音楽を愛する人にとって、なくてはならない「相棒」となるヘッドホン。自分にぴったりな一台を探すのはワクワクする反面、どれを選べばいいか迷ってしまう側面もある。オーディオテクニカのモニターヘッドホン〈ATH-Mシリーズ〉も、『ATH-M20x』から『ATH-M70x』まで多様なスペックとデザインが存在するがゆえに、「モデルの違いが実際の音にどう影響するのか?」「自分には一体どれが合うのか?」と立ち止まってしまう初心者も少なくないはずだ。

そこで今回は、日頃から同シリーズを愛用するアーティスト・Cony Plankton(コニー・プランクトン)をお迎えし、その疑問を紐解いていく。プロとしての確かな耳を持ちながらも、等身大の感性で音楽と向き合う彼女の「フィーリング」と、オーディオテクニカ 商品戦略部の中山が語る「ロジック」。ふたつの視点を掛け合わせ、TPOに合わせて自分に最適な一台が簡単に見つかる、実用的な「ヘッドホン導入ガイド」をお届けする。

オーディオテクニカ 商品戦略部 中山哲也(左)、Cony Planktonさん(右)

オーディオテクニカとの出会い。きっかけは「タワレコ」と「母の勧め」

Conyさんは日頃からオーディオテクニカのヘッドホンを愛用されていると伺いました。なぜ、制作のお供にオーディオテクニカのヘッドホンを選ばれたんですか?

Cony:実は、パソコンを使って自分で曲作りを始めた一番最初の頃から、オーディオテクニカのヘッドホンを使っているんです。最初のモデルが多分、DJ用の『ATH-PRO5』というシリーズだと思うんですけど。なぜそれを選んだかというと、当時、私がタワーレコードで働いていた時に、お店の試聴機についていたのがまさにそのヘッドホンだったんです。

中山:実はタワーレコードさんの試聴機には、昔から弊社のヘッドホンを数多く導入していただいているんです。

Cony:なるほど。タワレコの試聴機で音楽を聴くと、なぜか分からないんですけど、ものすごく音圧があって「すごく良い音で聴こえるな」という印象が残っていて。自分が音楽を本格的に作る側になった時、「タワレコの試聴機で聴いていたような、あの心地よい音の環境に近づけたい」と思ったのが、最初のヘッドホン選びのきっかけでした。

その後、さらに本格的な楽曲制作に取り組むようになったタイミングで、母から「曲作りをするならこれがいいよ」と勧められたのが『ATH-M50x』だったんです。私はホワイトを使っています。

「モニターヘッドホン」と「リスニング用」の違いとは?

Conyさんも今まさに制作のメインとして愛用されている〈ATH-Mシリーズ〉。オーディオテクニカのラインナップの中でも非常に長い歴史を持つシリーズですが、全体としてどういった特徴を持つ製品なのでしょうか?

中山:世の中には本当に多種多様なヘッドホンが存在しますが、その中でATH-Mシリーズは、いわゆる「モニターヘッドホン」というカテゴリーに属しています。世間一般で広く使われている「リスニング用のヘッドホン」は、音楽をより楽しく、心地よく聴くことを重視しています。一方でモニターヘッドホンは、Conyさんのように音を生業とされるクリエイターやエンジニアの方にこそおすすめしたいモデルです。制作の意図を正しく形にするツールとして、モニターしたい音をしっかりと正確に捉えられる特性を備えています。

ATH-Mシリーズ(ATH-M20x〜ATH-M70x)

その「プロが現場で使うモニター用」と、私たちが使っている「リスニング用」の音の違いを言葉にするなら、具体的にどういった部分に現れるものですか?

中山:先ほどご紹介したモニターヘッドホンの特徴も、見方を変えれば、毎日の電車移動中などに音楽を楽しむ際には、人によっては「なんだか物足りないな」「面白みがないな」と感じてしまうかもしれません。その点、リスニング用は、音楽を心地よく楽しめるように、モデルによっては低音などが強調された音質のものもあります。

ですが、これが楽曲制作の場となると話は変わります。例えば、レコーディングしたギターの音を細かくチェックしたい時に、ヘッドホン側で必要以上に低音が強調されていたら、作り手の意図通りのバランスには仕上がらなくなってしまいますよね。だからこそ、特定の帯域を過度に強調することがなく、目的の音を的確に確認できるモニターヘッドホンが必要になります。

三者三様の個性。ATH-M50x・M60xa・M70x を聴き比べる

今回は、Mシリーズの中でも特に代表的な3つのモデル(ATH-M50x・M60xa・M70x)を使って、Conyさんに音を聴き比べていただきました。率直にいかがでしたか?

