2025年11月2日・3日に築地本願寺で開催された『Analog Market』で、 ”旋回” をキーワードに、音楽という表現を通じて再開発を控えた築地の街・文化・人々を結びつける場を生み出すためのプログラム『TSUKIJI RADIO』が行われた。かつての築地市場の象徴、魚介類や青果などの荷物を運ぶ小型トラック「ターレ」が新たに音楽を届けるDJブースとして再生され、会場に新鮮な風景をもたらした。

プログラムの詳細や、ターレの制作過程についてはこちら

ターレが設置されたのは本堂の正面、境内の中心。左右にはマーケットエリアが広がり、来場者はターレから流れてくる音に耳を傾けながら、レコードショッピングやフードを楽しんでいるようだった。音楽に惹かれて足を止める人も多く、ターレの周囲には常にオーディエンスの姿があった。

ミキサーにはオーディオテクニカのDJミキサー『AT-MX200』が搭載された(現在は生産完了)

ターレに乗り込み音を届けたのは、築地に縁のあるDJたち、そして1999年にロサンゼルスで発足した非営利インターネットラジオ局dublabの日本ブランチ〈dublab.jp〉がキュレーションしたアーティストたちだ。

パフォーマンスを披露したDJたちから代表して、N.A.D.P、TSUKIJI COLLECTIVE: ISOZAKI(ISOYA Rec.)、Shöka+Reo Anzai+Taikimen、eejebee(イージェービー)に話を伺った。各アーティストのプロフィールとともに、プレイ直後のリアルな声を紹介する。

慣れないシステムでもすぐに吸収、クラウドを盛り上げる

東ロンドン・ハックニーで親子3人で結成されたサウンドシステム・N.A.D.P(Nice And Decent People)。2015年に “Strictly Vinyl Only(アナログ盤オンリー)” のレゲエセレクターとして活動を開始した。まだ小学生ながらも、兄弟セレクター・Lightning IssayとLoudy Danの選曲とプレイスタイルは大人顔負け。今後の活躍に大きな注目が集まっている。当日は父親のDada He-Ro とともにターレDJブースに乗り込んだ。

ターレDJブースの使い心地はどうでしたか?

Issay(Lightning Issay):最初は針が(家で普段使っているものと違って)ちょっと怖かったので、難しかったです。でも、練習したらすぐに慣れました。Eiseiはどうだった?

Eisei(Loudy Dan):初めてやったときは、(ミキサーのチャンネルが)5個くらいあって、やり方がわかんなかった!

Hiroto(Dada He-Ro):いつも家で使ってるのは2チャンネルだからね。でもすぐに慣れたよね。

Eisei:うん!

乗り心地はどうでしたか?

Issay:乗りやすかったです!

Eisei:乗りやすかった!

Hiroto:音もよく聞こえるし、すごく良かったよね。

今日は何を意識してプレイしましたか?

Issay:クラウドを盛り上げることです!

Eisei:みんなを盛り上げること!

今回の企画とコンセプトを聞いた時、どう思いましたか?

Hiroto:最初はそもそも、2人ともターレを知らなかったんだよね。でも、送ってもらった写真を見て「すごいね!」ってなったね。

今日は楽しめましたか?

Issay:楽しめました!

Hiroto:Eiseiはどうだった?

Eisei:楽しめた!

ブラジルのリズムを軸に、ターレで鳴らす祝祭のサウンド

2,500人以上の人々が参加する築地の美酒美食を堪能出来る回遊型イベント「築地はしご酒」「築地JAM」「銀座GL」など地元で話題のイベントで活躍するDJたちが、今回のAnalog Marketでは〈TSUKIJI COLLECTIVE〉として登場した。

11月2日の夕暮れどきにプレイしたのはISOZAKI。DJとして活動する一方、レコードマーケットを中心に出店するレコード屋〈ISOYA Rec.〉の店主という一面も持つ。

ターレDJブースの使い心地はどうでしたか?

ISOZAKI:思った以上に、中の空間は広かったですね。後ろが空いててカウンターバーみたいになってるから、仲間のDJやオーディエンスたちとコミュニケーションが取りやすくて良かったです。

何を意識してプレイされましたか?

ISOZAKI:最初にこのターレの映像を見たとき、ブラジル北東部のバイーアという地域の「トリオ・エレトリコ(Trio elétrico)」っていうカーニバルを思い出したんです。トラックの荷台にサウンドシステムを積んで爆音で音楽を鳴らす、昔から続くカーニバルなんですけど、それみたいだなって思ってたんですよ。だから今日はバイーアの音楽を意識して、ブラジル音楽を中心にセレクトしてみました。

今回の企画とコンセプトを聞いた時、どう思いましたか?

