同じレコードでも、プレーヤーによって音が変わる。その理由を構造や精度の観点から紐解いた前編に続き、今回は“もうひとつの要”であるカートリッジに注目。オーディオライター・炭山アキラさんが、発電方式や素材、針先の違いが音にどう影響するのかをわかりやすく解説します。
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なぜカートリッジは同じ発電方式でも音が変わるのか
前回は、プレーヤーにおける音の違いについて解説しましたが、カートリッジについても同じようなことをいうことができます。もちろんMM型、VM型、MC型などの発電形式の違いも音へ大きな影響を与えますが、同じ発電方式でも廉価なものと高級モデルとでは、時に同じ方式と思えないような大きな音の違いが生ずるものです。
VM型を例に取り、解説してみましょうか。現行のステレオ用VM型には、AT-VM95シリーズと同500x、700xシリーズがあります。この3シリーズは、同じVM型といってもかなり中身が違います。95は樹脂のベースに鉄板プレスのカバーがかけられた構造で、500xは全体が樹脂製、700xはアルミ合金のボディを持っています。それだけでも共振しやすさなどが随分変わり、音は全く別物になってしまうものですが、さらに95と500x/700xシリーズでは発電回路にも違いがあり、ごくオーソドックスな作りの95シリーズに対して、上級2シリーズでは左右独立の発電回路に相互干渉を遮断するためのセパレーターが挟み込まれた、非常に凝った発電回路が採用されています。



500xと700xでは、針先が共通していないので絶対的な比較は難しいのですが、前者がやや穏やかで肉太の質感を聴かせ、後者はピシリとフォーカスが決まり、俊敏で切れ味鋭いサウンドという印象があります。発電回路そのものは共通だそうですから、やはりボディ強度が効いてきているものと考えられますね。
ただし、700xが500xよりすべての面において優れているかというと、そうとも言い切れない部分があります。700xシリーズは8.8gであるのに対し、500xシリーズは7.2gと軽量です。たった1.6gの差ですが、それで取り付けられるトーンアームの範囲が違ってきますから、カートリッジの世界では大きな差ともいえるものです。
また、AT-VM95シリーズもAT-VM500x/700xシリーズも、数多くの針先が選べることをご存じの人は多いでしょう。接合丸針、接合楕円針、無垢楕円針、マイクロリニア(ML)針、シバタ針の5種類は、両シリーズに共通の針先です。500/700xシリーズには、その上に特殊ラインコンタクト針が存在します。
共通の針先といっても、カンチレバーは3シリーズでいろいろ違いがあります。AT-VM95は最上級のシバタ針でもストレートパイプのアルミカンチレバーが採用されており、500/700xシリーズでは無垢楕円針までがアルミ・ストレートパイプを採用、シバタ針と最上級の特殊ラインコンタクト針にはボロン・カンチレバーが投入されています。

ML針はアルミとボロンの両方のカンチレバーが用意されていますが、これのみアルミは先端にかけて細くなったテーパード・パイプが用いられています。テーパーはストレートに比べてコストはかかりますが、強度を保ちつつ振動系を軽量化するための方策です。美しく仕上げられた、高度なカンチレバーですよ。
こういう要素の一つひとつが、音質の違いに大きく関わってくるのです。決して値段が高い=音が良いというわけではないのですが、やはり高級モデルは求める音質を得るために、応分のコストをかけざるを得ない、ということなのでしょうね。
高価な機材だけが正解じゃない。“自分の音”を見つける楽しさ
上を見れば切りのない趣味の世界ですが、私自身は『AT-LP8X』をじっくりと使いこなして、”自分の音”にしているという自負がありますし、リファレンスのVMカートリッジも最も高価な特殊ラインコンタクト針ではなく、ML針と無垢楕円針、接合丸針を、レコードやその日の気分によって使い分けています。
つまり、一般にプレーヤーやカートリッジに投資する金額が上がるほど、再生音が高品位になる傾向はあるけれど、天井知らずにコストをかけなくても、自分の納得する再生音を得ることは可能だということでしょう。もう一つ、実力派の中級機を使ってより上級製品の品位へ肉薄させるためには、あなた自身のセッティングやアクセサリー使用に対するポケットの中身が問われてきます。
じっくり腰を据えて楽しもうと思えば、レコードプレーヤーとその周辺は、ユーザーのケア次第でどんどん音を良くすることができます。今後もAlways Listeningでそれらのノウハウを公開していきますから、皆さんもぜひ参考にして下さいね。

ATH-VMxシリーズ 製品一覧
AT-VM95シリーズ 製品一覧
Words:Akira Sumiyama