レコードプレーヤー『AT-LP70XBT』は、初心者でも簡単に操作ができるフルオート機構とBluetooth機能を備えたモデル。前回は、オーディオライターの炭山アキラさんが基本的な操作性や再生の傾向を、試聴を通して解説しました。

続編となる今回は、AT-LP70XBTが対応するAT-VM95シリーズの交換針に注目。針先形状の異なる複数の交換針を装着し、クラシック、ジャズ、ポップスを試聴しながら、針の違いが再生音にどのような変化をもたらすのかを見ていきます。

交換針で音はどう変わる?まずは接合楕円針『AT-VMN95E』を試聴

AT-LP70XBTで非常に注目するべきポイントは、簡単に交換針を取り替えていろいろな音質を楽しみ、また再生音の品位を大幅に高めることができることです。付属のトーンアームはヘッドシェルどころかカートリッジを取り外すこともできず、カウンターウエイトもありません。「それじゃどうやってカートリッジを交換するの?」と疑問に思った人がおいでかもしれませんが、このアームは先端にオーディオテクニカのVMカートリッジAT-VM95シリーズの交換針が装着できるようになっているのです。

AT-LP70X
写真はレコードプレーヤー『AT-LP70X』

デフォルトは接合丸針の『AT-VMN95C』が装着されていますが、これをまず接合楕円針の『AT-VMN95E』へ取り替えてみましょう。

クラシックは一気に音数が増え、特に高域方向へ向けて音が伸びるようになります。弦は艶やかですが、伸びた分だけ僅かに耳へ刺さる部分も出てきます。穏やかで音が太くバランスの良い接合丸針と、どちらを選ぶかは悩ましいところですね。

ジャズはボーカルやパーカッションが高域までスッキリと伸び、明るく切れ味良い表現になりますが、古いレコードではちょっと音溝の歪みっぽさも耳につきやすくなってきます。私がジャズ、特に古めのレコードを聴くなら丸針がいいかな、と思わないでもありません。

ポップスは、アコースティックなボーカルものよりもガンガンくるロックの方が向いているかな、という印象です。ピシリとピントが決まった切れ味の良さ、音像がグイグイ前へ出るドライブ感など、AT-VM95Eそのものが “ロックな音” といっていいように、ずいぶん以前から感じています。

無垢楕円針が描き出す情報量。『AT-VMN95EN』の再生傾向

続いて、無垢楕円針が装着された『AT-VMN95EN』を取り付けましょう。クラシックは一気に音数が増え、オーケストラの姿が一層クリアに見えてくるようになります。ホールトーンは深く響き、澄み切ったホールのイメージを伝えてくれることには驚きのほかありません。うん、クラシックの特にしっかりした録音のレコードをより高度に再生したいなら、やはりこのクラスから上のグレードが欲しくなるな、と感じてしまいます。

一方ジャズは、シンバルやタンバリンなどが明らかに音色が澄んで生々しく響き、声も伸びやかさと抑揚の表現力が段違いです。しかし接合の丸針も、全体に粗削りではあるけれど、あれはあれでジャズの “魂” のようなものを表現するのが得意だった、とも感じました。

ポップスは、ロックでは少し音がジェントルになってしまった感があり、こちらの方が明らかにハイファイではあるのですが、接合楕円のガッツある音も楽しかったな、という気がしてしまいます。一方、より穏やかなボーカルものは、明らかに無垢楕円のナチュラルさ、情報量の多さが生きました。価格順で音が良くなっていく、という単純なことではない、というのが実に面白いじゃないですか。

接合楕円針と無垢楕円針で、レコードの音溝に当たる針先の材質と形状は、ほぼ同一と考えて差し支えありません。なのになぜ、こんなに大きな音質差が生ずるのか。無垢楕円はもちろん全体がダイヤモンド製ですが、接合楕円はチタンの円柱に小さなダイヤの針先を接着してあります。チタンは軽くて音の伝わる速度が速い、優れた素材ですが、それでもダイヤモンドにはかないません。やはり無垢ダイヤより重くて音溝の追従性がごく僅かでも下がり、音の伝わる速さが遅いということは、それだけ情報量が減ったり余分な音がついたりしやすい、ということになります。

