2026年9月2日から10月4日まで、およそ一ヶ月間開催されるオーディオテクニカ、VDS(Vinyl Delivery Service)、SKWATの3者合同企画・制作によるAnalog Market。

その会場となる東京・亀有のSKACに、イーストロンドンの現在のジャズシーンを語る上では外せない、インディペンデントな音楽団体「Church of Sound(チャーチ・オブ・サウンド)」がやってくる。オーディエンスがアーティストを取り囲んだ独特の形態による、 “音を主体とした信頼ベースのコミュニティ” は、教会にかつてのような人々の繋がりと熱量を取り戻した。

今回のインタビューでは、当イベントの共同主催者であるレックス・ブロンディン(Lex Blondin 以下、レックス)、スペンサー・マーティン(Spencer Martin 以下、スペンサー)、そして、ともにイベントをつくっている同志のモイン・サカ(Moyin Saka 以下、モイン)にご参加いただき、今回のAnalog Marketの会場となるSKACに併設するVDSのオーナーであり、彼らとも親交の深い関塚林太郎さん(以下、林太郎)を交え、お話を伺うことに。

まずは、今回のイベント開催に至るまでの経緯を振り返りながら、今年10周年を迎えた、ひとつ屋根の下で感覚を共有できるようなコミュニティの在り方と、Church of Soundの歴史について教えてもらった。

レックス・ブロンディン(右)、スペンサー・マーティン (左)、モイン・サカ(左から2番目)。

「教会」という空間で響かせる、ロンドン・ジャズの現在地。

Church of Sound(以下、CoS)がどのようにしてはじまったのか、まずはそのきっかけについて教えてください。

レックス:CoSがスタートしたのは2016年。僕はTotal Refreshment Centre(トータル・リフレッシュメント・センター 以下、TRC)という、レコーディングスタジオ、リハーサルスペース、イベントスペースなどを備えた複合的な音楽/アートスペースで、音楽愛好家の隠れ家のような施設を運営していたんだけど、そこでランチ・マネー・ライフ(Lunch Money Life)というバンドのメンバーだったスペンサーと出会い、仲良くなったことが最初のきっかけだったんだ。

スペンサー:当時はTRCでよくギグをやっていたんだけど、TRCを飛び出して、外でもギグをやってみたいというアイデアが頭の片隅にあって。

では、どうしてその場所に「教会」を選んだのでしょうか。

スペンサー:僕はオルガニストだから、子どもの頃からよくオルガンを弾きに教会へ行っていたんだ。しばらく通わない場所ではあったけど、2014年にロンドン北部にあるハガーストンという街のオールセインツ教会という場所でオルガニストとして働きはじめ、それがきっかけでバンドのリハーサルをやることになったんだ。

いまでも演奏は続けているんだけど、そこでレックスとも知り合うことができたから、 “教会でギグをしたら面白いんじゃないか” というアイデアを彼とシェアするようになってね。

教会でオルガンを弾く、10歳当時のスペンサーさん。

ただ、残念ながらその教会では演奏を続けることができなくなってしまったから、代わりにすぐ近くのローワー・クラプトン・ロードにあるセント・ジェームス教会を紹介してもらったんだ。そこが現在、CoSを開催している教会だよ。

CoSの会場となっているセント・ジェームス教会。

クラシックな話になってしまいますが、パイプオルガンの響きといったように、教会には宗教としての教会音楽が存在していると思います。そうした空間に現代の音響を持ち込み、音を鳴らしてみた当時の率直な感想というのは、どのようなものでしたか?

スペンサー:一言で言えば、“カオス”(笑)。ティーザー用の動画にアコースティックの演奏を数回試してはいたんだけど、正直、開場15分前までリハーサルでしっかりとした演奏はしていなくて。でも、実際に機材を通して音を出してみたら、ワァオ! という衝撃はあったね。

レックス:技術的に何もなかったわけではなくて、サウンドエンジニアをチームに抱えていたから、教会という空間でも適切なサウンドシステムを持ち込むことができたんだ。そのおかげで上手く音を響かせることができたし、そこから徐々にみんなで理想の音に近づけていったんだ。

今日まで教会の役割も時代とともに変化してきましたが、CoSは音を軸に、現代を生きる人々を再び教会というアナログ空間へと呼び寄せています。そんなユニークな状況を背にお二人が意図する音との付き合い方というのは、どのようなものですか?

