「彼らのことを話そう。
彼らはARTESという太陽系外の惑星で生活していた。
ARTESは重力の非常に強い惑星で、人間が聞き取れないくらい低い音が潮の満ち引きのように鳴り続けている星でね。
LEAKはその帯域と共振する金属で出来たヒレのようなものを体内に持ってる。
低周波の振動をエネルギーとして取り出し生きているらしいんだ。 」

昨年、世界中の古物を改造したスピーカー “OBJECT” の制作でも話題となった、SAMPO Inc.の村上大陸(りく)さん。 今回、宇宙生命体のようなスピーカー “SOUND ALIEN LEAK” の展覧会が開催された。 丸い球体に2本の足が生えたLEAK。 冒頭のテキストは、SNSに投稿された本展覧会のステートメントの一部であり、LEAKという “生物” について説明したものだ。

「スピーカーというと、ボックス型のモノというイメージが強いですが、僕は “Speakする者” 、つまりそれ自体が命や人格を持っているようなイメージを抱いて。 LEAKは “漏れる” という意味の言葉なので、音以外の何かが伝わるようなメディアにしたいとも考えています」

大陸さんがLEAKの制作を始めたのは、2年前。 ちょうど第一子誕生のタイミングと制作開始の時期が重なったこともあり、生命の誕生や生物の有りようを考えることが多かった。 そんななか作られた初号機は、八王子のリサイクルショップで放置されていたガーデニング用のブリキのカエルの置物が元になっているという。

「外に放置されすぎてカエルの頭と手が朽ちたんでしょうね。 胴体と足だけが残っていて。 見つけた時から、サビの感じなどが古いロケットみたいだなとか、宇宙っぽさを感じていました。 しかも球体に足だけ生えている不思議なビジュアルに惹かれ、僕たちが知覚しているのとは違った生物として、スピーカーを作れないかなと思ったんです」

僕たちが知覚しているのとは違った生物として、スピーカーを作れないかなと思った

ブリキの質感も手伝って、音質としてはコミカルな小気味いい音を想像していたと同時に、足がついていることで「歩く音」というイメージもあったという。

「Moondogというアメリカ人の盲目のアーティストがいたのですが、彼はNYの路上で生活しながらゴミを集めて楽器を自作していたんです。 彼の音楽を聴いた時に、子どもが知らない森に入っていく時のような、高揚感と恐怖感が同居している感覚が僕のなかに入ってきて。 “歩く” って単に前向きな意味だけでなく、未知に踏み込んでいくことでもある。 ポジティブもネガティブも包含したリアルな感覚としての “歩く” という感触をLEAKで出したいと思っています」

“歩く” って単に前向きな意味だけでなく、未知に踏み込んでいくことでもある
ポジティブもネガティブも包含したリアルな感覚としての “歩く” という感触をLEAKで出したい

生物ならではの肉体的な音像、心地いい会話のような小気味良さ、生命体としての鳴りがLEAKからは感じられる。 モノではなくひとつの命としてLEAKと向き合い、大陸さんたちはアップデートを重ね、30体ほどの実機を作ってきた。 展覧会にはLEAKの “原動力” となるジオラマの展示も。 山で採取した植物、海岸の石、作業で使用した銅線……通常であれば取るに足らないマテリアルが集結し、いくつもの小宇宙を作り出している。

生物ならではの肉体的な音像、心地いい会話のような小気味良さ、生命体としての鳴り
モノではなくひとつの命としてLEAKと向き合う

「まだLEAKは歩いていないのですが、今後、実際に歩かせたいと思っていて。 その時にLEAKの原動力を表現したいと思い、スピーカーの基盤をジオラマにしているんです。 SAMPOという建築会社をやっていることもあり、いろんな空間、情景、夢のなかの景色まで、いろんな場を手作りして、スピーカーに埋め込んでいます。 LEAK自体が、いろんな景色を吸収して動くイメージです。 直感的に感じられるモノや空間のリアリティ、さきほどお話しした高揚感と恐怖感の話とも通じるのですが、覗き込んだらダイレクトにわかる世界を作っています」

