私たちの世界に存在するあらゆるものは、常に「ゆらぎ」の中にあります。 一見、規則正しく運動しているように見える月や太陽といった天体ですら、実は少しずつゆらぎながら軌道運動を続けているのです。もちろん、私たち人間や動物もその例外ではありません。
数あるゆらぎの中でも、人間に心地よさを与えてくれる特別なリズムが存在します。それが「1/f(エフぶんのいち)ゆらぎ」です。 なぜ、このゆらぎは私たちの心と体をリラックスさせてくれるのでしょうか? その理由を紐解いていきましょう。
そもそも「ゆらぎ」とは何なのか?
「ゆらぎ」とは、一言で言えば「予測できない空間的・時間的な変化」のことです。 音の分野では、ゆらぎ方は周波数(f)で表され、その性質によっていくつかのパターンに分類されます。代表的なゆらぎの音を、3つご紹介します。
まず1つ目は「予測不可能で、完全に不規則な変動をする音」、ホワイトノイズです。
2つ目はブラウンノイズ。「1/fの2乗ゆらぎ」とも呼ばれ、ある程度予測可能なランダムな変動をする音です。
そして、この2つの中間の性質を持っているのがピンクノイズ。ホワイトノイズとブラウンノイズの中間に位置する性質を持ち、「適度な規則性」と「予測できない不規則性」が調和している音です。
1/fゆらぎが発生する仕組み
1/fゆらぎがどのようにして発生するのかについては、現時点で完全に解明されていません。物理・生体・自然現象など、多様な場面で観測されるため、何らかの普遍的なバックグラウンドプロセスが関与している可能性が示唆されていますが、具体的な発生メカニズムは研究段階です。
1/fゆらぎと人間の生体リズム
我々の体で最もリズムのはっきりしているのは心臓の拍動である。健康な人が安静にしているときの心拍は非常に規則的である。ガリレオがイタリアのピサにある伽藍のランプが振れるのを見て、振り子の等時性(振り子の振れ幅が変わっても、周期は一定に保たれるという特質)を発見した時に、ストップウォッチの代わりに脈を用いたという話があるが、この話の真偽はともかくとして、生体の営みが水晶時計のように規則的であるはずがない。そこで心拍がどのようなゆらぎをしているかを調べるために、心拍の間隔をコンピュータに取り込んで解析をしてみた。心臓の筋肉が収縮する際にそこから電流が体の組織の中に流れ出す。
この電流が肋骨の間を通って、胸や背中の表面に数ミリボルトの電位を発生する。この電位を決められた位置で測って記録したものが心電図である。心臓には心房と心室があるが、心室筋は厚いので、心室筋から電流が流れだすときに最も大きな電位の山が心電図に現れる。この波形の部分をQRSといい、Rが大きなピークをなすので、Rから次のRまでの間隔を心拍の間隔としている。
このようにして電気的に心拍間隔を測ってみると、一拍ごとにわずかながら早くなったり遅くなったりしているのが分かる。興味があるのは、遅くなったり早くなったりするゆらぎの関係である。この研究は1980年ごろに行ったものであるが、その解析結果を見て、ショックを受けた。
何とこれが、「1 /fゆらぎ」だったのである。生体内の情報伝達は神経軸索を伝搬するパルスによるいわばパルス通信であるが、ニューロンの発射するパルス間隔も1/fゆらぎをしているし、脳波に現れるα波(約10ヘルツ)のピッチも1/fのゆらぎをしているし、その後の研究で、生体のリズムは基本的には「1/f」をしていることが分かってきた。
引用元:1/fゆらぎと快適性 (<小特集>快適性向上を求めて) /武者利光
人間および動物の多くの生体リズムにはゆらぎが含まれています。たとえば心拍や脳波などの間隔や周波数変動を分析した結果、それらが1/fゆらぎの性質を持つことが報告されています。
生体リズムのゆらぎは完全に一定ではなく、微細な変動を含んでおり、それがある種の「自然な動き」として認識されます。このようなゆらぎに外部の刺激(音・光・振動など)が一致し、リズム的に共鳴することで心地よさや快適性が生じる可能性が指摘されています。
1/fゆらぎと音楽の関係
たとえば可愛らしい小鳥のさえずりや、秋の訪れを知らせる虫の羽音など、日常的にわたしたちが「心地よい」と感じる音の多くには1/fゆらぎの性質が含まれることがあります。
音楽の音響信号自体は多くの周波数成分が重なった複雑な波形ですが、そのスペクトル解析により、音響の変動が1/fゆらぎの特徴を示すことが研究で示唆されています。
個の音楽作品にはもちろん個性がなければならないが、個性を支えている基盤としての共通性がなければ、ある種の音響振動が「音楽」であると認知されないのであろう。その共通な性質とは何かを見るためには音響振動数変動のスペクトルを調べるとよい。この場合には音響振動の波形を調べても興味ある結果は得られない。我々は波形を聴いているのではないようである。波形を一定振幅に切っても、何の音楽であるかは十分に判定できる。音楽の特徴は音響振動数のゆらぎにあるから、これを調べればよい。
実際に演奏された音楽の音響振動には特定の振動数というものはないので、定められた時間内に音圧波形がゼロになる回数を数えて、その間の平均的な振動数と考えることにする。そのようにして音響振動数ゆらぎのスペクトルを求めると、驚いたことにほとんどすべての曲は1/fゆらぎをしていることが分かる。引用元:1/fゆらぎと快適性 (<小特集>快適性向上を求めて) /武者利光
好みの違いはあれど、わたしたちが普段楽しんでいる音楽に共通した性質があるというのは、とても不思議なことです。中でも理想的な1/fゆらぎをしている曲は、ベートーベンの「『運命』交響曲第五番第一楽章」や宇多田ヒカルの「Prisoner Of Love」などが挙げられます。
1/fゆらぎを意識してみよう
1/fゆらぎは、特別な知識がなくても日常の中で体感できる現象です。川のせせらぎや風に揺れる木々の音は、完全な規則でも無秩序でもなく、ほどよい変動を含んでいます。そのバランスが、私たちに自然さや落ち着きを感じさせるのかもしれません。
音楽にも同様の揺れがあります。演奏のわずかなテンポや強弱の変化は、音に有機的な表情を与えます。次に音楽を聴くときは、その「揺れ」に耳を澄ませてみてください。聴こえ方が少し変わるかもしれません。

