現在、秋田県仙北市の地域おこし協力隊として従事し、田沢湖近くで暮らすアーティストのstarRo(溝口真矢)氏による連載第四回。 あまねくストレスの種と考えられそうないくつかの普遍的なテーマをお題に、starRo氏の現在の暮らしやバックグラウンド、追憶を交えながら「ウェルネス」の本質を考える、担当編集者との往復書簡を展開する。 癒しと平穏をもたらしてくれるのは徹頭徹尾、(音などが作り出す場を含む)環境と実のあるリアルな言葉であるという仮説の元で。 第四回目のテーマは「生活リズム」。

Theme.04:生活リズム
リズムが乱れるのって、結構なストレスじゃない?

Question(要約):

東京に暮らしていると起こる電波干渉。 特にそれを感じるのが、いまや人によっては必需品となっているBluetoothイヤフォンで、普段は便利なものが、人が密集している場所だと音楽が途切れたり、ノイズが走ったりする。 筆者が最近気づいたのは、そういったリズムの乱れが結構なストレスになっているということ。 その乱れに惑わされることなく、心地いいリズムを保つためにはどうすればいいのか。

Answer from starRo:

Part.01からの続き〜

「「自分のグルーヴ」が自然に保てるような生き方がやっぱり理想」

今回いただいた問いは、現代社会の中で、文化的なものが生み出すリズムの乱れによってもたらされる精神的不安定感とどう付き合うかということだと思いますが、前回のテーマだった「欲」について書いた時の内容とも重なると思うんですよね。 前回、欲に囚われないために、欲求を充すための依存先をたくさんもつこと、そしてその状態は無限に存在する可能性にできるだけオープンになることでより実現しやすくなるということを書いたと思います。

この世界は各々がユニークな波動をもつ存在の集合体なので、本当は世界に飛び交う様々なラジオ波のように色々なリズムをもった要素が常に無数に周囲に存在していますよね。 そして、その中のごく一部のリズムを、波長が合うとか、なんか好きとか、なんか気になる、違和感があるとかいうふうに認識したりしているわけです。

これだけ無数に存在するリズムの中でそんなふうに自分が認知することになったリズムは、ものすごい低い確率をくぐり抜けて自分にたどり着いた選りすぐりのリズムです。 それを「引き寄せた」という表現をする人もいると思います。

いずれにしても、自分の気持ちいいリズムをかき乱すような異分子リズムが気になってしまったりすることは日常的にあり、それでいてその特定の異端リズムを自分が認識したことは、無限大に存在するリズムの中においては究極にレアなことでもあります。

それをアクシデントと捉えて掻き乱されることもできますが、その異端リズムに反応してしまった何かが自分の中にあってそれを学びのチャンスにすることもできます。 自分の奥深くに潜む、異端リズムに反応してしまった何かが色んな形で依存を生んだりしていることもありますから。

例えば、Bluetoothのケースであれば、もしかしたらBluetoothを常に装着していることで実現するマルチタスクがスムースに行える状態に依存しているのかもしれないし、人によっては音楽を聴く、電話に出る、オンラインミーティングに入るなどを瞬間的にできないことに対して何か不安をもっている状態かもしれません
そういうシコリを取っていくと、最終的に掻き乱されることが少なくなって、自分に関わるすべてのリズムがアンサンブル演奏のように流暢に絡みあっていくような状態になっていくものなんじゃないかなと思います。 そして、そうやってできる「自分のグルーヴ」が自然に保てるような生き方がやっぱり理想。

