昨今、アジアの音楽シーンが日進月歩の勢いで成長・洗練化し、グローバルな音楽市場に食い込んでいっている。そうしたなか、日本でも世界で戦うことができる音楽プロデューサーを育てることを目的にした、大規模なプロジェクトが着々と実行に移されているのをご存じだろうか。
2026年3月に都内スタジオを拠点に開催された「TOKYO SOUND CONTINUUM 2026」。このプロジェクトは、文化庁の補助金により独立行政法人日本芸術文化振興会に設置されたクリエイター支援基金を活用した取り組みで、世界の第一線で活躍するプロデューサーやソングライターと、日本の若手トラックメイカー/ソングライターが共に創作し、学び、国際的な音楽シーンへと挑むことを目的とした実践型のソングライティング・プログラムである。単なるワークショップにとどまらず、制作から将来的な海外展開までを見据えた “育成と接続” の場として設計されている点が特徴だ。初開催となった注目のプロジェクトの全容を見てみよう。
グローバルヒットの最前線に立つプロデューサーたちとの濃密な5日間
プログラムの中核は、5日間にわたるソングライティングキャンプである。アメリカから来日したトッププロデューサー/ソングライター陣と、日本の若手アーティストがチームを組み、都内スタジオにおいて共同制作を行った。グラミー賞受賞歴や世界的ヒットを手がけてきたクリエイターたちが実際の制作現場に入り、日本の若手と並走するというかつてない機会。参加を希望する応募者数は、約1ヶ月間の応募期間で664人にも上ったという。
今回アドバイザーとして来日した主なプロデューサー 、ソングライター、音楽エグゼクティブは次の通り。
ノトーリアス・ビーアイジー(The Notorious B.I.G.)のマネジメントを手がけた後、RCA Records社長/COFVNDERS CEOなどを務め、クリス・ブラウン(Chris Brown)やシザ(SZA)、ドージャ・キャット(Doja Cat)、ブラックピンク(BLACKPINK)のLisaなど数多くのアーティストの成功に貢献してきたマーク・ピッツ(Mark Pitts)。
ケンドリック・ラマーのグラミー受賞作『Mr. Morale & The Big Steppers』に参加し、ドクター・ドレーやアンダーソン・パークとも共作したJ.LBS(Jason Pounds)。
ビヨンセ「Black Parade」でグラミーを受賞し、コイ・リーレイの出世作「Players」を共作したソングライターのアキル・ワールドワイドフレッシュ・キング(Akil “WorldwideFresh” King)。
さらにはHYBE America 音楽部門社長/元モータウン会長兼CEOのエチオピア・ハブテマリアム(Ethiopia Habtemariam)、ジョングク「Seven」、ROSÉ & ブルーノ・マーズ「APT.」、などで知られるソングライターのセロン・トーマス(Theron Thomas/R. City)、リル・ウェイン「A Milli」「6 Foot 7 Foot」、ニッキー・ミナージュ「Did It On ’Em」を手がけたグラミー受賞者であり、ビヨンセ、アッシャー、リアーナとも仕事を重ねてきたバングラデシュ(Bangladesh)といった面々も。
まさにグローバルヒットの最前線に立っている彼らに、実際のスタジオワークの手ほどきを受けるという貴重な5日間。特筆すべきは、そのコミュニケーションの密度である。
朝から夕方までみっちりとスタジオに籠り、単発のレクチャーや講義形式ではなく、同じ空間で音を出し、アイデアを交換しながら楽曲を仕上げていくプロセス、そしてプロダクションにおける技術的側面にとどまらず、現場の “ノリ” や身体感覚に近い部分までもが実践の中で伝達されていった。
多角的なセッションと、日本の音楽文化のプレゼンテーション
さらに、期間中には「インスピレーションセッション」として、日本文化を多角的に体験する機会が設けられた。アナログレコードのリスニング環境や、日本製のヴィンテージアナログシンセサイザーを集めたポップアップスタジオが展開され、参加者は実際に音を聴き、機材に触れながら、日本の音楽文化の蓄積に向き合う時間を過ごした。
さらに、九段ハウスでは「Japanese Culture / Networking Party」と題したセッションが開催され、茶道やいけばな、盆栽といった伝統文化の実践者による展示やプレゼンテーションが行われた。現代的な創作と接続された“現在進行形の日本文化”が参加者たちに新たなインスピレーションを与えた。
そのほかにも、日本の音楽業界からゲストを招いたビジネストークセッションも実施され、音楽を “世界に届けるプロダクト” として展開していくための知識や視点が共有された。
「TOKYO SOUND CONTINUUM」は3年間のプログラムとして構想されており、今回はその初年度。今回のキャンプで築かれたネットワークや制作プロセスは、単発で完結するものではなく、次年度以降の展開へと引き継がれていくことになる。
グローバルなヒットが生まれる現場の空気を体感し、その思考法やスピード感を自らの制作に取り込む経験は、参加者個人のキャリアにとどまらず、今後の国内シーン全体にも波及していくことが期待される。
日本と世界の音楽シーンをつなぐ新たな回路が、確かに立ち上がり始めている。
Words & Edit:Kunihiro Miki
Photos:Yuma Yamashita