クリスタルボウルの「ブォーン」と柔らかい響き、音叉(おんさ)の「カーン」という金属音、インドの伝統的なアコーディオンの「ファーン」と重厚感のある音色。これらの不思議な音の渦に体を浸からせリラックス状態を体験する“音のお風呂(音浴)”、サウンド・バス。瞑想やメンタルヘルス、マインドフルネス等の浸透とともにここ数年で注目を集めている。

サウンド・バスを体験した者は「すごく不思議な感覚になった」「頭のなかのごちゃごちゃがスッキリした」などと口々にいう。でも「何でサウンド・バスっていいんだろう? どう体にも心にもいいんだろう?」サウンド・バスの先生に、いろいろと聞いてみた。

「ルールは一切ありません。耳を傾けるだけでいいのです」

ヨガのようにトレーニングウェアを纏うわけでもなし。瞑想のように決まった姿勢を保ち続けるわけでもない。レザーパンツを履いている人がいれば、足を絡め寝っ転がる人だっている。

「サウンド・バスには複雑なルールは一切ありません。耳を傾けるだけでいいのです」。

それでいて「瞑想よりも早くリラックス状態に誘ってくれる」という。

今回話を聞いたSara Auster(以下Sara)は、スタジオでの10人のグループレッスンから屋外で開催する1万人規模の大型イベントまでをオーガナイズし、ニューヨークとマサチューセッツのスタジオを拠点に、国内外にてサウンド・バスの講師を務める。瞑想の先生であり、サウンドセラピスト。時流に乗る随分と前の2008年からサウンド・バスを実践し続け、昨今のサウンド・バス・ムーブメントを牽引している。しなやかなロングの黒髪、つばの広いハット、眼鏡が特徴だ。

Sara Auster

世界で引っ張りだこのSaraの人気ぶりは「パンデミック以前は、1ヶ月でロサンゼルス、ブルックリン、ロンドン、パリ、マラケシュ(モロッコ)に訪れた」ほど。米女性月刊誌『Oprah Magazine』では「瞑想のトップエキスパート」と認められ、自身を「サウンド・バス・ムーブメントのリーダー」と名乗り、昨年にはサウンドがもたらすセラピーの力を紹介する著書『Sound Bath』を出版している。ふむ、サウンド・バスって何でいいんですか、と問うには不足なし。

ここ数年は毎週月曜日にサウンド・バスの音色を届ける1分動画「Sound Mo(ve)ments Monday」を自身のInstagramにて投稿し、直接セッションに参加できないフォロワーへ届けている。さて、そろそろいきましょう。サラ先生、なんでサウンドバスっていいんですか?

AL:サウンド・バスとは文字通り「音(サウンド)のお風呂(バス)に入るような音楽体験」と表現されますが、詳しく教えてください。

S:サウンド・バスとは、のめり込むように全身で音を聞く体験のこと。心と身体のバランスを整えるため、音を使って、自身を穏やかでパワフルな“治療”と“回復”プロセスへと導くのです。

AL:自己と向き合う「瞑想」とは、どう違うんでしょう。

S:瞑想には決まった座り方や姿勢があったり、意識を“今”に留めたり、マントラ(心を整える働きがある祈りの言葉)を繰り返し唱えたり、呼吸を強く意識したりと、いくつかのルールが存在します。一方でサウンド・バスにはこうした複雑なルールは一切なく、耳を傾けるだけでいい。瞑想のルールにとらわれてうまく実践できない人には、サウンド・バスが役立ちます。

AL:音を聴くことだけに集中すればいいと?

S:はい。瞑想はクラスに参加するにせよアプリを使うにしろ、講師やガイドの声がマインドフルネスな状態へと導きます。しかしそうすると、どうしてもみなさん「言葉」に意識を寄せてしまう。しかしサウンド・バスは声ではなく「楽器の音色」で緩やかに意識を導く。なので、言葉を聞き、理解し、実践しなけばというプレッシャーを軽減させ、よりのめり込みやすくしてあげるのです。

AL:サウンド・バスはリラックス状態へ到達するための近道、というイメージですね。

S:伝統的な瞑想が階段を上るような行為だとすれば、サウンド・バスはエレベーターに乗るようなものです。

AL:ここ数年、サウンド・バスを体験できるスタジオはずいぶんと増えました。セッションの内容も講師によって多様。例えば自己紹介や参加理由を話すことから始めたり、ハイクオリティのスピーカーから録音した音源を流すところだったり。

S:今ではあらゆる分野で経験を積んだ講師たちが、様々なタイプのたくさんのセッションを提供しています。しかし、まったく同じセッションというものは存在しません。私の場合は、10年以上にわたる音響心理学(人間の聴覚に関する学問)とヨガ・瞑想の研究、それに私のバックグラウンドでもある音楽とアートの経験に基づいた、ちょっと特殊な方法を用います。

AL:これまで、スタジオ以外でも学校や病院、世界各国のイベントやフェスでセッションを開催してきました。参加者も、2歳から97歳とオールエイジ。開催場所や参加人数に関わらず、セッションをおこなう空間は、ナチュラルで洗練されていてこだわりが感じられます。