AT-LP70X

音場と精度を引き出すマイクロリニア針『AT-VM95ML』

お次は、オーディオテクニカが長年にわたって高級カートリッジに採用してきたラインコンタクト針の定番、マイクロリニア(ML)針『AT-VM95ML』を試してみましょう。クラシックはもうまるで同じプレーヤーだと思えないくらいに音の品位が上がり、弦やピアノの深い艶、前後左右上下に深く広がる音場、そして音楽全体がヒラリと身を翻しているような軽やかさ、俊敏さに思わず耳を奪われてしまいます。プレーヤーの半額くらいにもなる高価な交換針*ですが、逆に6万円台でこんな音のプレーヤーがあったらそれは夢のようだ、という風に言い替えてもよいと感じました。

ジャズもパーカッションやピアノがウキウキと心沸き立つような軽快さ、色鮮やかさで表現されます。ボーカルも抑揚がとても豊かで、ゾクッとするような生々しさも聴かせてくれます。その一方、少しだけ音像が細身でどこか冷静な演奏に感じさせる部分もあり、そういうところは接合丸針や無垢楕円の味わいも捨て難いな、と感じるところがあります。

ポップスはロックがちょっとクールに過ぎる鳴り方になり、ボーカルものは声の抑揚が良くフレッシュで生きいきと響くようになりました。非常によく整えられた、聴き心地満点の再生音です。

*公式オンラインストア価格 ¥25,300(税込)

安定感と厚みを備えたシバタ針『AT-VM95SH』

さぁ、交換針試聴の最後はシバタ針『AT-VM95SH』です。一番価格も高い交換針ですが、これは大半が針先の調達コストの違いによるもので、価格差が即ちグレード差を表しているわけではないのだとか。

クラシックは、ML針よりグッと分厚く落ち着いた質感を聴かせてくれます。品位の高さは甲乙つけ難く、音数の多さ、再生レンジの広さも両者拮抗という感じで、MLが俊敏で軽やかに舞う感じ、シバタがどっしりと大地に根を下ろした安定感と存在感の太さ、という印象があります。それほど大きな価格差ではありませんし、これはどちらの表現をあなたが好むかによって、使い分けられるべきバリエーションだ、といっても差し支えないでしょう。

ジャズは音像の一つひとつに血が通ったような温かさが吹き込まれ、実にいい感じで鳴り響いてくれました。大変なハイファイとジャズっぽい音の太さ、コクを兼ね備えた、とても幸せな音というイメージです。

ポップスはロックも結構分厚くホットに鳴らしますし、音溝の内容をかなり忠実に再現しているのであろうという印象もあるのですが、接合楕円が聴かせるある種「好ましき乱暴さ」のようなものはなく、若干AORっぽい表現になるのが面白いところです。

一方ボーカルものは声のコクが深く、実に美しく有機的なハーモニーを聴かせます。バックの演奏はやはりMLよりどっしり安定した感じで、コクの深さも印象に残ります。

AT-LP70X

1台のAT-LP70Xで、ここまでいろいろな音を楽しむことができる、ということが分かりました。Bluetooth機能の有無は、あなた自身の必要に応じて選ばれるとよいでしょう。それ以外の機能性は全く同じです。

AT-LP70Xをレコード再生入門として購入したら、まずデフォルトでしばらく楽しみ、しばらくして交換針をいくつか買ってみる。あるいはターンテーブルシートを交換したりしてみる。そうすることで、このプレーヤーは面白いように音楽の表現を違えてくれます。とてもフレンドリーな存在のプレーヤーですが、意外と奥が深いマニアックな製品ということもできるでしょう。

AT-LP70XBT

AT-LP70XBT

レコードプレーヤー(ワイヤレスターンテーブル)

商品の詳細を見る

Words:Akira Sumiyama

SNS SHARE