「レコードは音質がいい」「レコードの音には温かみがある」とはよく耳にしますが、いまの令和の時代において発売されたレコード、その音質はいかに?ここではクラシックからジャズ、フュージョン、ロックやJ-POPなど、ジャンルや年代を超えて日々さまざまな音楽と向き合うオーディオ評論家の小原由夫さんが最近手に入れたレコードの中から特に<音がいいにもほどがある!>と感じた一枚をご紹介いただきます。
「デッカ・ピュア・アナログ」シリーズ第1弾
いわゆる「DECCA名録音」の1つに数えられる作品の180g重量盤復刻、しかも45回転という好条件でのリリースとくれば、紹介しないわけにはいかない。しかも途中にデジタル変換プロセスを経ない正真正銘のアナログマスターテープ(1/4インチ・2トラック)からのアナログマスタリングによる復刻という点がなおさら見逃せないところ。サー・ゲオルグ・ショルティ(Sir Georg Solti)指揮、シカゴ交響楽団による『ストラヴィンスキー:バレエ《春の祭典》』だ。
本盤の収録日は1974年5月14日、当時のシカゴ交響楽団が根城としていたメディナ・テンプルにて、一回のセッションで完璧な演奏が収録された模様。録音エンジニアは、デッカ録音の基礎を築いたといわれるケネス・ウィルキンソン(Kenneth Wilkinson)とジェームス・ロック(James Lock)。今回同タイトルとしては初の45回転盤でのリリースで、ドイツ・プレスになる。マスタリングはドイツのEmil Berliner Studiosにて、ライナー・マイラード(Rainer Maillard)が当たり、カッテイングは同シドニー・C・メイヤー(Sidney C. Meyer)の手による。
装丁も豪華なゲートフォールド(見開きジャケット)仕様で、その内側にはオリジナルマスターテープの記録シートやセッション時のモノクロ写真があしらわれている。さらに本盤の内容を証明するかのようなエンジニアやプロデューサーのサインをプリントした製作ノートが同封され、ジャケット裏面下には3100枚限定プレスの何枚目かを示すシリアルナンバーが手書きで記されている。
A面の第1部は、個々の楽器の響きの鮮度、細部のニュアンスとリアリティが凄まじい。音の粒立ちが素晴らしいのである。これが今回の「デッカ・ピュア・アナログ」マスタリングの真骨頂かと唸らされる。乱舞する管楽器のハーモニーと共に、合奏部のデモーニッシュな雰囲気に圧倒されてしまうのだ。
B面第2部のダークなムードは、第1部のような派手さはないものの、不気味な雰囲気が際立っている。特に後半の打楽器が描くリズムの咆哮は、踊り狂う生贄の狂気性とバイオレンスが巧みに表現されている。ショルティのタクト捌きの凄味は、むしろこの第2部に色濃く現われているとはいえまいか。
近年、特にデジタル録音が主流になって以降、 “ハルサイ” の新録タイトルは数多くリリースされてきたが、半世紀以上前の本作が未だに名録音盤の筆頭に数えられるのが再認識できる特別な復刻盤といえよう。
Words:Yoshio Obara