人々の心や身体をリリースアウト=解き放つマインドフルネス。Always Listeningでは、以前こちらの記事でも紹介しているけれど、そのひとつに「サウンドバス」と呼ばれる、音を浴びて(音浴)、メディテーション(瞑想)を行い、心身をセラピー(癒し)していくというセッションがある。実際にセッションを受けてみるとわかるが、音に身を委ねることでストレスアウトできて、心身が浄化された気分になる。一体このセッションでは何が起きているのか……イギリスにてセッションを行う音楽アーティスト、ジョセフ・ヤナク氏に話を聞いてみた。

「サウンドバス (音浴)は、サウンドメディテーション、サウンドヒーリング、ダウンヒーリングとも言ったりする。音で瞑想状態へと導いて、心身をヒーリングしていくんだよ」。自らをサウンドメディテーションの世界へ導く「ファシリテイター(促進者)」と呼ぶジョセフは、英国音楽療法学士院(ブリティッシュ・アカデミー・オブ・サウンド・セラピー)にて音楽療法を学んだ音楽アーティストだ。「ジョセフは魔法を使うようにセッションを行い、音を通じてトランスポーテーションする。彼のセッションは、自然の音、楽器の伴奏、そして彼の天使のような歌声が美しくミックスされ、他にはない深みのある休息を与えてくれます」と、『Yoga: A Manual for Life』著者であるナオミ・アナンドがコメントするように心地よい音の旅へと我々を誘導してくれる。

JosephYannaku

ロンドンから約1時間ほどの郊外に住み、自然の近くで生活をしているジョセフ。もともとバンド活動をしていたところから、ソロで自身のアルバムを制作していたときにあることに気付いたそうだ。

「スタジオに入って曲を制作していると、自分のやっていることに集中するから時間の流れを感じないというか。それが自分にとって素晴らしい時間であることに気付いて、制作が進んでいくうちに、音に人々の心理をセラピーする効果があることに気付いたんだ。そこで制作していたアルバムをさらに信憑性の高いものにしたいと思い、英国音楽療法学士院へ通って音楽治療について学んだんだ。それでメディテーションに適応する音に、音楽アーティストとしての自分の部分も融合させたセッションを行うようになったんだ」。

ジョセフが制作したアルバムのタイトルは『Animism』。Animism=アニミズムとはいくつかの意味を持ち、ひとつはギリシャで「聖なるものは自然に宿る」という精霊・地霊信仰のことを意味し、Anima=アニマとは古代ギリシャの哲学者が使用していた「息・命・魂」という意味を中世ラテン語に訳したときにあてられた言葉なのだそうだ。また、「アニミズムは、この世の中を取り巻くフォース(力)を示すんだけど、そのフォースは音のバイブレーション(振動)によって伝わるものだと僕は考えているんだ」とジョセフは解釈する。

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「サウンドメディテーションで大切なのは、脳波を音に同調させること。僕はその入り口として、倍音を発する楽器で大きな音の波を作り、人々の意識を引き込むんだ。音に意識を向けることで呼吸が整い、だんだんと心拍数が落ち着いていき、心身がヒール(治癒)されはじめる。音を全身で浴びて、音そのものに集中することで意識がひとつにまとまっていく。さらに音が脳波を捉えることにより深いリラクゼーションへと導いてくれるんだ。これは実際に科学的に証明されていることなんだよ」。

サウンドバスを体験してみると、セッションがはじまりしばらくすると意識が音に集中していき、瞑想状態に入っていく。これは筆者の体験談だが、空間を浮遊する音が色になって脳の中を駆け巡り、音の波動で身体がくすぐったくなったり、知らぬ間に意識が遠のき、意識が戻ったときは心身のスイッチが再起動された気分になっていた。それを導いてくれたのが、セッションで使用されている楽器が放つ音の波だったのだ。

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ジョセフがセッションで使用している楽器はゴング(銅鑼)をはじめ、ヒマラヤンシンギングボウルや、クリスタルシンギングボウルなど。そこに自身の声を取り入れたりしてオリジナルのセッションを行っている。

ジョセフが使用している楽器は我々の身体にどんな影響を与えるのか、その性質について尋ねてみた。

▷音が波動で伝わってくるゴングの音で呼吸を整え、脳波を変える

「ゴングは、人間の脳波を変えることができる楽器として知られているんだ。詳しい理由に関してはまだ解明中だけど、きちんと訓練を受けたサウンドセラピストであればゴングをセッションに取り入れることができる。僕がゴングを用いてセッションを行うときは、意識をメディテーションの世界へ誘うために、セッションの最初の方で5~10分行うんだ。最初は心臓の鼓動のように小さな音で繊細なリズムを演奏して、じょじょに音を大きくして、大きな音の波を作る。意識を音に傾け、音の波動に心身を委ねることで呼吸が整い、脳波がα波へと変化しリラックス状態になっていく。
ゴングのもうひとつの効果は、人々が持つ “期待の概念”を利用してリラクゼーションへと誘導すること。ポップスの曲でじょじょに盛り上げて、サビの部分で解放するという仕組みがあるように、ゴングを演奏する際に時間をかけてエネルギーを高めていくことで、人々はその波に乗って気持ちよく解放できるんだ」

