ブルックリンの北西に位置するゴワナス地区。 運河を介するこの地域は長年に渡り工業と運送のハブとして繁栄してきた場所である。 近年の開発によるモダンな住居、歴史のある建物や倉庫、スタジオが混在し、ニューヨークらしい趣きのある情景が広がるこのエリアには現在多くのアーティストやヒップスター達が拠点を構えている。

その一角に、以前はアメリカ動物虐待防止協会の本部や、Paul Simon(ポール・サイモン)をはじめとした大物ミュージシャンがレアなギターを探しに来たという「Retrofret Vintage Guitar(レトロフレット・ビンテージ・ギター)」が集まった建物があった。 そこを外観はそのままに改装をして2019年3月にオープンしたのが『Public Records(パブリック・レコード)』だ。

オーナーのFrancis Harris (フランシス・ハリス)はミュージシャンとして活動しており、レコードレーベル「Kingdoms(キングダムズ)」の運営もしている。 過去にはバーを経営していたこともあり、ホスピタリティ業界で長年経験を積んできた。 そして共同オーナーのShane Davis (シェーン・デイビス)はグラフィックデザイナーであり、商業施設などのクリエイティブディレクションも担当している。

二人は2017年に出会い、共通のビジョンである「良質な音と食、そしてホスピタリティが交差する場所」を具現化するべくしてこの場所を作り上げた。 ヴィーガン料理を提供するレストランとカフェ、レアレコードを中心に集められたHi-Fiレコードバー、そしてライブアクトやDJによるレコードプレイを楽しめるクラブスペースが揃う、唯一無二の複合施設だ。

Public Records
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レンガ作りの外観にブラックで統一された枠組みの対比がモダンな雰囲気を醸し出すエントランス。 そのドアを開けると、すぐにコーヒーショップが目に入る。 同じ空間にはマガジンショップがあり、インディペンデントマガジンやレコード、Public Recordsオリジナルグッズのトートバッグやベースボールキャップ、コースターが販売されている。 さらに中へ入ると、規則正しくそびえ立つ白い円柱と優しい光が降り注ぐ天窓があり、美術館のような高い天井が解放感を演出するカフェ&レストランスペースが広がる。

昼時は美しい自然光が降り注ぎ、ゆっくりとした時間が流れていた。 パソコンを広げて仕事をする人や友達とお喋りを楽しむ人々が集まり、とても気持ちの良い空間で心身共にリラックスできる。 アメリカ動物虐待防止協会の本部があった場所であること、そしてFrancis自身がヴィーガンであることから、メニューはすべて地球、動物、身体にも配慮したヴィーガン料理が提供される。

空間のアクセントになっているのが、そこに配置されたヴィンテージの椅子だ。 ロンドンで見つけて一目惚れして購入したものだそうで、直線的なウッドの枠組みにレザーのクッションと背もたれというシンプルで飽きのこないデザインは、Public Records全体のデザインを象徴するアイテムといえる。

Public Records
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前回紹介したOjas(オージャス)のサウンドシステムを楽しめるリスニングバー「Upstairs(アップステアーズ)」はPublic Recordsの2階にあり、そこに並ぶ椅子はこのヴィンテージの椅子にインスパイアされたShaneがデザインしたものだ。 制作はブルックリンを拠点に活動するデザイナーで建築家のJoe Cauvel(ジョー・カウベル)が担当した。 合板とスチール、レザーの素材感がエレガントでありつつもハンドメイドの温かみが感じられるシックな椅子になっている。 また、同じくUpstairsにあるクロムとガラス製のテーブルも二人の共作によるもの。

前回の記事はこちら
[Brooklyn] Upstairsで聴くOjasのサウンド @Public Records

Shaneのデザインは機能的でオーセンティックだ。 「派手な装飾は抜きにして、DJやスタッフなどのPublic Recordsで働く全ての人にとって過ごしやすい環境をいかに作れるかを大事にした」と語ってくれた。 シンプルながらも椅子やテーブルの高さは全て計算されて作られている。 訪れる人々がリラックスできることはもちろん、バーカウンターやDJブースにおいても使う人の働きやすさを見据えて設計しているのだ。

そのDJブースや棚などの内装に使われている木材や鉄のほとんどは改装時に出てきた廃材を再利用している。 それでも足りない素材はホームセンターで購入するなど、ローカルであり環境への配慮がなされている。

ディナータイムになるとカフェ&レストランスペースはたくさんの人で賑わっていた。 隅にはDJブースが設置されており、週末を中心にライブアクトを楽しめる。 テーブルに着いて美味しいヴィーガン料理を堪能するもよし、バーでお酒を頼んでDJミックスを聴きながら訪れる人々と交流するもよし。 さまざまな楽しみ方ができる。

Public Records内の全てのスピーカーはOjasによるものだ。 Upstairsをはじめ、コーヒーショップ、クラブスペースなどそれぞれの空間に合わせて作られたスピーカーは音とデザインがひとつひとつ違うので、視覚と聴覚の両方で堪能してほしい。

店内から中庭に出ると、そこにも席が置かれていた。 そしてその裏手に位置するのが「Sound Room(サウンドルーム)」と名付けられたクラブスペースだ。

Public Records
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室内にはOjasによるカスタムメイドのスピーカーが四隅に設置されている。 ダークカラーのフロアとウッドが張られたスペースは音響効率を考えてデザインされており、音と踊りに集中できる空間になっている。

広々としたDJブース内は動けるスペースを十分に確保しており、レコードバッグを楽々と置ける棚も設置されていた。 ゲストのDJたちが快適に使用できるようにこだわったそうだ。 使用しているロータリーミキサーはロンドンのISONOEとコラボしたPublic Recordsの特注品で、ミニマルなデザインと音質の良さが際立つ。 しっかりとした照明設備も備わっており、音と光で感性を刺激する。

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2019年のオープン以来、ローカルのDJはもちろん、海外からトップDJを招いて週末を中心にパーティーを開催してきた。 クリエイティブなコミュニティの基点としてFloating Points(フローティング・ポインツ)やFKA Twigs(FKAツイッグス)、Angel Olsen(エンジェル・オルセン)などのイベントを主催。 さらにはJohn Coltrane(ジョン・コルトレーン)の未発表アルバムのリスニングパーティー、SupremeやMaison Kitsuneのアフターパーティーなど、あらゆるアーティストやブランドと連携してきた。

しかしPublic Recordsの根底にあるのはハンドメイドで造り出される温かみ、サステナビリティ、そして若いクリエイターを支援していくことだ。 「インデペンデントでまだあまり名を知られていないが若手アーティストや媒体を支持していきたい」と自身もミュージシャンでありレコードレーベルも運営するFrancisは話した。

春先にはアウトドアスペースを新しくオープンさせて、そこでもOjasのサウンドシステムが設置してDJを介したイベントを開催する予定とのこと。 ニューヨークを含めた国際的なクリエイティブ・コミュニティの拠点として、今後はさらにその存在感を増していくであろう。

Public Records

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233 Butler St. Brooklyn NY, 11217
TEL 347-529-4869
営業時間
月曜定休
火、水、木曜日 10AM – 5PM, 6PM – 10PM
金、土曜日 10AM – 5PM, 6PM – 4AM
日 12PM – 5PM

HP

Photos & Words by Masahiro Takai
Text Edit by May Mochizuki