スピーカーの振動板には、さまざまな色艶や形状のバリエーションがあります。それは、用途に応じて素材や構造を使い分けているからです。今回は、スコーカーやトゥイーターなど、中~高域の振動板に用いられる素材について、オーディオライターの炭山アキラさんに解説していただきました。

ウーファーやフルレンジによく用いられる振動板の素材についてのお話はこちら

振動板の形状によって好まれる素材が変わる

中~高域用とはいっても、ウーファーやフルレンジと同じコーン型であれば、素材はそう大きく変わりません。やはり紙が昔からの主流で、そこに高分子やカーボン、金属などのハイテク素材が加わるくらいです。各社が独自の素材技術を込める割合が高いのは、ドーム型ユニットの振動板です。ドーム型は、ごく大ざっぱに「ソフトドーム」と「ハードドーム」へ分類されます。

ドーム型のスピーカー

布や紙パルプの「ソフトドーム」

ソフトドームというのは、文字通りソフトな振動板のドーム型で、紙パルプもないことはありませんが、専ら化繊やシルクなど、布を使っている製品が多いものです。ただの布ではドームへ成型するのも大変ですから、多くの場合何らかの高分子系含侵材を含ませていることが多いようですね。

それでもヘナヘナの布ドームで、正確な動作(ピストンモーション)ができるのかと、心配になる人もおいでかと思います。開発エンジニアに話を聞くと、ソフトドームは割合自由なモードで振動しており、ピストンモーション的な動きではそもそもないのだとか。

それでも、わが家で使っているソフトドームのトゥイーター(4ウェイのミッドハイとして使用)は、非常に高解像度でパワフルかつ活発な音を奏でてくれています。少なくとも、エンジニアさんの話から想像されるような、余分な動きで音が濁ったり鈍ったり、という音は看取できません。意外と大丈夫なものですね。

世の中には、ソフトドームとハードドームのちょうど中間、「セミハードドーム」というべき振動板もあります。主に軟質樹脂製で、アルミ合金のハードドームに時折みられる、高域方向のキラッとした輝きが抑えられ、使いやすい特性を持ったものが多いという印象があります。

金属製の「ハードドーム」

一方、ハードドームはアルミ合金製が多数を占めます。いろいろな物性を持つ膨大な数の合金があって、特性を調節するのが比較的容易であること、また入手も比較的容易なことが、その原因に挙げられます。

しかし、アルミに限らず非常にたくさんの素材が用いられているのがハードドームでもあります。前回に解説したマグネシウム合金は、こちらもごく一般的に用いられていますし、純マグネシウム振動板も少々特殊な「リッジドーム」という形状で実用化されています。

ベリリウムは火災事故などで燃えてしまった際には人体に有毒な煙が発生する危険性があるので、大きなウーファーやフルレンジより、スコーカーやトゥイーターの方へ使われることが多いものです。TADやParadigmに加え、Focalが逆ドーム型のトゥイーターとして、採用していることで知られています。

ほか、金属振動板としては、チタンが使われることがあります。現在はヘッドホン/イヤホンで採用例がありますね。そういえば、オーディオテクニカのヘッドホンATH-ADX5000は、タングステンという極めて硬い金属をコーティングした振動板を用いています。

ATH-ADX5000

エアーダイナミックヘッドホン

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また、ホーンの根元へ取り付けて音波を供給する「ドライバー」という装置があります。内部にはドーム型の振動板が入っていますが、その振動板素材には非常に数多くのものが用いられています。多くはアルミ合金製ですが、硬いところではチタンやベリリウム、柔らかい素材では電化製品のプリント基板に用いられているフェノール樹脂や、食品の包装などにも用いられるヘナヘナだけれど引張強度の高いマイラーなどを挙げることができます。

Words:Akira Sumiyama

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