JR稲毛駅西口から徒歩数分ほどの場所に『JAZZ SPOT CANDY』はある。
閑静な住宅街の一角に現れるJBLのスピーカーをモチーフにしたオブジェ。その横に構える木製の玄関扉をくぐるとまたすぐに扉があり、防音対策に抜かりのないお店だということが伺えた。店内に足を踏み入れると、分厚いコンクリートの壁に大きなスピーカー、特徴的な音響チューニング材、グランドピアノが視界に飛び込んでくる。そして壁一面にはジャズミュージシャンのポートレートやライブのフライヤー、お店の歴史を感じさせる様々な記念写真、ジャズと関係の深い猫のオブジェが所々に置かれ、カウンター奥の棚にはレコードがぎっしりと詰まっている。

JAZZ SPOT CANDY入口のドア
レコードが並んだ棚

満面の笑顔で迎えてくれたのはオーナーの林美葉子さん。十代の頃から新宿をはじめとした都内のジャズ喫茶に入り浸っていた。とにかくフリージャズが好きで、個々のミュージシャンの生き様が音に現れているところに夢中に。そして1976年、好きが高じて地元の稲毛で自らのお店をオープンした。当時24歳だった。店名の由来はリー・モーガンが生涯で唯一残したワンホーンアルバム「Candy(キャンディ)」から。約五坪の地下店舗で25年ほど経営した後、2002年に現在の場所に新築移転した。

オーナーの林美葉子さん
スピーカー
スピーカー

長年の経営の中で常に自分の求める音を突き詰めてきた林さん。音響セットアップはスピーカーにJBLのProject EVEREST DD66000、パワーアンプ はMark Levinson No536、プリアンプはMarkLevinson ML-7、ターンテーブルに EMT 930、そしてCDプレーヤーはSTUDER D730。その空間は設計からこだわってデザインされている。スピーカーを囲むように配置された日本音響エンジニアリングのチューニング材、アンクとシルヴァンが音のバランスを整え、大音量でも鮮明で歪みがない。まるで生演奏を目の前で聴いているかのような感覚に陥る。初めて訪れた人は体感したことのない音響に驚くだろう。通常営業時は林さんがお客さんに合わせて、所蔵するレコードとCDおよそ二万枚の中からその人にあった曲を選曲してくれる。

ライブハウスとしても営業をしており、コロナ禍以前は北欧など海外からのジャズミュージシャン達も多くライブに訪れていた。外国語はそこまで得意ではないという林さんだが、気さくでパワフル、そして温かい包容力を感じる人柄とジャズへの情熱でインターナショナルな関係性を築いている。やはり音楽に国境はない。現在も定期的にライブを開いているが、昼の営業も含め基本的には予約制となっている。

リー・モーガン

インタビューの中で、『美しくなくてはいけない』という言葉が印象的だった。「色々なジャズがあるが、美しさが基本にあるからこそ、例えそれを崩しても人に響く音を鳴らすことができる。」音楽だけではなく、色々なものに当てはまる素敵な一言だった。ジャズ好き、音楽好きな人は是非一度お店を訪れるといい。きっとあなたも林さんの温かい笑顔に迎えられ、そして至高の音に心を揺さぶられ、幸福な気持ちで帰路に着くことだろう。

JAZZ SPOT CANDY

〒263-0031
千葉県千葉市稲毛区稲毛東3-10-12
TEL : 043-246-7726

Photos & Words by Masahiro Takai