマジックが起こったことなんだ。熟成酒とフレッシュな生酒をブレンドするような発想はなかったと、遊佐さんにも新しい発見があったみたい。
日本酒を飲むことはすごくパーソナルな行為だと思うんだ。実際に体内にとり込むわけだからね。きっとそれは音楽も同じで、正しい文脈で聴こうと思えばよりパーソナルなものになる。僕がアルバムをつくれば、みんなはそれをフィジカルで購入することができるし、身近に飾ることだってできる。そんな体験から喜びや感動を受け手に与えられたなら、それ以上のことはないよね。
僕がいつも喜びを感じるのは、つくり手としてパーソナルな体験を届けることなんだ。だから、いつもフィジカルなプロダクトをつくる側のアーティストでいたいと思っているんだ。
いい意味で「伝統」を崩す、ミュージシャンの役割。
ZASSHUは6種類の異なる日本酒をブレンドしてできているとのことですが、開発の課程でもっともエキサイティングだったことは何ですか?
3つあるんだけど、まずひとつ目は、完成したブレンドを最初にテイスティングした瞬間かな。グラスに注がれた6種類の選ばれた日本酒がひとつになって、何千本ものボトルに充填されるのを見たときはとても感動したよ。結果、これが正しい選択だったと思えたんだ。
ふたつ目は、ロンドンで最初にZASSHUのボトルを手にしたとき。フランソワや僕の友人たちとシェアしたんだけど、プロジェクトをはじめてからの1年が報われた瞬間だった。そして何よりいま、このボトルが多くの人の手に渡り、今日ここでそれを飲んだ人たちの笑顔に囲まれていることが嬉しいんだ。だから、それが3つ目かな。
僕が経験してきた軌跡がみんなの体験へと昇華されたことに大きな意味があると思っていたから、今日は特に嬉しくてね。
伝統は敬われるあまり固定化され、 “変化そのもの” を恐れるようになる業界も多いと思います。マイケルさんは、「伝統を継承していくこと」と「クリエイション」のバランスについて、どのように捉えていますか?
僕は日本人ではないけど、これまでに多くの日本酒を飲んできたし、伝統的なスタイルの日本酒にも敬意を払っているつもりだよ。遊佐さんは日本酒の伝統を理解しているプロフェッショナルだし、フランソワは文化的な生い立ちは違えど、その伝統をソムリエの視点で解釈した。こうした組み合わせが日本酒というお酒の新たな扉を開いたと思うんだ。
だけど世界を見渡せば、日本酒が挑戦的な方法で使用されていることも多々あるよね。例えば、カクテルとして出しているバーがあったりもする。彼らは一見ルールを破っているのかもしれないけど、見方によっては柔軟な姿勢をもっているとも言えるのかもしれない。
例えば、マルゲリータのトリプルセック(オレンジリキュール)、ブラッディ・マリーのウォッカ、ネグローニやマティーニのジンといったハードリカーの代用として使ったりもできる。日本酒を単体で飲むのももちろんいいんだけど、それをブリッジさせるための基軸として使用することで新たな発見にも繋がっていくんだ。
日本酒をブレンドするなんて物議を醸すかもしれないけど、ミュージシャン(アーティスト)の仕事は、常に既存の概念を崩すことでもある。ZASSHUでもそれと同じことをやったわけで、あくまで文化を深く理解した上での話なんだ。
話を音楽に変換するとわかりやすいかもしれないよ。例えば、あるミュージシャンたちがジャズに造詣が深くて、伝統的にその音楽を理解していたとしたら、彼らほど新しい音楽を生み出すのに最適な人はいないかもしれない。
確かにそうかもしれません。では、ここでアストロスタジオの音響空間についても触れられればと思うのですが、オーディオテクニカがリリースしたダイヤモンドカンチレバーMCカートリッジAT-MCD1でかけた音楽とZASSHUとのペアリング体験を通して、何を感じましたか?