ISOZAKI:レコードと築地、いい融合ができているなと思いました。次回はぜひレコード出店でも参加したいですね。

旋回する音、共鳴するセッション

11月3日はDJだけではなく、ライブパフォーマンスも披露された。演奏をしたのは、東京を拠点に活動するシンガーソングライター/音楽家で、梅井美咲とのユニット・haruyoiとしても活動するShöka、ポストダブステップという音楽を背景に、ダンスフロアとベッドルームの反復から生まれる表象研究と作品制作を行うReo Anzai、そしてレコーディングやライブ活動の他、アートコレクティブへの参加、個展開催などの活動を行うTaikimen。

クラリネット、バイオリン、シンセサイザー、音として発せられるShökaの声など、さまざまなサウンドが即興で交わり生まれる環境音楽に、聴衆は惹きつけられていた。

左からShöka、Reo Anzai、Taikimen
左からShöka、Reo Anzai、Taikimen

今日のパフォーマンスについて教えてください。

Reo Anzai:ターレとターンテーブル、どちらも回るっていうのがテーマにはあるので、ある種のループするような、テーマのあるフレージングがアナログ的に、有機的に変化していくような楽曲の構築をインプロ(即興)でやりました。

Shöka:個人的にはアンビエントミュージックに興味があるんですけど、どうしても音色使いが平坦になってしまいがちというか、「アンビエントミュージックといえばこう!」みたいなイメージが定まりすぎているように感じていて。私はもともと身体的に表現する音楽が好きなので、自分なりのアンビエント的な要素とフィジカルで表現する音楽の融合というか、そういうものが合わさったパフォーマンスができればと思って、今日はお二人をお誘いしました。

この空の下で聴く、っていうのがまた気持ちよかったです。

Reo Anzai:僕たちも気持ちよかったですね。雨が降るって聞いてたけど、快晴で。

ターレDJブースの印象を聞かせてください。

Taikimen:展開可能なコンセプトっていうのが良いですよね。DJってオルガンみたいな印象というか、 ”そこに居なきゃいけない” 存在だと思うんですけど、でもこれなら、どこにでも出せるってことじゃないですか。出来上がりそのものも、かっこいいなって思いました。

Reo Anzai:ヨーロッパとかだと「タクティカル・アーバニズム(Tactical urbanism)」といって、道路の駐車場にお金を入れてただ車を駐めるんじゃなくて、そこで勝手にフリマやパフォーマンスをやるっていう運動があるんですけど、そこに応用できそうだなって思いました。ポータブルにどこでもDJが聴ける環境にできるのかなって。

今回の企画とコンセプトを聞いた時、どう思いましたか?

Reo Anzai:最初、築地といえばってことで僕は勝手に市場の方だと思ってたんですけど(笑)、いい建築の前で、良い空間が合わさった中で演奏できましたし、このメンバーでやるのも初めてだったので、とても楽しかったです。

Taikimen:ここに来る人は何があるのかよくわからない状態だったと思うんですけど、きっとそれを楽しみにして来ただろうし、僕らも何をやるのか定かではない状態だったけど、ターレの周りにはお客さんが集まってくれて。そういう「なんだかよくわからないものが、めちゃくちゃ集まってる」っていうイベントにしようとしていることそのものがとてもいい試みだなと思っていて、そういう意味では自分自身もすごく楽しめましたね。

Shöka:「音楽のすごく深い何か」を追求しているイベントって、特に若い人には年々見向きもされなくなってきているなって個人的には思っていたんですけど、リスニングイベントがあって、横にはレコードマーケットがあるっていうのはとても良い入口になる気がして。ターレは最初(デザイン図では)近未来的だったけど、実際は無骨でかっこよくて、良い企画だなと思いました。

ジャンルを超えて、みんなで楽しむグルーヴ

最終日、最後にターレに乗り込んだのは、英国系ジャマイカ人のヴィジョナリー・eejebeeだった。アーティスト、セレクター、ドラマー、そしてキュレーターとして世界的に活躍しており、多様なアーティストたちとのコラボレーションやツアー、東京とエチオピアでの没入型アート展示、アフリカ全土でのユース支援など、その活動は多岐にわたる。

ターレDJブースでプレイをした感想を教えてください。

eejebee:本当に楽しめました。ここには良いコミュニティがありますね。みんなフレンドリーで、踊っていて、子どももいれば年配の方もいて。DJブースも素敵で、座ってDJをするのにとても居心地が良かったです。

何を意識してプレイされましたか?

eejebee:エクレクティックサウンド*ですね。みんなが楽しめるように、あらゆるジャンルをミックスしました。

今回の企画とコンセプトを聞いた時、どう思いましたか?

eejebee:本当に素晴らしいと思いました。もともとオーディオテクニカの大ファンだったので、参加できたことは光栄です。「ディープリスニング」と「アナログ」は、私にとってとても大切なものです。すべてを楽しませてもらいました。

*エクレクティックサウンド:異なる音楽ジャンルや要素を自由に取り入れて、ユニークなスタイルのサウンドを作り出すこと。広く深い音楽知識とミックスの技術が求められる。

最後に、ここには書ききれない会場の空気を、写真から受け取ってもらえれば幸いである。

Photos:Kiara Iizuka
Words & Edit:May Mochizuki

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