S:サウンド・バスは、スタジオに足を踏み入れた瞬間から始まります。つまり環境や空間は、サウンド・バス体験において重要な役割を担っているのです。なので私の場合、そのセッションや自分自身をどのように演出・表現するかの美学にこだわりを持っている。オフのときでさえ、「参加者とどう視覚を通してコミュニケーションを取ろうか」を考えてしまいます。

AL:素朴な疑問があります。すでに癒しの音楽やヒーリングミュージック等、心を落ち着かせたり、メンタルを回復させるような音楽があります。個々人が感じる「癒しのジャンル」というのもあるでしょう。それでもなお、サウンド・バスが効果的であるのはなぜなのでしょうか。

S:サウンド・バスでは、正式な意味で、音楽を聴いているわけではないんです。

AL:と、いいますと?

S:サウンド・バスで奏でられる楽器の音色には、音楽のような一定のメロディー、ハーモニー、リズム、アレンジは組みこまれていません。こうした構造化されていない音こそが、聴く者をリラックス状態に持っていきやすい。

AL:確かに、一般的な音楽を聴いていると、メロディーの先を予測したり、不意に体でリズムを刻んだり、歌詞がある場合は歌詞を聞きとろうと意識したりしてしまうかも。

S:サウンド・バスの音色では、たとえばポップソング等を聴いたときに起こるそういった反応や「歌いたい」という衝動に駆られることがないので、参加者はリスニング体験に没頭できるというわけです。

AL:なるほど。サウンド・バスは医学的に注目されるほどの効果があると報告されています。

例えば、
・交感神経を鎮め、副交感神経を活発にして神経系統を整える
・脳を活性化し、緊張を解きほぐし血流が良くなる
・記憶障害の高齢者にも効果があるといわれている

など。ズバリ聞いちゃいます。なんでサウンドバスっていいんです?

S:まずは、ストレスというものが私たちの気分、エネルギー、幸福感にどれだけ深刻な影響を与えるのかを認識することが重要です。サウンド・バスは心身の繋がりに対する意識を高め、ストレスホルモンであるコルチゾールの生成を抑えます。よってストレスを軽減させ、心身をリラックスさせる。そうすることで、クリエイティブなエネルギーを高めてくれるのです。

AL:医学的にも効果があるといわれる心身に心地よい音色。先生は、いつもどうやって演奏しているんでしょう。

S:私の場合、セッション中に見たり聴いたりしているものを感じ取り、それらと“会話する”ことで、何をどう演奏するかを決めています。基本的にはこれまで学んできた音響心理学や音楽理論、瞑想の研究に基づいていますね。

AL:参加者、特に初心者が音を聴くときに気をつけるべきこととは?

S:初心者にはまず、「期待しないこと」を勧めています。

AL:期待しないこと?

S:はい。サウンド・バス体験後の感想には個人差があり、人によってまったく異なる経験をするものなので。

AL:サウンド・バスを体験した人の中には、その心地の良さからいびきをかきはじめる人や、安心感から泣き出す人もいると聞きました。

S:参加者からは、落ち着きや癒しを感じると聞くことが多いです。しかし感じ方は人によってまったく違い、その反応は本当に多様です。音はエネルギーに等しく、エネルギーは振動に等しい。同じ場所で同じ時間に同じ音を聞いたとしても、感じ方は百人百様なんです。

AL:なぜ同じ音を聴いているのに、それぞれが違う体験をするんでしょう。

S:それは内耳(耳の最深部。音を感じ取る仕組みがある)の生理機能、これまでの人生経験、そのときの気分、その他の個人の価値観等に基づいて、脳が音を解釈するためです。

AL:同じ音でも、音の解釈で反応が変わるのか、興味深いです。

S:同じ音でも、人によっては活気づいて元気が湧くのを感じることもあれば、深い安らぎとリラックス感を感じることもある。 覚えておいてほしいのが、「その音は一時的なもの」だということ。あくまでその時その瞬間に感じているものなので、例えば翌週に同じ時間の同じ場所でのセッションに来たとしても、違う経験をすることだってあります。

AL:では、個人それぞれの音体験を念頭においたうえで、最大限のリラックス状態へ到達するためのサウンド・バスの正しいたのしみ方とは?

S:「Be comfortable(落ち着いて)」「Have an open mind(心を開いて)」「「Listen(聴く)」ことに集中するといいでしょう。

Sara Auster/ サラ・オースター

サウンドセラピスト、メディテーション講師、作家。2008年からサウンド・バスのセッションを世界中で始め、 これまでにMoMA(ニューヨーク近代美術館)や Lincoln Center(リンカーンセンター)等の文化施設から、大型フェスティバル、小規模のセッションまでを手がける。著書に『SOUND BATH: Meditate, Heal and Connect through Listening』。最近では、Amazonのオーディオブック、Audible(オーディブル)と提携し、快眠に役立つ新しいサウンド、メディテーション、テクノロジー体験を提供するコンテンツを開発中。
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Words: Yu Takamichi(HEAPS) 
Photos via Sara Auster