今回は、僕が最近リリースした音源とは別に、ポール・ホーン(Paul Horn)やディアンジェロ(D’Angelo)などのアナログレコードを何枚かセレクトさせてもらったんだけど、一体型ダイアモンドカンチレバーを採用したAT-MCD1は、ダイレクト且つ俊敏に音の情報を拾ってくれるので、リアリティのある音、特に高域の音像には圧倒されたよ。
音楽も日本酒も互いの個性を引き立て合うことで単独では得られない体験が生まれていく。そこにある種の面白さを感じられたからこそ、素直に変化を受容できたのかもしれないね。
少しお酒の話に戻るけど、スペイン南部のアンダルシア地方にあるヘレス・デ・ラ・フロンテーラ(以下、ヘレス)という都市には何種類ものワインを混ぜる文化があって、2本の白ワインがブレンドされてつくられた「クリーム」と呼ばれるワインがあるんだ。こんな飲み方があるんだと最初は驚いたけど、シェリー酒の産地としても有名な場所だから4、5種類の白ワインをブレンドすることが文化として根づいていたんだ。
ヘレスはフラメンコでも有名な都市なんだけど、ロザリア(Rosalía)がフラメンコを現代音楽と融合したとき、伝統音楽への冒涜だなんて避難されたことがあったんだけど、いまでは彼女の音楽のおかげてクラシックなフラメンコ音楽に多くのリスナーが耳を傾けるようになった。カマシ・ワシントン(Kamasi Washington)もそうだよね。彼の音楽のおかげでジョン・コルトレーン(John Coltrane)がいかに再発掘されるようになったか。
スナーキー・パピーもそうだけど、例え多くの人から批判を受けたとしても、それをやるべきだと思える景色が広がっていくことを僕たちは知っているんだ。その時代を生きた人も、次の時代を生きる人も、お互いの文化を時代を超えてポジティブに認め合うことで新たな景色が立ち上がっていく。
一見、挑戦的で横暴に思えるかもしれないけれど、ミュージシャンは多かれ少なかれ同じことをやっているんだ。僕自身、いきなりジャズを聴くようになったわけではなくて、スティーリー・ダン(Steely Dan)を聴くようになってから徐々にジャズに傾倒していったのと同じだよ。
いきなりクラシックでディープなところへは行きづらいけど、手前にひとつ扉をつくってあげれば、やがてアクセスできるようになる。文化的な要素を除いたとしても、ユニークな体験はきっとその受け手の心に残るものだから。
そうですね。日本酒のブレンドによってつくられたZASSHUも、根本的には伝統的であるはずなのに、どこか新しい感覚が宿っているところに惹かれてしまいます。
そうなんだ。実は今日聴いたAT-MCD1の音にも近い感覚があったよ。アナログレコードという非常に伝統的なメディアから音楽を再生しているのに、そこから引き出される情報量や質感には驚かされたし、まさに新たな発見そのものだった。結果、ZASSHUの味もより深く楽しむことができたと思う。
伝統というのは、ただ昔の形をそのまま保存することではなくて、本質を理解したうえで新しい角度から光を当て続けることなんじゃないかな。ロザリアがフラメンコに新しいリスナーを連れてきたように、AT-MCD1もアナログレコードの魅力を現代的な感覚で再発見させてくれるし、ZASSHUもまた日本酒の新しい入口になり得る。
僕はそういう “伝統への新しいアクセスの仕方” にとても興味があるんだ。
これは日本酒づくりだけではなくて、ほかのアーティストと仕事するときも一緒。常に異なる視点をもって話すようにしているんだ。伝統的な価値観も、しっかりと文脈を捉えた上で再解釈しながらリミキシングすることができれば、きっと新しい価値が生まれていくんだと思う。
オーディオテクニカもそんな感覚に共感してくれたからこそ、この場所を提供してくれたんだと思うし、変化に臆せず、機会を与えてくれたことに本当に感謝しているよ。今回のZASSHUや僕らの音楽を通じて新たな刺激を受けとってもらい、それが回り回って伝統的な分野の再発掘にも繋がれば、きっとそれが僕がアーティストを続けていく意義にもなるんだと思う。
マイケル・リーグ(Michael League)
アメリカ・テキサス州のUniversity of North Texasの学生メンバーにより2004年に結成されたジャズコレクティブバンド「Snarky Puppy」のリーダーであり、ベーシスト。同バンドは、「最優秀ポップ・インストゥルメンタル・アルバム賞」「最優秀リズム・アンド・ブルース・パフォーマンス賞」などのグラミー受賞歴をもつ。2025年の暮れ、「夢」をテーマにリリースされたニューアルバム『Somni』はまだ記憶に新しいが、最近でもさまざまな国のアーティストとともにエルメート・パスコアール(Hermeto Pascoal)のカバー集に参加したり、ビル・ローレンス(Bill Lawrence)とともに楽曲制作するなど、精力的に活動を続けている。2025年11月に英国日本酒協会(British Sake Association)よりイギリスでリリースされた「ZASSHU」は、ここ日本でもオンラインで購入可能で、現在12ヶ国でグローバル展開されている。
お酒は20歳になってから。20歳未満の飲酒は法律で禁止されています。

AT-MCD1
デュアルムービングコイル(MC)ステレオカートリッジ
Photos:Shintaro Yoshimatsu
Words & Edit:Jun Kuramoto(WATARIGARASU)