レコードの音溝を針先がなぞり、振動を拾い、それを電気信号に変換して音楽が再生される…そんなアナログ再生の最前線にあるのが、カートリッジです。超小型ながら、その音を大きく左右する重要なパーツ。発電方式の違いによって「MM型」「MC型」に大別され、そこにオーディオテクニカ独自の「VM型」が加わります。本記事では、それぞれの特徴や魅力をご紹介します。
力強く扱いやすいMM型

「MM」は “Moving Magnet(ムービングマグネット)” の略称で、マグネットが動くことで電気信号を生み出す仕組みです。構造が比較的シンプルで高出力。多くのレコードプレーヤーに標準で搭載されており、初めてのカートリッジとしてもおすすめです。
ダイナミックで力強い音質が魅力で、エントリーモデルからハイエンドモデルまで広く採用されています。構造が単純なぶん、音質のキャラクターがはっきりと出やすく、名機と呼ばれるモデルも多く存在します。
また、ユーザー自身で針交換ができるのも大きな特徴。用途や好みに応じて針を選び、音の違いを楽しむことができます。
繊細な表現力のMC型

「MC」は “Moving Coil(ムービングコイル)” の略称で、固定されたマグネットの中を、カンチレバーに取り付けられた軽量なコイルが動く構造です。可動部分が軽いため、トレース能力が高く、特に高音域の再現性に優れています。
繊細で美しい音質は他にない魅力で、中〜高級機に採用されることが多いです。一方で、出力電圧がMM型の約10分の1と低いため、昇圧トランスなどの補助機器が必要です。また、針と本体が一体になっているため、ユーザー自身での針交換はできず、メーカーでの対応となります。導入のハードルはやや高めですが、一歩踏み込んだ音質を求める方にとっては有力な選択肢になるでしょう。
ボロンカンチレバーにマイクロリニア針を搭載。
高品位な磁気回路を採用したミドルクラスモデル AT-OC9XML
AT-OC9XML
デュアルムービングコイル(MC)ステレオカートリッジ

デュアルムービングコイル方式により高セパレーション・ワイドレスポンスを獲得し、明確な音像定位を実現。逆V字型に配置されたコイルで歪みを最小限に抑制。
ボロンカンチレバーに特殊ラインコンタクト針を搭載。
オーディオテクニカの鉄芯型MCカートリッジのハイエンドモデル AT-ART9XI
AT-ART9XI
デュアルムービングコイル(MC)ステレオカートリッジ

逆V字型に配置されたデュアルムービングコイル方式により、高セパレーション・ワイドレスポンスを獲得し、明確な音像定位を実現。歪みを最小限に抑制します。
オーディオテクニカ独自のVM型

VM型は、オーディオテクニカが独自に開発したMM型の派生タイプです。左右2chの音溝に対して独立した2つのマグネットをV字型に配置していることから「VM」と名付けられました。
これは、レコードの原盤を刻む「カッターヘッド」の構造に近づけることで、より原音に忠実な再生を目指したもの。音の記録方式に着目した、オーディオテクニカならではの発想といえます。
基本構造はMM型と同じで、針交換も簡単。初心者から上級者まで、幅広い層におすすめできるシリーズです。
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安定したトレーシング性能を持つ接合丸針モデル
AT-VM510xCB
VM型(デュアルムービングマグネット)ステレオカートリッジ

接合丸針を搭載したVMカートリッジのエントリーモデル。 セッティングに左右されにくく安定したトレーシング性能を持つ接合丸針を採用。
クリアで高解像度な音を引き出す無垢楕円針モデル
音溝の情報を余すことなく拾い上げる特殊ラインコンタクト針モデル
カートリッジを変えて、新しいレコードの魅力を見つけよう
たった数センチのパーツながら、カートリッジはレコード再生の「音の入口」にあたる存在です。カートリッジを変えるだけで、聴き慣れたレコードの印象ががらりと変わることもあります。一枚のレコードを、何通りもの角度から楽しめる。そんな楽しさが、アナログ再生にはあります。
カートリッジの種類や特性を理解し、音の変化を楽しむことができれば、レコードの世界はもっと豊かで奥深いものになります。ぜひ、自分に合った一台を見つけてみてください。
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Edit:Tom Tanaka