レックス:僕自身、普段は結婚式やお葬式のときくらいしか教会へ行くことはないよ。でも、ひとつ言えるのは、教会という場所を訪れると背筋が伸びるし、ひとつのことに集中するにはうってつけの場所なんだよね。

あんなに “静けさ” のある場所って街中にはないし、そうした教会の性質がCoSにも息づいているのは確かだよ。バンドが演奏しているときも一緒で、どんなに些細な音にでも耳を澄まして聴くような姿勢が、あの場所にはあるんだ。

モイン:私は二人のように最初からCoSのチームにいたわけではないけれど、私自身には現代アートや映画のバックボーンがあるの。だから、常にアートを観る従来の方法に変革をもたらしたいと思っていたし、アーティストがオーディエンスに一方通行の表現をするのではなく、むしろ一体となる関係性を模索していたの。

面白いことに、レックスとスペンサーは観客の参加を促し、親密で集中した雰囲気を生み出す円形の配置、つまり、イン・ザ・ラウンドのレイアウトをすでに完成させていた。そうやってオープンな空間を作ることができれば、観客とミュージシャンの間にある壁を取り払えるかもしれない。積極的にこのフォーマットを推進させたことで、音との向き合い方も変化していったわ。

でもそれは演奏音だけではなく、そこにあるフードや、リラックスするための空間として全体を構成していく必要性があったから、そういう意味でも教会という場所は私たちのコンセプトにピッタリだったんじゃないかしら。

モイン:東京もそうかはわからないけど、ロンドンではひとつの空間からカルチャーを育み、コミュニティを形成していくような場所が貴重だったりするので、信頼を獲得してオープンな関係性を築くことが私たちにとってのゴールでもあったのよ。

セント・ジェームス教会は、以前から地元の聖歌隊やホームレスの方たちに食料を施す場としてもオープンな場所なの。街の文化センターのような役割を果たしていることもあって、私たちのコンセプトと相まって上手く並走することができたんだと思うわ。

そうした価値観に共感してくれる空間というのは稀有な存在だと思いますが、Analog Marketの開催場所であり、CoSの公演場所でもあるSKACもまた、そのような機能を携えた場所ですよね。今回10周年を迎えるタイミングでSKACを会場に選ばれたのは、SKAC内、そしてロンドンにも店舗をもつVDSの林太郎さんとの関係があったからなのでしょうか。

レックス:林太郎と最初に会ったのは、確かロンドンのVDSチームがTRCでやったパーティだったんじゃないかな。去年は信頼の置けるミュージシャンであり、僕のパートナーでもあるモモコ・ギル(Momoko Gill 以下、モモコ)と一緒に、マシュー・ハーバート(Matthew Herbert)と彼女のデュオプロジェクト、ハーバート・アンド・モモコ(Herbert & Momoko)のツアーで東京を訪れたんだ。そのときに亀有のSKACで林太郎とも再会を果たすことができた。

SKACを訪れてすぐに、「この場所でCoSをやらないと」って思ったし、「モモコとCoSのコラボレーションもここで実現させないと」って話していたよね。

林太郎:そうだったね! だから今回それが実現することになって、本当にワクワクしているよ。

スペンサー:僕はまだ林太郎と知り合って数ヶ月だけど、いつもエキサイティングなアイデアをもっているし、それを的確に実現してくれる。どんな角度からの仕事でも、アーミーナイフのように捌いてくれるんだ。

“音楽愛”にドライブされたコミュニティ。

9月19日(土)に、SKAC内のアートスペースであるPARKに登場する「Listening Room」で開催される今回のCoSですが、オーディエンスにはどのような体験が待っていますか。

レックス:まだ詰めている段階ではあるんだけど、モモコの演奏はもちろん、日本のシーンで活躍しているローカルアーティストとのコラボレーションも企画しているよ。彼女もそれをすごく楽しみにしているんだ。

今回ももちろん、密度の高い空間で、同じ目線で音を体感することでステージという障壁が取り払われていけば、それによってオーディエンスとミュージシャンとの間に感覚の共有が起こりやすくなる。

ミュージシャン同士でも、本番よりもリハーサルのような感覚で顔を見合わせながら演奏できるし、双方にとって目線を合わせながら一体感を高めていくことが重要な要素になっていると思うな。

モイン:ただ鑑賞するだけじゃなくて、自分が聴きたい場所へ自由に移動したり、好きなミュージシャンの近くで音楽を聴けることも従来のライブ形式とは異なる楽しみ方だと思うわ。