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▷気付きを与えるヒマラヤンシンギングボウル

「人間の耳というのは複雑な音や、複数の音が同時に鳴る倍音を好む傾向にあって、僕たちが鳥の鳴き声や水が流れる音を好むのは、それらが倍音だからなんだ。ゴングやヒマラヤンシンギングボウルは倍音の楽器なんだけど、それらの楽器には集中力を高めてくれる効果がある。チャイムと同じで、小さくてもその音に気付かせる効果があり、倍音の楽器の音を聴くことで意識を切り離し、メディテーションの時間に集中できるという効果があるんだ」

▷感情を呼び覚ますクリスタルシンギングボウル

「一方でクリスタルシンギングボウルは倍音がなく、C、B、Dなどの純正の音符を鳴らすことができる楽器で、セッションを行う人たちの多くがインターバルを利用してクリスタルシンギングボウルを使用している。インターバルとは音符と音符の間の距離のことで、その間にある程度の距離があると気持ちのいい和音が生まれるんだ。そのインターバルを利用して演奏すると、演奏の内容によって人々はさまざま感情を呼び起こすことができる。例えば音程の組み合わせ方によって、幸福感のあるコード、ダークなコード、ミステリアスなコードと僕たちはいろいろなタイプので演奏をすることができて、人々を本能的に各々の感情へ導くことができるんだ」。

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「よって僕たちは音を鳴らすことで、人々を解決への道や、ポジティブなマインドへ導くことができるということになる。瞑想をしているとメッセージを受け取ったり、何らかの疑問に対する回答を得られたり、アイデアを思いついたりすることがあるよね。クリスタルボウルを使うと似たような効果を得ることができるから、セッション最中に解決を導き出したり、答えを見つけたりすることができるんだよ」。

この話を聞いて、クリスタルボウルを使用したセッションが終わった後に、マタニティブルーで参加した女性が涙を流していたことを思い出した。その女性曰く、音を聴いていたらさまざまな感情が湧き起こり、また音に反応したお腹の中の赤ちゃんが活発に動きだしたそうだ。そのときに赤ちゃんとひとつの身体で繋がっていることに強い安堵感を感じ、涙が溢れてきたと話していた。


「瞑想をすると自身の感情と葛藤する人が多いけど、音を聴くことで質の良い瞑想へ誘導してくれるんだ。音のおかげで、気持ちを集中することができるようになり、過去や未来のことを考える必要がなくなる。そしてその状態が続くことにより、人々は癒されていくんだ。治癒力があるのはメッセージ性の高いメロディがある音楽よりも、アブストラクトな音なんだよ。ちなみにその音は普段の生活の中でも何気なく耳にしていることもある」。

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ところでジョセフ自身は、生活の中でどんな音に癒されているのだろうか。

「僕のベストなセラピー時間は、自然の中にいるとき。自宅の近くにある山へ行って、鳥のさえずりや風の音なんかを聴いていると心身が解放されていくことに気付く。自然界の音を聴いて安心したり、逆に危険を感じたりすることがあると思うけど、それは僕たち人間も自然界に属する生き物であるから感じることで、その音を聴くことにより心身がチューニングされていくんだよ。心臓の鼓動は地球と繋がっているし、自然界から発せられる普段は聴こえないような周波数の音を人間はバイブレーションで感じることができる。そのバイブレーションを受けいれたとき、ハーモニーが生まれサードアイが開くんだよ。ストレスが溜まりはじめたら一番の癒しはできる限り自然の中へ行くことだね」

自然界が発するバイブレーションを感じることができたら、それが一番のサウンドセラピー。だが環境によりそれができなかったり、時間を決めて集中してメディテーションを行いたい人々にとってはサウンドメディテーションのセッションを受けることは有効。その際にできる限り演奏する楽器の生音を、イコール楽器が放つ音の波やバイブレーションを全身で浴びてセッションを受ける方がより良いとのことだ。

最後に、ジョセフが今後やっていきたいことを尋ねてみた。

「瞑想状態へトランスしていけるような音楽ライブを行えるようになりたいと思っているんだ。そのライブを通じて人々が癒され、チューニングされていくといいなと思っている。人間は本能的に音を理解できる生き物だから、音が人間の身体に影響を及ぼすことも知っている。太古の人間は、物体をぶつけ合い音を鳴らして、その音から平和を感じたり、喜びを感じたりしていた。ランダムでアブストラクトな音から何かを感じ取りたいという欲望があったからこそ、それが進化して音楽が誕生し、人間は楽器を演奏するようになったんだ。僕は、サウンドバスやサウンドメディテーションのことを “サウンドジャーニー(音の旅)”と呼ぶのが好きなんなんだけど、これからも自分のパフォーマンスを通じて楽しんでもらえたらいいね」。

これからの時代をグッドバイブスで過ごしていけるよう、心身を深い部分で癒しチューニングしてくれる音浴=サウンドバスは、これからの私たちの生活を良い方向へ導いてくれるかもしれない。

プロフィール

Joseph Yanaku_ジョセフ・ヤナク

JosephYannaku

音楽アーティストであり、サウンドメディテーションをガイドするファシリテイター。ハンド活動を経てソロで音楽制作を開始する傍ら、英国音楽療法学士院(ブリティッシュ・アカデミー・オブ・サウンド・セラピー)にて音楽療法を学ぶ。楽器を使用したサウンドセラピー、メディテーションのファシリテイターとしてロンドンを拠点にセッションを開催。

HP

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Words:Kana Yoshioka
Special Thanks:Hashim Bharoocha