ラジオ放送には「AM」と「FM」があります。音質の差だけでなく、放送信号の伝え方や使用する周波数帯、ステレオ放送の仕組みまで、両者には本質的な違いがあるのです。

本記事では、AMとFMの違いを基礎から整理しつつ、近年注目されるワイドFMの登場によってラジオ放送がどのように変わろうとしているのかを、オーディオライターの炭山アキラさんが解説します。

FMとAMは、放送を伝達する方式が違う

皆さんは、ラジオを楽しまれているでしょうか。私は割と好きで、特に後述するワイドFMを含むFM放送を愛好しています。とはいいつつ、自宅は鉄道高架橋による難視聴地域なので、専らカーステレオで楽しむばかりですが。

ご存じの人も多いと思いますが、ラジオ放送にはAMとFMがあります。これは、一体何が違うのでしょうか。

一番違うのは、放送をラジオ受信機まで伝達する方式です。AMは「Amplitude Modulation」の略で、日本語では「振幅変調」といいます。放送局ごとに割り当てられた電波の周波数で信号を発し、その信号に強弱をつけて音声信号を流すのがAMの伝送方式です。

それに対してFMは「Frequency Modulation」の略で、日本語では「周波数変調」といいます。放送局ごとに割り当てられた電波の周波数で信号を発することは変わりませんが、割り当て周波数を基準として周波数を上下させることで信号を流すのが、FMの伝送方式です。

ニュースやトークが主体のAMに対し、FMは音楽放送がメインとなっている感があります。それには理由があります。電波の強さを変化させることで放送するAMは、音楽の鋭いピークなどを電波へ乗せても、少し受信状況が悪化すると再現できなくなってしまうことが多いのに対し、FMは少しくらい電波の強さが変わっても、周波数の変化を読み取ることができれば音質は悪化しません。本質的に、FMの方が高音質を伝えやすい方式なのですね。

周波数帯が違う

また、AMとFMは放送する周波数帯も大きく違います。放送電波は、周波数が高くなるほど密度の高い情報を送信しやすくなりますが、AMはFMに比べてグッと低い周波数を用いており、それも音質に少なからず影響しています。

AMは放送帯域526.5~1606.5kHzを用います。一方、FMは放送開始当初76.0~89.9MHzが割り当てられていました。国際的には47~108MHzが用いられますが、前述の通りあまり低い周波数では伝送品質に問題が出やすく、また90~108MHzは当時の日本ではテレビの1~3チャンネルに割り当てられていたために、決定された周波数帯です。

その後、東日本大震災の影響で延期された地方もありますが、2011年に地上波デジタルテレビ放送の普及に伴って従来のアナログ放送が廃止されたことにより、90~94.9MHzが「ワイドFM」として割り当てられ、AM放送局のFMサイマル放送や、各地域のコミュニティFM(小出力で特定の地域のみに向けたFM放送)で利用されています。

AMの周波数帯は「中波」、FMの周波数帯は「超短波」と呼ばれます。それでは、「長波」や「短波」もあるのかというと、もちろんあります。放送電波は周波数が低いほど長い距離を伝達しやすいため、長波は船舶無線などに用いられています。短波は現在のところNHKの海外向け放送「ワールド・ラジオ日本」と民放のラジオNIKKEIの2局が知られています。

さらに、地デジやBS、CSなどのテレビ放送、そして携帯電話などに用いられる電波は「極超短波」といわれます。大体300MHz~3GHzくらいが割り当て周波数帯です。ごく微弱な電波ではありますが、BluetoothやWi-Fiも極超短波帯です。

音のチャンネル数が違う

現在のところAMはほとんどの局がモノラル、FMはステレオで送信されています。そもそもFMは、1つの周波数でどうやってステレオの情報を送っているのでしょう。実は、FM放送も基本となる放送電波はモノラルなのです。音声信号の伝達を15kHzまでとし、そこから遥か上の38kHzにパイロット信号と呼ばれるものを設定して、その信号を振幅変調(つまりAM)することで、「差信号」が再生できるようにしているのです。

差信号というのは何かというと、ステレオの左右信号の “違い” の部分です。LchからRchを引く、もう少し具体的にいうとLchにプラスマイナスを逆転させたRchを足し合わせた信号で、記号でいうとL-R信号ということになります。一方、モノラル信号はステレオのLchとRchをそのまま足し合わせたものと考えられますから、記号で表すとL+Rになります。これを「和信号」と呼びます。

その2つの信号で、どうやったらステレオの音声を作ることができるのか。和信号に差信号を足し合わせると(L+R)+(L-R)=2L、つまりLchの信号が出来上がります。また、和信号に差信号をプラスマイナス逆転させて足し合わせると(L+R)+(R-L)=2R、はい、Rchの信号が合成できました。

そしてFMの放送電波には、19kHzにもう一つのパイロット信号が入っており、これがあるとステレオ放送、なければモノラル放送と識別できるようになっています。

それでは、AMはなぜモノラルなのでしょうか。かつてはAMステレオ放送も広く行われていました。こちらはメインのモノラル信号(L+R)に、90度位相がずれた差信号(L-R)が同時に乗せられて伝送されます。ステレオ信号の合成は、FMと全く同じ原理です。

日本では一部の放送局を除き、1992~93年にAMステレオ放送が開始されました。プロ野球や音楽放送で臨場感が増したと一部で人気になったものの、NHKがステレオ化しなかったこと、音質がFMにかなわなかったこと、ステレオ対応AMラジオ受信機の普及が進まなかったことなどから、放送局の送信機材入れ替えの際にモノラルへ戻す局が続出し、今はごく少数の局がステレオ放送を細々と続けている、という状況のようですね。

その代わりといっては何ですが、多くのAMラジオ局がワイドFM放送を開始しており、そこでは大半の局がステレオ放送を実施しています。また、インターネット経由でラジオが聴けるradikoでも、ステレオで楽しめるAM放送が多いようです。

AM放送はコストがかかる?

AM放送は周波数帯の特性上、遠くまで電波を飛ばすことができます。それで、大出力の電波を出力するため送信機材にコストがかかり、また送信施設を建てる土地の面積も大きくなります。大規模災害など、緊急時の情報伝達手段という意味合いもあってそれだけの犠牲を敢えて引き受け、AMラジオ局は頑張ってきたのですが、ネット時代の本格化に伴い、ラジオの広告は年を追うにつれ減少しています。

それで、NHKとごく僅かな例外的民放局を除き、より小規模な設備で送信することができるワイドFM放送をメインとし、AMは停波するか緊急時の補完システムにしたい、と各局が表明しています。

その半面、これまでFMに非対応のラジオ受信機でAM放送を楽しんできたリスナーたちが「ラジオ離れ」を起こしてしまう恐れもあり、そう簡単にAMを諦めてよいものか、という声も挙がっています。

それではなぜFMは送信設備が小規模で済むかというと、超短波は直進性が強くて電離層でも反射せず、一定以上に出力を増強しても遠くへ飛ばすことができないからです。

ワイドFM放送は、電波が遠くまで届くからこそ起こるAMの、海外放送との混信をはじめとする電波障害による難聴取地域を解消するため、実用化されました。今、それがメインの送信手段になろうとしています。しかし、この問題はまだ紆余曲折があるだろう、と個人的には予想しています。

ワイドFMは伝統的なラジオ放送局を救う切り札となるのか、それとも却って聴取者離れを起こしてしまうのか。1人のラジオリスナーとしては、局にとってもリスナーにとっても最善の着地点を見つけてくれることを、心より祈るほかありません。

Words:Akira Sumiyama

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