そもそもひとつ屋根の下で集い、語り合う場所として機能していたのが教会だったわけだし、それはきっと音楽も一緒。みんなの顔を見渡せたり、コミュニケーションを促すような形が、オーディエンスとミュージシャンの垣根を超えるような一体感を与え、それが総合的な音響体験へと繋がっていくんだと思うわ。

モイン:それともう一つ、音楽とコミュニティという考え方がCoSのエッセンスになっているということを付け加えさせて。みんな友達同士で音楽を聴き、フードを提供してくれる方がいて、それを食べる方、その誰もが大切な要素になっている。そういう意味でも、このコミュニティの中心にあるものがイン・ザ・ラウンドのセットアップなんじゃないかしら。

レックス:林太郎をはじめ、VDSチームのみんなが最高の音響にチューニングしていってくれているはずだから、きっと気に入ってくれると思うよ。

スペンサー:あと、9月13日(日)にはトーク/リスニングセッションも実施する予定だよ。今回持参するレコーディング音源は2種類で、ひとつはCoSの10周年を記念した公式リリース予定作品のテストプレス、もうひとつは今回の公演のために特別にカットしたアーカイブから未公開音源を収録したダブプレート。これらのコンピレーションは、9月8日(火)に10周年の節目の限定ダブプレートとしてリリースされたばかりなんだ。13日はそれらの音源を聴きながらCoSについて、この10年間を振り返りながらトークもするから、楽しみにしていてほしいな。

林太郎さんは、CoSをSKACで開催することにどのような期待をお持ちですか?

林太郎:CoSをAnalog Marketと一緒に東京で開催することに大きな意味があると思っています。CoSのコンセプトを彼らのクルーとともにSKACへ招くことは今回がはじめてですし、日本のローカルアーティストとのコラボレーションやコミュニティ間の交流にも期待しています。

モインも話していましたが、このイベントは単に音楽を聴くのではなく、みんなで音を囲み、体験として持ち帰ってもらえるものだということなんです。「CoSって何」「ステージはどこにあるの」「音はどこから鳴っているの」など、東京ではこれまで味わったことのない状況を、いまロンドンで何が起きているのかと想像しながら、CoSのコンセプトとともに体感してもらえる、そんな機会にしたいですよね。

僕自身がCoSから学んだことは、CoSが自然に生まれた経緯にも表れているんです。誰に言われるわけでもなく、みんなが自ら楽しい体験に関わりたいと自発的に行動に移したことではじまっている。そんな彼らの姿勢も含めた音楽体験をぜひしてもらいたいですね。きっと、東京のシーンにも連鎖して、新しい風を運んでくれるはずです。

スペンサー:CoSにはドアマンもセキュリティーも立っていないんだ。そんな環境ってロンドン中どこを探してもないと思うんだけど、それだけ信頼関係を結んだコミュニティなんだよね。それに、チケットを渡すときにはキャンディをプレゼントしていて、そういうアットホームな空気感が観客との障壁を取り払ってくれるんだ。

今回VDSチームと一緒にプロジェクトを進めていくなかでも、CoSと同じで誰もが音楽愛に突き動かされて、DIYでともにつくり上げていく空気感が感じられたね。

みなさんの音楽愛がCoSの原動力になっていたんですね。そして、会場のサウンドシステムにはOTOJUがインストールされますね。

林太郎:セッションやライブが開催されるListening Roomという空間は大きな正方形の箱になっていて、そこにOTOJUをインストールする予定です。リアとフロントにそれぞれ2チャンネルずつ、合計4チャンネルで録音された音を再生できるクアドロフォニックのサウンドシステムで、それらを出力する4発のスピーカーは、すべて無指向性のものを備えたユニークな仕様になります。

昨今のスピーカーは視覚デザイン重視のインテリアに馴染むものが流行っていたりしますが、私たちはむしろ視覚を閉ざして音に集中してもらうために照明を暗く落とし、聴覚による意識をより強めた環境をつくる予定です。畳を敷いて、寝転がりながら音に没頭することもできますし、心地よい周波数で最高のリスニング空間をお届けします。

それと、ライブ演奏時のサウンドシステムは代官山のライブハウス、晴れたら空に豆まいてのチームから、CoSのことをそのコンセプトごと熟知したサウンドエンジニアのノリタケさんが音づくりを担当してくれます。

OTOJUについては林太郎さんから説明があったと思いますが、CoSのみなさんはどのような印象を抱きましたか?

