しっかりとしたオーディオ環境を整えたいと考えたとき、どうしても高価な製品を思い浮かべがちなスピーカーやアンプの世界。しかし近年は、限られた予算の中でも、十分に音楽を楽しめる製品が増えてきています。では、これから本格的にオーディオを始めたい場合、どれくらいの価格帯の装置を選べばよいのでしょうか。オーディオライターの炭山アキラさんが、コストパフォーマンスに優れていると感じる製品群と、その背景にある考え方を紹介します。

限られた予算でも妥協しない! スピーカー&アンプ選びのヒント

かつて1980年代頃まで、「世界の工場」といわれた日本では、オーディオ機器も世界へ向けて膨大な数が生産されていました。そのスケールメリットに加え、鉄や銅などの金属、そしてカートリッジでいえば針先のダイヤモンドなども今からは考えられないくらい安かったこともあり、当時の製品群は今から見るとずいぶん安く感じられます。もっとも、高音質を実現するための技術は当時よりずっと進んでいますから、あまり単純に比較すべきでもないんですけどね。

そんなわけで、昔より少々プライスタグが上がってしまった感もあるオーディオですが、それでも結構本格的なオーディオ機器が、プリメインアンプとスピーカーをセットにしても、10万円以下で購入することができます。一方高価なオーディオ機器は、スピーカーだけで1セット1億円を超えるものも存在します。まぁほとんど青天井といってよいでしょう。

それでは、私たちは一体どれくらいの金額を投資すれば、適切な規模の装置をそろえることができるのでしょう。また、どれくらいの投資額がご自身にとって最もコストパフォーマンスに優れているのでしょう。

私たちは一体どれくらいの金額を投資すれば、適切な規模の装置をそろえることができるのでしょう

あまり一概にいってしまうのは危険でもありますが、個人的に最もコストパフォーマンスの高い製品群は、最廉価から1~2ランク上の装置ではないかと考えています。それぞれのメーカーにとって一番安い製品というのは、ビギナーに振り向いてもらうため思い切ったコストと技術の投入がなされている製品が多く、それらは実際に音楽を十分に楽しめる製品が大半なのですが、それでもそこから少し上を目指すと再生音にグンと余裕が増し、音楽がより深く楽しめるようになることが多いものです。

アンプでいえば、昨今は横幅40cmを超える昔でいうところフルコンポーネント・サイズの製品より、30cm弱でネットワーク・プレーヤーを内蔵し、レコードプレーヤーを接続することもできる製品が増えてきています。21世紀になってから劇的に音質向上が続く高効率アンプ技術によって、スピーカーの駆動力は高いし、音質的にも上手く煮詰められた製品が多いものです。現在最もコストパフォーマンスに優れたジャンル、といってよいでしょう。

スピーカーはアンプほど明快に断ずることの難しいもので、それぞれCDプレーヤーやアンプなどとは比べ物にならないほど強いキャラクターを持ち、それがご自分のツボに入ったら、比較的廉価な製品でも一生の伴侶となり得ますし、ものによっては長期の積み立てかローン返済を覚悟せねばならなくなる場合もあるでしょう。

スピーカーはアンプほど明快に断ずることの難しい

もう少し具体的にいうなれば、2ウェイよりも3ウェイの方が絶対的な解像度、表現力は上がりますが、中域の再生を担うスコーカーは後方の箱(バックキャビティといいます)が小さく、またボイスコイルもウーファーよりも細く繊細なため、再生音の線がやや細くなる傾向があります。それよりも、若干大味ではあるけれど開放的な2ウェイの中域を好む、という人は少なくないことでしょう。

また、ブックシェルフ型スピーカーをスタンドへ載せて床へ置くと、いわゆるトールボーイ・タイプのスピーカーと占有する床の面積はほとんど変わりません。その一方で、トールボーイの方が内容積がずっと大きく、その分だけ低音を稼ぐことが容易だ、という物理的な条件があります。

ならばトールボーイの方が絶対的に優れているかといえば、そういうわけではありません。内容積が大きいということは、それだけ板の面積も大きいということで、つまりよほどしっかり補強しないと箱鳴りが増え、再生音を濁してしまうということもありがちなのですね。それに比べて、低音には限界があるけれどキャビネットが相対的に頑丈で澄んだ音のするブックシェルフを好むという人のことは、トールボーイ好きの私も理解できます。

また、スピーカーは極端に大きさの違う商品が混在したジャンルでもあり、どれほど音が気に入っても、物理的に部屋へ入らなければ万事休す。別の選択肢を求めるか、いっそ広い部屋のある物件へ引っ越すか、ということになります。それでも1980年代頃と比べれば、小型で実力派のスピーカーが激増していますから、いい世の中になったとはいえるのでしょうけれどね。

一生もののオーディオと出会うために

スピーカーについて話していると、コストパフォーマンスから少し離れてしまいました。話を戻すと、オーディオ機器は高価になるほど絶対的な音質向上の余地が小さくなってくる、ということもあります。例えば、10万円と20万円のアンプでは筐体や電源に大きな差異が見られますが、100万円と200万円ではそのあたり、どちらも十分に充実していて当たり前ですからね。

ですから、高級なコンポーネントは絶対的なクオリティの高さというより、一つひとつのブランドや機種たちが奏でる世界観の違いが、選択の基準になると私は考えています。

これは現行のコンポーネンツももちろんそうですが、ヴィンテージの機器を大切に使い続けられている人だって、同じことなんでしょうね。自分の求める音楽の世界がこのアンプ、このスピーカーからしか出ない。だから長期のローンを組んででも入手するし、何度故障してもしっかりと修理して元のクオリティへ戻し、使い続ける。コストパフォーマンスの世界から完全に解脱した、オーディオ達人の世界だと思います。

そういうオーディオの世界は、一生かかって追い求める長い道のりの果てにある、といってよいでしょう。その長い道のりの入り口近くにいる人は、コストパフォーマンスの高い製品群で大いに音楽を楽しみ、そうしているうちに「自分の音」が見つかったら、より楽しく麗しいオーディオの世界へ入っていかれることでしょう。一生楽しめる趣味ですから、長いお付き合いをお願いしますね。

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Words:Akira Sumiyama

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