Cony:本当に三者三様でした。今日、ここに来る時に聴いていたデヴ・レモンズ(Dev Lemons)やTAWINGSの曲も聴いてみたのですが、まず、自分が普段から使い慣れているATH-M50xは、やっぱりすごくバランスが取れている安心感がありました。音が鮮明だからなのか、すべての音が耳元に近い感じがするんですよね。

中山:ATH-M50xは世界中のレコーディングスタジオで導入頂いていて、ボーカリストや楽器奏者の方々にも深く支持いただいています。。モニターヘッドホンとしての正確さは大前提として維持しつつも、実際に歌ったり演奏したりする時に、プレイヤーの方々のモチベーションが上がるような音になっています。

ATH-M50x

ATH-M50x

プロフェッショナルモニターヘッドホン

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Cony:なるほど、だからあんなに音が近く感じられて、聴いていてテンションが上がるんですね。すごく納得しました。逆に『ATH-M70x』で聴いた時は、ATH-M50xよりも少し音が遠くなったというか、中高域の音がパッと前に出てきて、逆に低音がすっきり抑えられているように感じたんです。これはどういった用途を想定して作られているんですか?

中山:ATH-M50xは制作環境やレコーディングにおけるモチベーションのプラスになる点がある一方で、楽曲制作の全工程、例えば最後の細かな調整までをこれだけでやろうとすると、ディテールが聞こえづらくなったりする瞬間があります。

そこで、音をさらに細かく覗き込むためのルーペのようなアイテムがATH-M70xなんです。低域をタイトに作りこみつつ、解像度を引き上げているので、ミックスなどでのディテール確認に最適です。

ATH-M70x

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プロフェッショナルモニターヘッドホン

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Cony:もし「ベースの音の動きをしっかり確認したい」となった場合は、ATH-M70xよりもATH-M50xを選んだ方がいいということですか?

中山:決してATH-M70xが低音を出していないわけではないんです。低域はまとまりがありながらローエンドまで出ており、例えばシンセのサブベースもきちんとディテールを確認いただけます。ここは作り手の好みや、その時の作業フェーズによって明確に分かれる部分であって、どちらもお使い頂ければと思います。

形状がもたらすメリット。オンイヤー型『ATH-M60xa』の秘密

Cony:もう一つの『ATH-M60xa』は、形がコロンと小さくて可愛いですよね。さっきの2つのようなオーバーイヤー型と形が全然違うので、最初は見た目の印象に引っ張られたんですけど、何度もATH-M50xとATH-M60xaを行ったり来たりして聴き比べてみたら、「形は違うけど、音の軸にある安心感はATH-M50xと同じかも」って気づきました。

中山:おっしゃる通り、このATH-M60xaは耳をすっぽり覆う形状ではなく、耳の上にパッドをポンと乗せる「オンイヤー」という形を採用しています。このモデルはもともと、テレビの現場や競技スポーツの生中継といったブロードキャスト用を想定して生まれました。

屋外の過酷な収録現場でも耐え得る耐久性を備えながらも、スパッと軽快に着けられて、なおかつ持ち運びも苦にならないような軽さを追求しています。ただ、形はコンパクトですが、ATH-M50xと同じドライバーを搭載しており、Mシリーズのモニターサウンドをそのままコンパクトに外へ持ち出せる仕様になっているんです。最近では機材を軽くしたいDJの方や外出先などでトラックメイクをするモバイル派のクリエイターにもお使い頂けています。

ATH-M60xa

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実際に着用してみて、装着感の違いはいかがでしたか?

Cony:ATH-M60xaを着けてみたら、耳周りがすっきりと開放的でとても快適でした。耳をすっぽり覆うタイプに慣れてはいますが、個人的にはオンイヤーのライトな着け心地は好きでした。

中山:そこはまさに、快適性の好みが分かれる面白いポイントです。ATH-M50xは、スタジオでの遮音性などの観点も踏まえて、側圧はやや強めです。そのため、人によっては長時間作業していると少し疲れてしまうこともあるかもしれません。一方でATH-M60xaは、より軽量且つ頭への締め付けは優しくなっていますが、耳に直接パッドが当たり続ける形になります。この着け心地からATH-M60xaを選ばれる方も一定数いらっしゃいます。

音楽を始めるなら、まずはどのモデル?