スペンサー:開催初期のころ、よくCoSはナポリタンアイスクリーム*に例えられていたんだけど、OTOJUにもそんな印象を抱いたかな。真ん中にサウンドシステムがあって、それを取り囲むようにオーディエンスが円を描き、その周りに教会という箱がある。これって確かにアイスクリームの構造と一緒だよね。

*ナポリタンアイスクリーム:3つのフレーバーが、1つの容器に横並びで入っているアイスクリームのこと。バニラ、チョコレート、ストロベリーが定番

面白い表現ですね(笑)。みなさんはこれまでにオーディオテクニカ製品を使用したことはありますか?

レックス:オーディオテクニカは昔から大好きで、80年代初頭に6トラックのアナログミキサーを手に入れて以来、ずっとファンだよ。サウンドバーガーも持っているし、カートリッジやヘッドホンもずっと使ってる。

一時代を築いたブランドだと思うし、何十年にもわたって使わせてもらっているから、アナログサウンドを出す上でも彼らへの信頼は厚い。本当に美しい音を出してくれるよね。だから、今回一緒にコラボレーションすることができてとても幸運だよ。

それに、今回はモモコがオーディオテクニカの社内スタジオでリハーサル演奏できることになっているから、最新の機材が揃ったスタジオを見ることも楽しみにしているんだ。

ところで、今回モモコさんが選ばれた理由はあるのでしょうか。

レックス:彼女の音楽の大ファンだという前提はもちろんあるけど、彼女はイギリス人と日本人のハーフでもあるから言語障壁もない。日本で生まれ、10代まで過ごした故郷からアメリカに移り、そこからロンドンへと移り住んだ彼女が再び生まれ故郷に帰る。その日本で最初の演奏となる特別な機会をCoSで実現したかったんだ。

彼女がロンドンで制作した音楽は、生活拠点だったサウスロンドンのジャズシーンの影響を色濃く反映していて、CoSが大事にしている即興という要素を多分に含んだ彼女の音楽を、日本のローカルミュージシャンとクロスさせたときに起こる状況も楽しみにしているんだ。

それに、日本のローカルアーティストとのコラボレーションで今回限りの特別なギグになるわけだから、そういった特別感もあるよね。

なるほど。ロンドンと東京を橋渡しする象徴的なアーティストなんですね。
ところで、今回はAnalog Market内での開催となります。お二人はイベントの頭についている「アナログ」という言葉に対して、どのような姿勢をお持ちですか?

レックス:僕もスペンサーもアナログサウンドの虜だから、ヴァイナルコレクターとしても、やっぱりアナログサウンドを追求していきたいという姿勢は常にあるよね。TRCでもアナログな音づくりにはこだわっているし、24トラックのアナログテープマシンを使って録音しているんだ。編集ではデジタルのパソコンを使うものの、それ以外の機材はほとんどがアナログ機材だよ。

スペンサー:CoSにとって、アナログはとても大切なものだよ。2016年に初めてイベントを開催したときから、DJがプレイする音楽はすべてアナログレコードのみ。レコードは、DJと聴き手の双方が音楽とより丁寧に向き合うきっかけをくれるんだ。一曲一曲をじっくり味わい、「なぜその曲を選んだのか」という選曲の意味に重みも生まれるからね。

それに、アナログはCoSで築いてきたすべてのことの象徴だと言えるんだ。例えば、立ち上げ当初から手間を惜しまず、特別な体験をつくるための決断を重ねてきたし、決まった会場を使わず、毎回ゼロから会場をつくり上げてきた。それらはとてもアナログな行為で、ストリーミングではなくレコードのコレクションを築いていくことにも似ている。アナログとは、思いやりであり、意図であり、長く残る価値への信念だと思っているよ。

Church of Sound

2016年よりイーストロンドンのセント・ジェームス教会で開催されている、ジャズ、ファンクミュージックを主軸としたコミュニティベースの音楽イベント。TRCを運営するLex Blondin(レックス・ブロンディン)氏と、Spencer Martin(スペンサー・マーティン)氏がコファウンダーであり、イン・ザ・ラウンド形式及びソングブック形式で行われるのが特徴。アーティストとオーディエンスが渾然一体となった空間は、この場所で、この瞬間にしか味わうことのできない唯一無二の音楽体験を届けてくれる。CoSの掲げるスローガン「Music in Communion」は、宗教的な儀式と人々がともにあるという感覚、その両方の意味を内包する。

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Photo courtesy of Church of Sound
Words & Edit:Jun Kuramoto(WATARIGARASU)

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