老舗ジャズ喫茶『いーぐる』の創業は1967年、四谷駅から徒歩一分ほどのビルの地下にある。創業者でありジャズ評論家でもある後藤雅洋さんにお話を聞いてきた。

後藤さんの青少年期は洋楽ブームにあり、アメリカンポップスやR&B、ディスコなどを聞いて育った。
二十歳の頃、父親がバーを営業していた影響でジャズ喫茶いーぐるを開店することに。当時はまだジャズの知識には乏しく、さらに大学在学中だったが「若者の初期衝動的な感覚で、他とは違う少し背伸びした事がやりたいという思いがあった」と語る。
幸いにもジャズに造詣の深い大学の友人がいたので買うべきジャズレコードのリストを作ってもらい、まずはそれを集めた。また、彼の家で初めて触れたオリンパスの音に感銘を受け、それ以来いーぐるではJBL製のスピーカー一筋だ。

店内のスピーカー

現在の音響システムはスピーカーにJBL 4344 MKII、プリアンプにAccuphase C-280V、パワーアンプにMark Levinson 23.5L、ターンテーブルにYAMAHA GT-2000というセットアップ。中域が充実しておりドラムなどの打撃音やリズム感がよく伝わり、ジャズには最適とのこと。指向性と豊かな音場感は、後藤さんの理想とする音に近い。

選曲については四千枚のレコードと七千枚のCDから組まれた二時間ほどのセットリストがあり、それを毎日の営業で流している。お客さんに飽きられないような流れを考えて構成されている。セットリストを作り始めたのはUSEN音楽放送の番組制作依頼がきっかけだった。月四本の二時間番組を頼まれ、それが二十年以上も続いている。現在セットリストは954パターンあるそうで、今でもUSEN音楽放送で流れている。

店内全体

木が基調の店内はタイムレスな美しさがあり、平行面を作らない空間にすることでレコーディングスタジオのように定在波が出にくく、音響的な拡散性を高める設計がなされている。

こだわりの音響で静かにジャズを楽しんでもらいたいという後藤さんの姿勢から、店内は午後六時までは会話禁止。それ以降の時間は、気軽にお酒を飲みながら音楽との時間を楽しめる。自家製のチーズケーキセットの他パスタなどの軽食メニューも魅力的だ。最近ではコロナの影響でリモートワークをする人が増えた為、会話禁止の空間でジャズを聴きながら仕事に集中する人も多いようだ。基本どれだけ長居しても構わないとのこと。また、若い女性の一人客も増えてきている。
老舗店だけありジャズの世界にどっぷりと浸かれる、そんなお店だ。

店内のポスター
店舗入口の階段

いーぐる

〒160-0004
東京都新宿区四谷1-8-6 ホリナカビル B1F

Photos & Words by Masahiro Takai