今回ご紹介したラインナップを振り返って、これから音楽を本格的に始めたい人には、まずどのモデルから選ぶのがおすすめですか?

中山:やはり、最も汎用性が高く万能なのはATH-M50xですね。始めたばかりの方は、特に制作や録音でのモチベーションが重要と考えますので、その点でM50xのサウンドは適していると思います。制作の経験を積んでいくなかで、よりディテールにこだわりたい部分が出てきた際に、2本目としてATH-M70xを手にする。そんなステップアップが理想的だと思います。

Cony:私も自分の経験から、音楽をこれからスタートする人には、まずは自分が一番ワクワクできて、音楽を好きになれる音を出してくれるヘッドホンをおすすめしたいです。制作の機材って、やっぱり自分のテンションが上がるものを使うと、生まれる楽曲の数も比例して多くなっていくと思うんですよね。

実は私、マイクもオーディオテクニカさんの製品(AT4040)を愛用しているんです。あとは、オーディオインターフェースも新しいものに変えたりすると、録音した自分の声の聴こえ方も変わってくるし、さらに音楽を作るのが楽しくなったりしますよね。

中山:ちなみにMシリーズには、さらに手軽にモニター環境を構築できるエントリーモデルとして『ATH-M20x』『ATH-M30x』『ATH-M40x』という選択肢も用意しています。これらはMシリーズのモニターサウンドを踏襲しつつ、音楽を始める方が、価格的にも最初の1台として手に取りやすいパッケージになっています。ご自身の今のライフスタイルに合わせて、まずはここからステップを上っていただくのもおすすめです。

番外編:純粋でリアルな音場を実現する、開放型〈Rシリーズ〉の衝撃

密閉型Mシリーズとは異なるアプローチで作られた、オープンエアー(開放型)モデル『ATH-R50x』もConyさんに体験していただきました。いかがでしたか?

Cony:まず着け心地がとても快適。音の良さはもちろんなんですけど、これなら本当に1日中ずっと着けていられます。音がすごくマイルドなのに驚くほど鮮明で、歪んだギターソロのトラックを聴いても全く耳が痛くならない。あと、本当にヘッドホンではなく、スタジオのスピーカーで音を聴いているような不思議な感覚になります。

中山:それが「開放型」ならではの最大の強みなんです。Mシリーズのような密閉型は、ハウジングの共振による低域の増強で音作りを行います。一方で、この開放型はハウジングが開放した状態で、空気の流れを淀みなく運ぶことができ、長時間でも聴き疲れしない自然な音場を実現しているんです。

ATH-R50x

ATH-R50x

プロフェッショナルオープンバックリファレンスヘッドホン

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Cony:欲を言えば、今日試したヘッドホンを全部作業場に揃えておいて、シチュエーションに合わせて行き来できたら最強ですよね。

中山:おっしゃる通り、それがクリエイターにとってまさに「最強の環境」だと思います。制作における一連の作業を、たった1台のヘッドホンで全て済ませるのはやはり難しいです。例えば、先ほどのRシリーズはその構造上、周囲の雑音がうるさい場合や音漏れが気になる環境ではお使い頂くのは難しいかもしれません。

そういったシーンでは、遮音性の高い密閉型のATH-M50xをお選び頂ければと思います。またちょっと気分を変えてカフェや外出先で作業したい時は、軽量で持ち運びにもストレスフリーなオンイヤー型のATH-M60xaを。そして制作が進むにつれて、よりディテールを厳密にチェックしたいときはATH-M70xを使う。そんな風に、目的や作業フェーズ、あるいはその日のライフスタイルに合わせてヘッドホンを使い分けていただくことで、ホームスタジオなどでモニタースピーカーが使えないときも、クリエイターの方々が安心して制作判断を行える環境を提供できればと考えています。

Cony Plankton

2016年に3人組バンド・TAWINGSを結成。ガレージ、ポストパンク、ニューウェイヴなど様々な要素を飲み込んだサウンドが特徴。ザ・レモン・ツイッグス、ハインズ、ジャパニーズ・ブレックファストなど、多くの海外アーティストのサポートをつとめ、2018年の「SXSW 2018」に出演、初の海外公演を行った。2026年1月に初セルフプロデュース作となる新曲「Ms. Lonely」をソロ名義で配信リリースした。

Cony Plankton Instagram

ATH-Mシリーズ

Photos:Naoki Arima
Words & Edit:Mizuki Kanno

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