完成された製品をそのままじっくり使うのも、造り手を敬う道。でも少し手を加えれば、それだけ少し自分だけのものになる。自分の意思を加えたものにこそ、愛着が湧くというもの。
レコードプレイヤーはそのむき出しの機構がカスタマイズ心を否が応でも誘います。レコードプレイヤー初心者が次に狙うのは自分なりの音世界。その開拓に役立つカスタムプラン3選を紹介しましょう。

「体感力」がハンパない、カートリッジ交換。

カートリッジ

ギザギザの溝にうまく針を走らせ、その振動を電気信号に変える。これがカートリッジの役割です。
音源をピックアップする最初のパーツだからこそ、カートリッジによって音色が大きく変化します。
柔らかく温かい音。輪郭のはっきりしたシャープな音。雄大で広がりのある音。生々しいライブ感たっぷりの音…。
カートリッジは音世界の方向性を決定づけるメインパーツなのです。

カートリッジの個性を見極め、これだ、と選択したつもりでも、音楽ジャンルやレコード盤の状態、アンプやスピーカーとの相性の掛け算で、時には予想を超えた音世界を繰り広げることもあります。
音の入り口であるだけに、果てしない影響力を秘めているのがカートリッジ。
後述する「ヘッドシェル」とセットにしておけば、ほんの一手間で音世界を激変させることができます。

ヘッドシェル

カートリッジ交換にあたってまず知っておくべきなのは、MM(VM)型とMC型という2つの発電システムに大別されるということ。

カンチレバーの根本にあるマグネットが動いて発電するのがMM(VM)型(Moving Magnet)。針交換が容易で扱いやすく、出力も大きいのが特徴。レコードプレイヤー付属のカートリッジの多くはMM型です。

一方、カンチレバーの根本にコイルがあるMC型(Moving Coil)は、構造上、全ての工程がハンドメイドで生産され、情報量が多く、伸びのある繊細な音に定評があります。ただ、出力が小さいため、昇圧トランスやヘッドアンプなどが必要となり、針交換も本体ごと交換しなければならないなど、MM型とは異なる手間がかかります。

オーディオテクニカ独自のVM型はMM型の一種。レコードの原盤に溝を刻むカッティングマシンのカッターヘッドがV型配置であることに着目し、マグネットを同様に左右V型に配置したのです。この理想的な形状により、高セパレーション、広帯域再生、優れたトラッキング性能を可能としたアイデアは発売以降50年以上に渡って支持を受け続けています。

カートリッジのタイプ別特徴については以下の記事も御覧ください。
「振動と音楽の間で奮闘するカートリッジ。タイプ別の魅力を解説。」

VM510CB

VM型(デュアルムービングマグネット)ステレオカートリッジ

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セッティングに左右されにくく安定したトレーシング性能を持つ接合丸針を採用。

コスパ最強のヘッドシェル交換。音もビジュアルも。

ヘッドシェル

「ヘッドシェル」はカートリッジを取り付ける土台。トーンアームとネジリングで簡単に脱着可能なユニバーサルトーンアームなら、レコード盤をかけ換えるような気軽さで、カートリッジを交換することができます。

ヘッドシェルもれっきとしたオーディオパーツ。音が生むカートリッジにぴったり寄り添うヘッドシェルは、自らの振動特性をもってカートリッジ本体の音色に影響を与えます。

カートリッジの個性との相性を探る中で、あなた自身も知らなかったカートリッジの別の顔を発見することになるでしょう。
朗々と歌うカートリッジに、部屋のすべてのレコードをもう一度体験させてみたい気持ちになれば、カスタムの成功です。

また、ヘッドシェルはその名の通り、レコードプレイヤーの中で、音を拾う最先端部として、スポットライトを浴びる存在。レコードをかけるたびに目に入るパーツだからこそ、ビジュアル面も無視できません。

AT-HS6

ヘッドシェル

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使いやすさとデザイン性を兼ね備えた軽量アルミダイキャスト製ヘッドシェル。
シックなブラックと精悍なシルバーの2色を用意。

あえて外部の個性をもらう。外付けフォノイコライザー。

フォノイコライザー

レコードに記録されている音溝には、原音を加工して、低音を減衰・高音を強調する調整が施されています。

原音をそのまま記録すると、音エネルギーの大きな低音域は溝の幅を大きくします。そのため、溝と溝の間を広げておかなければなりません。そうすると、1枚のレコード盤の録音時間が短くなってしまいます。
一方、周波数が高い高音域は溝の凹凸が繊細。これを正確に拾うには困難が伴います。高音部を強調しておけば、凹凸も大きくなり、情報を取り出しやすくなります。

録音時には低音を下げ、高音域を上げる処理を行い、再生時にはまったく逆の処理を行って、正常な音を復元できるようになっています。
再生時のこの処理を行うのが「フォノイコライザー」です。

フォノイコライザーがレコードプレイヤーに内蔵される機種がある一方で、アンプ側に内蔵されているモデルは少なくなっています。

周波数を変化させるこのフォノイコライザーはノイズ対策が必須。音の透明感や色付けに重要な影響を及ぼす回路でもあります。
単体のフォノイコライザーユニットは、高音質のための様々な対策が講じられています。レコードプレイヤーとアンプとの間に単体のフォノイコライザーを配置することによって、見通しがよく透明感たっぷりの音が出現します。

AT-PEQ30

フォノイコライザー

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MM/MCカートリッジに対応する高音質フォノイコライザー。

見えるメカがカスタム欲を誘う。

オートバイの人気ジャンル「ネイキッド」は、レースマシンのように本体を覆うカウリングを廃して、敢えてエンジンを見せるスタイル。
そのむき出しのメカニズムがユーザーのカスタム欲求を刺激して、手を入れていない姿を見るのが難しいほど。

レコードプレイヤーも、意図せずとも美しいメカ造りが目を引くマシン。ターンテーブル、トーンアーム機構、カートリッジ、スタイラス(針)。それにライティングデコレーション。

レコードプレイヤーは、CDプレイヤーやスピーカーなどに比べ、交換パーツやアクセサリーの多さでは抜きん出た存在。
初心者が次に見る世界をすぐそこに用意してくれているのが、レコードプレイヤーなのです。

Words: Kikuchiyo KG