ジャズと一口に言っても、そのスタイルは実に多彩。ビッグバンドによるスウィングジャズから、アドリブ満載のビバップ、さらには実験的なフリージャズまで、ジャズは時代ごとに進化を遂げてきました。本記事では、オーディオ評論家の小原由夫さんが、それぞれの音楽的特徴や背景を代表曲とともに解説し、ジャズの魅力を深掘りします。

目次
ディキシーランドジャズ(ニューオリンズジャズ)
スウィングジャズ
ビバップ
クールジャズ
ラテンジャズ
モードジャズ
フリージャズ

ディキシーランドジャズ(ニューオリンズジャズ)

この2つは同じジャズで、ディキシーランドジャズは主に白人の演奏、ニューオリンズジャズは黒人の演奏という分類が一般的だ。1920年代に誕生、街中を練り歩く行進(マーチ)を端緒としており、ブラスバンドの行進曲や、ラグタイム、ブルースが融合された点に特徴があり、トラディショナルジャズ、ホットジャズと呼ばれることもある。明るいメロディーと活気のあるリズム、自由な即興演奏がベースにある。

ルイ・アームストロング(Louis Armstrong)の「When The Saints Go Marching In(聖者の行進/聖者が街にやってくる)」は、ニューオリンズジャズの代表曲のひとつだ。スポーツの応援歌を始め、多くのCMやBGMに使われた経緯があり、誰もが一度は聞いたことがあるだろう。

スウィングジャズ

ジャズのリズムを特徴づける重要な要素のひとつが「スウィング」だ。8分音符を3連符のような(2番目の音符を少し遅らせて)跳ねる感じで弾く(歌う)感覚で表現する。1920年代から30年代にかけて大流行し、デューク・エリントン楽団、グレン・ミラー楽団、ベニー・グッドマン楽団など、ビッグバンドに準じた大所帯のジャズバンドが中心となった、ダンスを伴ったゆったりとしたテンポのジャズである。

代表曲として、トランペット奏者のルイ・プリマ(Louis Prima)が作曲し、クラリネット奏者のベニー・グッドマン(Benny Goodman)が自身のオーケストラで大ヒットさせた「Sing, Sing, Sing (With a Swing)(シング・シング・シング)」を挙げよう。

演奏のみで披露されることも多い同曲だがルイ・プリマ作詞の歌詞もあり、日本のゴルフ用品専門店のテレビCMでは「シング〜」を「スウィング〜」に替えた替え歌として使用されていた。

ビバップ

1940年代にアメリカで生まれ、スウィングジャズから派生したモダンジャズの起源とされるジャズだ。速いテンポ、複雑なコード進行をベースに、アドリブ(即興演奏)を重視したジャズと言える。〈ビー・バップ〉、〈ビ・バップ〉と記されることもある。和声が拡張された結果、原曲のコード進行をさまざまな代理和音でリハーモナイズしたり、内部転調が頻繁に行なわれる演奏スタイルが主なものだ。ライヴ等が行なわれたジャズクラブの閉店後のジャムセッションから生まれたとする説もある。

チャーリー・パーカー(Charlie Parker)がビバップの創始者の1人とされており、彼の代表曲「Confirmation」は、その典型的演奏のひとつに挙げられる。

クールジャズ

ビバップの反動として1940年代後半に誕生したジャズのスタイル。ビバップの中心が黒人だったのに対し、クールジャズは白人寄りの傾向があるとされる。リラックスした軽快さが特徴で、奏法や曲の展開に抑制の効いた控えめなイメージがある。それがクールに聴こえたということが名称の由来とされる。

アルトサックス奏者のリー・コニッツ(Lee Konitz)は、ピアニストのレニー・トリスターノ(Lennie Tristano)らとクールジャズの基礎を作ったとされる。代表曲をコニッツの「Sound-Lee」としよう。

ラテンジャズ

文字通り、ラテンのリズムで演奏されるジャズで、一般的な4ビートジャズの3連スウィングではなく、8分音符や16分音符を軸としたビートをベースに、強力なシンコペーションと複合リズムで楽曲が繰り広げられる。楽器編成にも特色があり、コンガやボンゴ、ティンバレスといったラテンパーカッションが加わることが多い。

蛇足ながら、1940年代から50年代に発展したアフロキューバンジャズをラテンジャズと指すことが多い。それらはルンバやマンボ、サルサやカリプソ等の要素を含んでいる。他方ではブラジリアンジャズをラテンジャズに含めることもあるが、アフロキューバンジャズがアフリカを起源とする一方、ブラジリアンジャズはサンバやボサノヴァを源流とすることから、ラテンジャズとは明確に分けるケースがむしろ多いようだ。

ラテンジャズの名曲はディジー・ガレスピー(Dizzy Gillespie)の「Manteca」に止めを差す。実に賑やかでウキウキした気分になる演奏だ。

モードジャズ

英語では「モーダルジャズ(modal jazz)」と呼ばれる、コード進行よりもモード(旋法)を用いて演奏されるジャズ。これはコード進行やコードの分解に基づいた即興演奏を行なうビバップに対し、モードに基づく旋法による進行とする演奏だ。バッキング(伴奏で演奏する和音やリズム)のハーモニーでは若干の困難さは発生したが、ソロ演奏においては飛躍的に自由度が増し、メロディの選択肢が増えたとされる。

これはもう言わずもがなで、マイルス・デイヴィス(Miles Davis)の1959年のアルバム『Kind of Blue』が象徴的アルバムであり、モードジャズの夜明けと言っていい作品だ。その中から「So What」を代表曲として挙げても異論を挟む余地はないだろう。

フリージャズ

コード進行や形式に全く捉われないジャズ。誕生は1950年代後半で、ビバップの演奏スタイルの行き詰まりから、その既成概念、すなわち形式、調性、メロディ、コード進行、リズム、4ビート等を否定するスタイルの模索、創造から誕生した革新的なジャズ形式とされる。オーネット・コールマン(Ornette Coleman)がその創始者であり、ドン・チェリー(Don Cherry)やチャーリー・ヘイデン(Charlie Haden)等もその輪の中に入って活躍した。やがて1960年代に絶頂期を迎え、70年代に入って急激に衰退したとされるが、オーネットを筆頭に、アーチー・シェップ(Archie Shepp)やアルバート・アイラー(Albert Ayler)、セシル・テイラー(Cecil Taylor)等が自己のスタイルを貫き、奮闘した。

代表曲は、オーネットのアルバム『The Shape of Jazz to Come(ジャズ来るべきもの)』の中から、「Lonely Woman」を推挙する。メロディの美しさの裏で、意図的な不協和音がユニークな印象を与える曲だ。

Words:Yoshio Obara

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