「社会において自立と共生を心地よいグルーヴで実現していくことも、まさにジャムセッション」

僕の場合はですが、自分のグルーヴが自然に保てる状態を突き詰めていくと、そのグルーヴを生み出すアンサンブルの指揮者は結果的に生理的なリズムになっていきました。 朝日と共に目覚め、暗くなったら寝る。 夏の暑さも冬の寒さも自分の体の自然な体温調整能力で対応する。 地元で育った季節のものを食べる。 今はこれだと思ったことをその時にできるようにする。 そういう状態を実現するには、「暮らし自体を変える」ということに結局はなってしまうのかもしれませんし、暮らしを変えるということは、仕事のチョイスや人間関係、金銭感覚、住環境など、結構全面的に手を入れる必要もあるかもしれません。

starRo氏の現在の自宅。元々はライブハウスだったと言う。
starRo氏の現在の自宅。 元々はライブハウスだったと言う。

僕自身も社会人になって以来、サラリーマンとして色んな会社や仕事を経験したり、音楽の道に行ったり、色んな国や町に住んでみたり、経済的にものすごく潤っていた時もあれば、ホームレス街で最低限の生活で食いつないだりした時期もあって、試行錯誤しながら、時にはグルーヴを大きく崩しながら、25年ぐらいかかってやっと人生全体にまとまったグルーヴが出てきた感じします。

でも、僕がそんなに時間がかかったのは、自分自身が前の世代まで続いてきた高度成長期的な人生設計、価値観などに結局引っ張られすぎていたからだとも思いますし、グローバルのコミュニティーがはっきりと大きく転換している今は、もっと早く色々なものを削ぎ落とすことができるのかもしれません。

いずれにしても、自分の生理的リズムを尊重しながら生活することは、都市型の生活をしていてもできることは沢山あると思います。 例えば、夜になってもスマホを見て昼間並みの光が入る状態を避けるとか、朝起きたらまず太陽を浴びるとか、休日は予定を組まずに自然発生的に過ごしてみるとか、その季節のものをできるだけ食べるとか。

そういうことの大事さは、僕の場合、音楽が教えてくれた部分が大きいと思います。 何か決まった曲を練習して上手に弾くことも楽しいものですが、やっぱり何人か即興で演奏するジャムセッションがミュージシャンとしての醍醐味だと思います。 一緒に演奏するメンバーがどんな演奏をしてくるかわからない、ミスするのが怖い、弾くフレーズやコードのアイデアが浮かばないなどの不安を乗り越えて、ジャムセッションで生まれた自分の演奏とみんなの演奏のケミストリーをジャッジなしで楽しむ。 これは最終的に自然体で演奏していないと成り立ちません。

演奏者全員が自然体でいて出てくる内在的なもの (生理的なもの)を、音階やリズムの規則性と言った文化的に生み出された共通の作法に乗っ取って表現することで、流暢なコラボレーションが生まれる。

社会において自立と共生を心地よいグルーヴで実現していくことも、まさにジャムセッションだと思います。 そして、生活のリズム、つまり自分のグルーヴはそういった自立と共生のバランスの中で最適化されていくものだと僕は思います。

starRo

溝口真矢

starRo(溝口真矢)

神奈川県横浜市出身のアーティストでありDJ。 大学卒業後、テック企業に勤め、31歳の時にLAに移住。 SoundCloud黎明期に音楽制作活動を本格化させ、アップしたトラックが注目される。 2013年、Ta-Ku(ター・クー)やLAKIM(ラキム)、Tom Misch(トム・ミッシュ)などがリリースしたこともあるレーベル、Soulectionに加入し、2016年にはThe Silver Lake Chorus(ザ・シルバー・レイク・コーラス)の楽曲「Heavy Star Movin’」のリミックスを手掛け、グラミー賞 最優秀リミックス・レコーディング部門にノミネートされる。 コロナ禍を機に日本に戻り、しばらくは東京やその近郊で暮らしていたが、仙北市にある田沢湖の湖畔でDJをしたのをきっかけに現地の人と繋がり、2023年、地域おこし協力隊(リトリート担当)に任命された。 温泉あがりにアンビエントを流すサウンドバスやフィールドレコーディング体験、音浴とヨガを掛け合わせた企画を立てるなど、仙北市の人びとと深く関わりつつある。

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Text(Answer):starRo(Shinya Mizoguchi)
Edit:Yusuke Osumi(WATARIGARASU)
Top Image:AI