高揚と恐怖。 その感覚も、言葉にしたら平易だが、体感でしか得られない純然たる生物の感覚を再現しようという熱量が、LEAKの制作には通底している。 「音質とは別でジオラマを考えている」という大陸さんだが、これだけの違いがあると、結果的に音にも変化が出てくるという。

「たとえばLEAKにゴム底のスニーカーを履かせると、振動が緩和され球体がきれいに響いてくれるんです。 だから、音質的にはクラブミュージックではなく、もう少し生活っぽい音が合うかなと思います。 多くのスピーカーが高音質であることを売りにしている一方で、音楽は逆にローファイな手法を取るなど自由。 それをスピーカー自体で表現できたらおもしろいと思っています」

まだLEAKは歩いていないのですが、今後、実際に歩かせたいと思っていて。 その時にLEAKの原動力を表現したいと思い、スピーカーの基盤をジオラマにしている
LEAKにゴム底のスニーカーを履かせると、振動が緩和され球体がきれいに響いてくれる

展覧会には伝統工芸の職人や企業とコラボレーションしたモデルも。 「LEAK=漏れる」という由来のとおり、LEAKをとおして、音以外の風土、文化、人の熱気、技術、多くのものが流れ出てくるようなものになっている。

淡路の鬼瓦職人には、瓦を球体にして焼いてもらった。 これまでも陶器などをスピーカーに変えてきたが、厚みが3cmもあるLEAKの瓦は、意外と柔らかく、ソフトな質感で音が響く。

展覧会には伝統工芸の職人や企業とコラボレーションしたモデルも

さらに、神代杉を扱う新潟の材木店・新発田屋とは、虫や鳥などにつけられた木の傷から雨水が染み込み、内部にカビや細菌が入り込んで繁殖したことでできる「スポルテッド」という模様を生かしたモデルを制作。 越前和紙職人には、LEAKがカエルの置物から始まっていることから、両生類のイメージを伝え、高濃度の紙の原料を絞り出し、鱗やヒレのような模様を表現した。

神代杉を扱う新潟の材木店・新発田屋とは、虫や鳥などにつけられた木の傷から雨水が染み込み、内部にカビや細菌が入り込んで繁殖したことでできる「スポルテッド」という模様を生かしたモデルを制作

伝統工芸だけでなく、他のクリエイティブチームが改造したLEAKの展示も。 WOOD VILLAGE CYCLESが制作したものには、サイクルショップらしく自転車のホイールなどが使われているほか、卵の白身と黄身をわけるキッチン器具なども部品となっている。 映像チームMargtが制作したものには、DVDデッキが埋め込まれており、映像が映し出される仕様。 アメリカのダイエット器具や乗馬の鞍についている金具、自動車のクラッチなどが使用されている。 大陸さん曰く「ちょっととぼけている感じ」のLEAKのキャラクター性が存分に生かされたユニークな作品たちだ。

WOOD VILLAGE CYCLESが制作したものには、サイクルショップらしく自転車のホイールなどが使われているほか、卵の白身と黄身をわけるキッチン器具なども部品となっている
「ちょっととぼけている感じ」のLEAKのキャラクター性が存分に生かされたユニークな作品

私たちは、自分の、他人のフィルターをとおして、世界を捉え、語る。 それと同様に、一体一体個性のあるLEAKという存在をとおして音を聴くことで、一種の新しいコミュニケーションが芽生えているようにも感じられる。

「音自体に好みがあったり、愛着があるスピーカーがあったりすると思うんですけど、LEAKは本当に生き物のようなもの。 音楽を聴く時に信頼している相棒から音を出す、という感じです。 音楽って楽しむものだから、スピーカー自体の受け皿も広くして、楽しめるようにできたらと思っています」

展覧会は終了したが、SAMPOのオンラインストアでもLEAKを手に取ることができる。 気になった方はぜひお気に入りのLEAKを探しに訪れてみてほしい。

SAMPO Inc.

Life Based Architectural Collective

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Words: Aiko Iijima(sou)
Edit: Kunihiro Miki
Photo: Keisuke Tanigawa